「パフェを食す」という行為が、いつの間にか予約制になっていた話

「パフェを食す」という行為が、いつの間にか予約制になっていた話

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/07/13
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あの背の高い食べ物

パフェブームの話をする。

日本で一定の期間を生活してきた人なら、「パフェ」と言われて、何のことだかさっぱり分からないという人はいないだろう。あの、背の高いグラスに果物やクリームが華やかに盛られたデザートのことである。一方で、日常的にパフェを食べる人は少なく、大人になってから一度も食べていないという人も多いのではないか(パフェは「知っていること」と「食べていること」のギャップが大きくなりやすい食べ物である)。

この文章はパフェを食べ慣れていない人を念頭に書き進めるので、安心して読んでいただきたい(そしてあわよくばいつの間にかパフェを食べたい気分になってほしい)。

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喫茶まりも(2017年に閉店)の「プリンパフェ」(著者撮影)

【写真はこちら】進化するパフェ世界

五感を研ぎ澄ませて

まず、他の飲食物に比べて顕著な、パフェの三つの魅力をお伝えしておこう。

一つは、パフェは五感を総動員して楽しめるということだ。パフェというとどうしても見た目重視という印象があるかもしれないが、香り、味、舌触りや食感、シャリシャリ、サクサクとした音まで、視覚以外の要素も非常に重要であり、大きな魅力となっている。

二つめとして、その場でしか食べられない「ライブ感」である。パフェは作ったその場で食べるスイーツなので、時間が経ったら溶けたり、混ざったり、湿ったりしてしまう素材をそれぞれのベストな状態で提供できる。ケーキでは使えないアイスも使え、果物は鮮度を保ち、サクサクの素材は食感を失わないうちに。だからパフェは、すべてを最もおいしい状態で食べることのできるスイーツなのだ。最近はカウンター形式で、目の前で作ってくれるお店も増えている。そこでは音楽の生演奏のように、目の前でパフェが紡ぎ出されるのを見る楽しみもある。

最後に、物語性である。パフェの多くは背の高いグラスに入っており、層構造があり、「順番」があるというのが他のスイーツにはない特徴だ。順番があるということは、パフェの創り手が物語のような起承転結の展開をつけられるということだ。だから食べ手にとっては、どのような物語かを味わい、読み解くというのがパフェの楽しみとなる。

まとめれば、パフェはその場で食べるがゆえのライブ感があり、それゆえに五感を様々に刺激される。それが層を成すことで、物語的に楽しむこともできる、ということになる。お分かりのように、この三つの魅力は互いに連関し合っている。

インスタにパフェが溢れている

さて、世はパフェブームの真っ最中である。私はここ5年間は年間300食を上回るペースでパフェを食し、その動向を追っているが、私の体感では3年ほど前からパフェがブームとなり、今もその勢いは持続している。雑誌の特集が増え、表紙を飾ることも多くなり、テレビで取り上げられることも珍しくなくなった。

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Instagramより

ブームの大きな要因は、やはりSNSでの写真映えということになる。パフェは背の高いグラスを使用することが多いため、立体感が出せるという特徴がある。グラスの上を華やかに盛り付ける手法も様々に進化し、見た目の多様性もある。Instagramではパフェのタグ(#パフェ)がつけられた件数は130万件を超え(もちろんこのタグがつかないパフェ画像も多数ある)、一日数千件のパフェ画像が新たにアップされて、その画像についてコメントや「いいね!」などの膨大なコミュニケーションが発生している。

3000円オーバーパフェの出現

パフェがブームになる以前は、「1000円の壁」があったように思う。多くの人の原体験が街の喫茶店かファミリーレストラン(以下ファミレス)のパフェであるために、1000円を超えるパフェは高い、という感覚があったのではないか。しかし、パフェそのものの進化とSNS文化の盛り上がり、そしてその場でしか味わうことのできない体験の価値が高まったこともあり、パフェの1000円の壁は壊れた。

大人が食べるものとしてのイメージづけも進み、いまや3000円を超えるパフェも都内では見かけるようになった。一方、安価ながらオリジナリティを出したパフェメニューも飲食店で見かけるようになる。フルーツパーラー、パティスリー(お菓子屋)、カフェ、喫茶店、ファミレス、チェーンの回転ずし屋、百貨店の物産展、コンビニ…。現在、ありとあらゆる飲食店でパフェが出されている。

大衆化あるいは芸術化

以上のこと――パフェがどこでも食べられるスイーツになる一方で、高級化も進んでいること――を、大衆化(日常化)と芸術化(高級化)の二極として論じていきたい。前者はいつでもどこでも気軽に食べられる利便性の向上、後者は高級食材の使用や様々な調理技巧により、美しさやおいしさを追究する方向性のことである。

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photo by iStock

その傾向は、端的には最近のファミレスのパフェに現れている。パフェやサンデー(ここではパフェとサンデーの区別は問わないことにする)に力を入れている、首都圏のファミレスとして挙げられるのがデニーズ・ジョナサン・ココスであるが、ここ数年は季節ごとにサイズの異なるパフェメニューを2~4種揃え、シチュエーションに応じたパフェを楽しめるようにしている。

