海外で臓器移植は美談か? ZOZO前澤友作社長と坂上忍氏の「心臓病男児支援」に反論する

海外で臓器移植は美談か? ZOZO前澤友作社長と坂上忍氏の「心臓病男児支援」に反論する

  • 文春オンライン
  • 更新日:2019/07/09

ときどきテレビで報道される渡航移植ですが、これは本当に美談なのでしょうか?

やや旧聞に属する話ですが、1月13日にサンデー・ジャポンで拡張型心筋症を患い海外での臓器移植が必要な3歳児「おうちゃん」の特集が報道されました。これを見たZOZO前澤友作社長が「おうちゃん」の支援をする、とSNSで表明したことから支援の輪が広がりました。しかしこの活動に反対する人も少なからずいました。

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©iStock.com

そうした中、1月22日にはバイキングで坂上忍氏が「なんで今回の件で否があるのか分からない」「やってから言えと」と海外移植の支援に否定的な方に真っ向から反論しました。

なぜ海外移植には4億円かかるのか

わたしは一人の医師として前澤社長の行いや坂上氏の意見が広がることに大変危機感を持っています。移植医療に対しては最悪に近い方向だと思い、ブログで意見を述べたところ、予想以上に多くの反響をいただきました。

そもそもアメリカでの渡航移植に3~4億円かかるのはなぜでしょう? 多くの方は心臓移植が先端医療だからだと思っているかもしれません。しかし実は、臓器移植にかかる金額は11年前の2008年から急に上昇したのです。

2008年に国際移植学会は「イスタンブール宣言」を採択しました。海外渡航による臓器移植は実質的に臓器売買なので、このような移植ツーリズムを防止しましょう、それぞれの国で移植を行うように環境を整えましょう、という内容です。

イスタンブール宣言は大きな影響がありました。特に中国、フィリピンへの移植渡航が激減しました。アメリカでは移植実績の5%までしか外国人の移植を認めず、オーストラリアやドイツでは外国人の移植は認められなくなりました。

お金で「列」に入った日本人が先に移植手術を受ける

アメリカでは心臓移植の場合、2008年までは前払い金としてのデポジットは3000~8000万円だったのですが、イスタンブール宣言以降は1~4億円と急上昇しました。

本来、並べないはずの移植の列に外国人が高額のデポジットで入ります。日本の移植患者は状態が悪くなってから渡航しますので、移植待機の列に入ることができると緊急性が高く優先順位が上がります。結果的に移植を待っている現地の人よりも、お金で列に入った日本人が先に移植手術を受けるということが多くなります。

アメリカはデポジット上昇の理由を明らかにしていません。しかし日本人が経済的に裕福であり、その経済力を武器に移植を行う傲慢さを抑制し、アメリカの移植患者の不満を解消するためではないかと考えられています。

つまり、

・海外で移植を行うことを移植ツーリズムといい、世界的に非難されている
・各国がそれぞれ自前で移植を行える体制をつくるべき
・外国人の臓器移植を受け入れる場合、多額のデポジットが必要

これが世界の移植医療の考え方になっています。

なぜ日本では今でも移植できないのか

では、なぜ日本国内で移植医療が進まないのでしょう? 簡単に言うと日本では脳死にともなう臓器移植は最初の段階で叩かれ、つまずいてしまったのです。

1968年に札幌医科大学の和田寿郎教授が、日本で初めて心臓移植を行いました(和田移植)。日本初の心臓移植に対して賛否両論がまきおこりました。マスコミは騒ぎ、無関係の大阪の漢方医が裁判をおこして大混乱でした。移植を行った和田教授も脳死判定をきちんと行っていない可能性があり、患者から摘出した心臓が行方不明になり、もどってきた心臓の弁があわない、とずさん極まりないものでした。

しかし、海外でも心臓移植が始まった時期は次々に死亡例が報告され、移植医は数多くの訴訟にまきこまれました。移植医療の黎明期には世界中で多くの葛藤があったのです。それでも欧米では心臓移植を続け、移植医療は確立していきました。

日本では、残念ながら移植医療は凍結されてしまいました。和田移植は日本の学会では検証もされず、臓器移植はタブー視されました。1997年にできた臓器移植法も、あまりの厳しさに関係者の間では「臓器移植禁止法」と言われました。そのため和田移植に次ぐ脳死移植には1999年まで31年間も待たなくてはいけませんでした。

今でも移植が進まないのはなぜか

現在、日本で行われている移植手術の成績はかなりいいのです。移植までこぎつけると世界的にも優れた結果が出ていますが、移植手術にたどり着けないのが日本の実情なのです。

日本で臓器移植が進まない理由の一つに圧倒的なドナー不足があります。日本の移植待機患者は1万4000人いると言われていますが、1年間で実際に移植ができるのは2%しかいません。脳死下の臓器提供は2018年には66件にとどまっています。先進国としては異常に少なく、アメリカの30分の1、韓国や台湾の10分の1程度しかありません。

世界一移植を行っている国はスペインです。スペインでは臓器提供をしたいと思っている人は40.3%います。逆に言うと、世界で一番移植を行っているスペインですら4割の人しか臓器提供をしたいと思ってはいないのです。

