「それはセクハラです」と声を上げ続けるしかない 刑法改正による強姦罪の厳罰化

「それはセクハラです」と声を上げ続けるしかない 刑法改正による強姦罪の厳罰化

  • サイゾーウーマン
  • 更新日:2016/12/01

芸能人の強姦事件から職場のセクハラまで、女性の性的な被害が話題にならない日はない。なぜ被害はなくならないのか? セクシャルハラスメントの問題に詳しい太田啓子弁護士に話を聞く。今回は、刑法改正による強姦罪の厳罰化について解説してもらった。

(第1回はこちら)(第2回はこちら)

■相手の不快感に気づかない鈍感さ、無神経さこそが問題

――セクハラでも、裁判は個別の判断ですから、判決もバラバラの印象があります。

太田啓子弁護士(以下、太田)司法試験の科目に「ジェンダー」はありませんし、ロースクールでも、司法試験に合格した後に通う司法研修所でも、ジェンダーバイアスの問題を勉強することが必須ではないはずです。ですから、裁判官によって、かなり個人差があるというのが正直なところかと思います。

法律関係者も、必ずしも、社会内にあるバイアスから自由ではないですから。とにかく根本的には、社会全体で、性暴力とはどういうものか? とか、意に反する性暴力であっても、どうして明確に拒否できないことがあるのか? などの理解が深まらなければいけないとずっと考えています。

――実際には女性の意思には反していたのに、「女性は合意していた」と男性側は思う――というようなことが、どうして起きるのでしょうか?

太田こういう認識のギャップは、加害者側の「認知の歪み」という言い方が当てはまるかと思いますが、本当にどうして、このシチュエーションで、相手の女性が合意していたとあなたは思えるのか? と感じることがあります。

――「無理やりの強姦」ではなくて、「合意の上でのセックス」と思ってしていた、ということですね。

太田そうです。

――でも、女性の側は「合意ではなかった」と反論しますよね?

太田はい。私は、過去に何度か「合意していない」と主張する被害者の代理人を務めていますが、加害者は「セックスなんかしてない!」と反論するかと思いきや、「合意してたじゃないか!」と主張するわけですね。しかし「なぜ彼女が合意してたとあなたは思えるの?」と、呆れることは本当に多いです。

こういう認識のギャップについては、牟田和恵先生(大阪大学大学院教授)の『部長、その恋愛はセクハラです!』(集英社新書)に大変詳しく解説されていますので、是非お勧めしたいのですが、本当に多くのケースで、男性は「彼女も合意していたはず」だから、「強姦ではない」と言うんですね。そして、そう考えた理由を問うても、よくわからない答えしか返ってこなかったりします。

たとえば、ある女性新入社員が、職場での歓迎会の帰りに、男性上司に「送る」と言われ、断ってもしつこく「送る」と言うので、やむを得ず上司と一緒に歩き、たまたま一番近道だからという理由で公園を通ったところ、上司のほうは「人気のない公園をわざわざ歩くなんて、俺に気があるんだな」と感じ、彼女にキスをしたと。彼女は嫌だったけれど、上司に強くは抵抗できずにいたところ、上司は「これはいける」と思い込み、その後も頻繁に誘うなど、行為をエスカレートさせていった……など。

こういう、当事者の認識のギャップの大きさは、本当に驚くほどです。

――男性側に、悪気はないということですね。

太田そういうことでしょうね。嘘をついているという自覚ではなく、本気で「相手が嫌がっているとは思わなかった」と言っているのだろうと思うことも、よくありますよ。しかし問題は「嫌がっているとは思わなかった」こと自体だと思うのです。相手の不快感に気づかない鈍感さ、無神経さこそが問題です。

しかし裁判で「合意がなかったこと」とか、「女性が嫌がっていることを男性側が認識していたかどうか」を立証するのは、とても難しいのです。女性はかなりの勇気を振り絞って被害届を出しているのに、法廷で主張が認められないことも多く、さらに傷ついてしまいます。声を上げてもムダだと思って泣き寝入りしている女性は、かなり多いと思います。

■明治以来の刑法大改正で強姦罪も厳しく

――刑法は、どのように改正されるのですか? 来年の通常国会で性犯罪規定に関する刑法改正案が提出される予定で、これは1907年(明治40年)制定以来、初の大規模改正といわれています。

太田明治時代という、女性に選挙権も被選挙権もない時代に作られた刑法の性犯罪規定が、戦後70年以上改正されずに生きていたというのは、冷静に考えれば、あってはならないことだったのではないでしょうか。男性の被害もありますが、しかし圧倒的に性犯罪の被害を受けやすいのは女性です。その女性の経験値や意見を反映しないで作られた刑法で、今まで性暴力は裁かれてきたということに、改めて怒りを覚えます。