パフェというと量が多いというイメージがあるかもしれないが、最近は食後にもちょうどよいミニサイズのパフェを用意するファミレスが増えている印象だ。こうしたパフェメニューは300~800円くらいまでの価格で、比較的お手頃な値段であり、いつでもどこの店舗でも注文できるのが一般的である。

ファミレスで高級パフェを食す

一方でこれらのファミレスでは、昨年から今年にかけて、季節によって1000円を超えるパフェを出す事例が見られるようになった。たとえば以下のとおりである。

デニーズ「苺苺苺苺苺苺苺苺苺苺苺!(いつまでもどこまでもいちご)のザ・サンデー2019」
1,399円(税込1,510円)、2019年春
ジョナサン「完熟フレッシュマンゴー2個分!マンゴータワーパフェ」
1,299円 (税抜)、2019年夏
ココス「贅沢!まるまるマスカットのご褒美パルフェ」
1,190円(税抜)2018年秋

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デニーズ「苺苺苺苺苺苺苺苺苺苺苺!のザ・サンデー」※写真は2018年のもの(著者撮影)

これまでファミレスで1000円を超えるというパフェはなかなか考えづらく、筆者も衝撃を受けた。ちなみにデニーズとジョナサンについては、これらのパフェを提供する店舗や時間帯は限定されていた。

自己表現の手段として

あらためて、パフェの大衆化(日常化)と芸術化(高級化)について、他の具体例も挙げながらまとめてみよう。

パフェの大衆化は、パフェのブームを受け、よりパフェを効率よく生産し(オペレーションの効率化・誰でも作れる体制の構築)、なるべくいつでもどこでも食べられるようにという体制へ向かうことである。それは端的には店舗の増加という現象として現れる。ここ数年、フルーツパフェを主力商品とする「果実園」と「フタバフルーツパーラー」の首都圏内での出店が目立ち、また札幌発祥のシメパフェの店も複数首都圏に出店している。

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photo by iStock

一方、パフェの芸術化とは、高級な食材を使用したり、専門的な技法を用いることで独創的なパフェを創作していく方向性である。これが強まるほど、提供に伴うあらゆる限定性が高まる。提供できる期日・時間帯・個数の限定、そして限られた創り手しかパフェを作れないという属人性である。

フルーツ主体のパフェであれば、ある農家で作った高級で希少な果物のみを使用するということで、個数を極端に限定した提供になることがある。パフェの名称が「~農園の…パフェ」となっていることも珍しくない。食材に固有名詞が伴うようになってくるのである。

パティシエが作るパフェで最近目立つのは、完全予約制または期日を数日間に限定したパフェの提供である。代表例は、主に渋谷のFabCafeで約2ヵ月に1回のペースでパフェを発表し続けるパフェ職人srecette(エスルセット)氏の活動である。土日を中心に6~8日間程度に日数を絞り、仕込みも含めて非常に手間のかかった、作品性の強いパフェを提供している。

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Srecette氏によるFabパフェ第17弾 「Eclore」※「E」の上に´(著者撮影)

この他にも、パフェの提供を事前予約に限るパフェのお店、あるいは数日間限定のパフェの出張営業の流れも最近目立ってきている。この場合、もはやパフェが創り手の自己表現の手段にもなっている。

ピラミッド化するパフェ世界

一般に、ある文化事象(エンターテインメント)がブームとなり、それへの参与者(ここではパフェの創り手・食べ手など)が多くなるほど、その文化表現は洗練され芸術化する方向性と、より多くの人を受け入れる大衆化の方向性が生まれ、文化圏が拡大するということが起こるように思う。文化圏をピラミッド型で捉えるなら、頂点が高くなると同時に、底辺が横に広がっていくというイメージだ。

パフェそのもののコンテンツ(文化表現)としての価値を問うならば、芸術化の方向へ行けば行くほどその価値は高まる。しかし、文化の享受者の多くは、必ずしもその文化の芸術性の高さを求めてはいない。コンテンツに対比されるもう一極、コミュニケーションとしての機能が重要となってくる。

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「斧屋氏トークショー@ドゥアン・ダーオのかき氷研究所」にて提供されたミニパフェかき氷

たとえば、ファミレスで複数人数でわいわいとパフェを食べるとき、そこでは3000円の価値のある芸術的なパフェは求められていない。パフェをつつきながらおしゃべりをするという、コミュニケーションのネタ・手段としての機能が重要である。ブームの大きな要因であるSNSの機能を見ても分かるように、パフェを食べたことについてのコミュニケーションそのものにも価値があるのだ。

以上、パフェブームの概況を確認した。夏は圧倒的な人気を誇る桃パフェが各所で登場し、また今年はパフェとかき氷を融合した「パフェ氷」も多く見られる。今後も、その行く先を追うとしよう。

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