実は日本ではスペインよりも多くの人が臓器移植に前向き

そして日本で臓器提供をしたいと思っている人は41.9%います(平成29年、内閣府「移植医療に関する世論調査」)。日本では世界一のスペインよりも多くの人が臓器移植に前向きに考えているのです。これは驚異的な数字です。

しかし日本では臓器提供の何らかの意思表示をしている人はたったの12.7%しかいません。ここに日本の移植医療の最大の問題があります。日本が意思表示をしている人からのみ移植を行う「オプトイン」方式を採用している以上、意思表示が絶対的に必要なのです。

スペインなどで導入されている、移植を拒否していない人は移植に同意しているとみなす考えを「オプトアウト」方式といいます。海外では「オプトアウト」方式の国が移植数を伸ばしています。

もし日本の社会が「オプトアウト」方式を受け入れるのなら、劇的に移植数は増えると思います。しかし、日本では従来のやり方から大きく転換する「オプトアウト」方式はすぐには導入できないと思います。日本が「オプトイン」方式のままでいくのなら、移植意思の表示をする絶対数が必要なのです。

臓器提供の意思表示は「あげたくない」でもいい

ブログに対する反応で私が一番驚かされたのが、「ドナーカードを書かせるなんて人権侵害だ」という意見でした。「意思表示をしてください」「ドナーカードを書こう」と書くと、びっくりするほど反対意見が出ました。多くの方は「臓器提供意思表示カード」、通称ドナーカードの存在は知っているようでしたが、臓器提供を強要していると思われている方が多くいたのです。

移植に関しては4つの権利があります。死後に臓器を「あげたい」「あげたくない」、あるいは移植が必要なときに臓器を「もらいたい」「もらいたくない」という権利です。この中で、臓器を「あげたい」という方から「もらいたい」という方につなげることが臓器移植という「いのちの贈りもの」なのです。

まずは、臓器提供に対する意思を表示してもらうことが大事です。「あげたい」でもいいですし、もちろん「あげたくない」と回答しても構いません。とにかく1割の人しかしていない意思表示を、もっと多くの人がするべきだと思います。

社会的な地位や知名度のある人に本当にやってほしいこと

ここまでお読みいただいて、聡明な方には問題点がわかってきたと思います。今回は日本の移植医療の経緯とともに3つの問題点を取り上げてきました。

第一に、誤った認識である「移植はお金を集めて海外でやるもの」という移植ツーリズムを報道で広めるのは良くないということ。第二に、日本は移植技術があり、国民の意識も高いのですが、圧倒的にドナーが足りていないということ。第三に、移植の4つの権利を多くの人が知らないということです。

まず前澤社長や坂上氏が、SNSや公共の電波を使って移植ツーリズムを推し進めるという認識の低さに絶望します。そして第二の問題点である日本のドナーを増やそうとする努力はありません。第三の問題点である移植の4つの権利は、移植議論の土台となるべき前提ですが、おそらく認識すらされていないと思われます。報道などでも取り上げられることはほとんど皆無です。

前澤社長と坂上氏の努力は方向が間違っています。とても影響力がある方々ですから、もし前澤社長がこう言ったら絶賛されることでしょう。

「ZOZO利用者でドナーカード書いた人には4億円分の割引します」(100円割引で400万人ドナーカード記載!)

「ZOZOの全社員にドナーカード書かせます」(もちろん、臓器提供を「する」「しない」はどちらでもいい)

あるいは坂上氏が、

「テレビを見ている人、みんな運転免許や保険証でドナーカード記載しよう」

と言ってくれたら、日本中の移植関係者はむせび泣くと思います。

「政治家全員、ドナーカード記載を立候補条件にしろ」

「みんなが移植の4つの権利を知らないのは政治の怠慢だ」

と政治批判するなら、拍手喝采することでしょう。

このままでは10年後も同じように募金活動

でも実際にはいつまでも、

「金をあつめて海外で移植」

「金も出さないで何言っているの」

という次元で移植が語られているのが本当に残念です。

私は今回の前澤社長、坂上氏の行動や発言内容は日本の移植について最悪に近い方向だと思っています。移植医療にとっては二重、三重に悪手です。

まず、イスタンブール宣言の趣旨に反する渡航移植を行うことによって海外で非難されるという倫理的、道義的な問題があります。そして、日本の移植医療の根本的な問題であるドナー不足に世間の注目が集まらず、結果的により多くの患者が救われる機会が失われてしまいます。それにもかかわらず有名人が繰り返し支援をすることで、海外移植が正しいことだと多くの人が思いこんでしまいます。

目の前で困っている子供がいると多くの方が言いますが、これらの問題点を一切解決しないまま移植ツーリズムのために高額募金を集める切羽詰まった報道が10年以上繰り返されています。このままでは10年後にも同じように募金活動をしていることになります。渡航移植を美談にせず、日本の移植医療が変わってほしいと願っています。

・参考文献
1)「臓器移植法施行から20年:わが国における臓器移植の現状と展望」日本医師会雑誌第146巻第9号
2)公益社団法人日本臓器移植ネットワーク ホームページ(令和1年7月5日閲覧)
3)「脳死と臓器移植の問題」山内 義廣 法政論叢 46(1), 192-204, 2009

(中間管理職)

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