明治時代、女性は一人前の権利主体ではなく「男性の付属品」「所有物」のような扱いでした。性犯罪も、個人の性的自由を侵害する犯罪というより、社会の風紀を乱す犯罪というようなところを重視していたのではないでしょうか。条文の位置が、殺人罪や窃盗罪などの個人的法益を害する犯罪群のところではなく、前後に賭博罪や偽証罪などがある、社会的法益を害する犯罪群のところにあったりしますしね。

また、強姦罪と強制わいせつ罪で法定刑が違うのは、妊娠という結果を招く危険性がある犯罪のみを特に強く罰するという発想なのでしょうから、被害者本位の規定ではありません。

現行の強姦罪(第177条)は「暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、3年以上の有期懲役に処する。13歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする」としていて、ここでいう「姦淫」とは「膣内に陰茎を入れること」だけを指します。膣内に大人のオモチャのような異物を入れることや、陰茎を挿入するのが肛門とか口であれば、「強姦罪」ではなく「強制わいせつ罪」、つまりより法定刑が低い犯罪類型に該当するということになってきました。

しかし、被害者側からみれば、いずれも同じくらいに尊厳を傷つけられ、性的自由の侵害の程度は変わりませんよね。「膣じゃなくて肛門だったから、まだよかった」とは、普通は感じないのではないでしょうか?

法務省の法制審議会(刑事法〈性犯罪関係〉部会)が何回か検討を重ねて、平成28年6月の審議会議事録資料として、「要綱(骨子)修正案」が公表されています。

今回の改正案では「被害者の肛門内又は口腔内に陰茎を入れること」と、「行為者又は第三者の膣内、肛門内又は口腔内に被害者の陰茎を入れる行為」も「強姦罪」として処罰するという内容が盛り込まれ、肛門性交や口腔性交、いわゆるアナルセックスとフェラチオを強要することも「強姦罪」に入るという内容です。こういう内容ですので、被害者が男性の場合であっても、肛門性交や口腔性交を強いられた場合には「強姦罪」での処罰が可能となります。法制審議会(15年11月)では、「いわゆる肛門性交及び口淫は陰茎の体腔内への挿入という濃厚な身体的接触を伴う性交渉を強いられるものであって、姦淫と同等の悪質性、重大性がある」と説明されています。

■先輩方が声を上げてきたのは、無駄ではなかった

――確かに、悪質性でいえば同じですね。「今さら」感もなくはないですが、前進はしているのですね。

太田はい。国際的に見て、まだ遅れているところはありますが、これからも実態に合わせて法整備を進めていければと思います。

外国の例を見ると、たとえばフランスの刑法では、強姦罪で刑が加重される場合として「被害者に対して権限を行使できる立場にある者によってなされた強姦」とか「職業上の権限を付与された者がその権限を濫用することによって行った強姦」というのがあるそうです。現場では、まさに上下関係がある人間関係でにおいてこそ、被害者が強く拒否できず、それに乗じて性暴力が行われていることが多いわけですから、これは非常に現状に即していると思いました。

ほかにも参考にしたい外国の規定はいろいろありますが、どれくらいうまく運用できているかなどは私もまだ不勉強です。それぞれを参考にしつつ、日本の規定も前進させていってほしいと思います。

――少しずつでも進めばいいですね。こうしてみると、セクハラの被害は減らないようでいても、30年前よりは20年前、20年前よりは現在のほうが改善されてきています。

太田今まで私たちの先輩方が声を上げてきたのは、無駄ではありませんでした。セクハラ被害をゼロにするために、これからも繰り返し声を上げていきたいと思っています。

あとは、教育も重要ですね。私にも2人の息子がいるので、子ども向けのアニメで脈絡なく女の子の入浴シーンが出てきたり、スカートの中をのぞきかけて女の子に怒られてもへらへらニヤニヤとしか謝らないような場面が出てくると、「こういうのは絶対ダメなんだよ! 女の子はすっごく嫌なのを、わかっておくように」と話すようにしています。子どもたちもわかってきていて、テレビでそういう場面があると、先手を打って「ママ、アレはダメだね」と言うようになっています(笑)。
(蒼山しのぶ)

太田啓子(おおた・けいこ)
国際基督教大学卒業、2002年に弁護士登録。「神奈川県弁護士会」「明日の自由を守る若手弁護士の会」所属。主に家族関係、雇用関係、セクハラ、性犯罪問題などを取り扱う。「怒れる女子会」や「憲法カフェ」などの活動を通じて、セクハラや憲法改についての問題提起も続ける。

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