最貧困層を救うビジネスの超優良企業...社会貢献の高さ=高収益の相関関係が鮮明に

最貧困層を救うビジネスの超優良企業…社会貢献の高さ=高収益の相関関係が鮮明に

  • Business Journal
  • 更新日:2016/12/01
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「ガバナンス元年」の昨年に続き、今年は「ESG元年」と言われている。ESGとはEnvironment(環境)、Society(社会)、Governance(統治)の略。企業の長期的な成長を担保する非財務指標として、欧米では最近重視され始めている。日本でも昨年、世界最大級の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がESG重視を表明、にわかに注目を集めている。

去る9月27日には、東京・大手町サンケイプラザホールで東洋経済新報社主催の「ESG・CSV Trend 2016」フォーラムが開催された。筆者は、そこで基調講演を行うとともに、パネルディスカッションに登壇した。300名近い経営幹部や機関投資家が参加、会場は熱気につつまれた。

従来、環境や社会に配慮することは、CSR(企業の社会的責任)の色彩が濃かった。そして投資家側は、CSRが企業価値向上に資するとは考えていなかった。せいぜい、ブラック企業という批判や環境コストを事後的に負うという将来のリスク回避のための施策として、ネガティブ・スクリーニングに活用する程度だった。

しかし21世紀に入り、ESG投資が欧米で台頭してきた。ESGを経営の主軸に据えている企業ほど、企業価値の向上も期待できるということが経験的に明らかになってきたからだ。2014年時点において、世界全体のESG投資残高は21兆ドル、世界の全投資額の30%にあたる。全体の投資額に占めるESG投資の割合を地域別にみると、アメリカ30%に対して、欧州では63%に上る。

欧州の優良な機関投資家は、早くからESGに着目してきた。たとえば、今回のフォーラムを協賛したフランスの独立系運用会社コムジェスト。15年末時点で2兆7000億円規模(うち新興国は1兆6000億円弱)の資産を運用している。

特徴的なのは、銘柄のバリエーション時の割引率(ディスカウントレート)の算出に、同社独自の4段階のESGレーティングを採用している点。ESG評価が高いほど割引率が小さくなる。たとえば、ESG評価が最高の場合、割引率が0.5~1%減算され、逆に最低の場合、2%~3%加算される。結果として、ESGへの取り組みに熱心な企業ほど、投資対象となりやすい。

フォーラムに登壇した日本コムジェスト代表取締役の高橋庸介氏は、ESGのような非財務指標を「未」財務指標ととらえるべきと語っている。ESGへの積極的な取り組みは、将来財務的なインパクトをもたらすと確信しているからだ。

●「サステナビリティ新時代」の幕開け

パネルディスカッションには、筆者の紹介で、伊藤園でCSRを推進する笹谷秀光常務執行役員と、フランスのシュナイダーエレクトリック社でアジア地区の社会的責任分野を担当するメリアム・ケロー氏が登壇した。

伊藤園は、前回本連載記事でご紹介したように、次世代CSV(共通価値の創造)であるJ-CSVの代表企業である。笹谷常務は、非財務情報について、ESGがすべての面で重要と主張。昨年はパリ協定でE、国連持続可能な開発サミットが2030年の目標として掲げるSDGs(Sustainable Development Goals)によってEとS、そして日本においてもコーポレートガバナンスコードを通じてGが、それぞれパブリック・アジェンダとして決定づけられた。したがって今年は、ESGやSDGsなどに対応すべき「サステナビリティ新時代」の幕開けであり、経営情報を、世界的な指針を活用して「自分事化」して発信できるかどうかが経営戦略の要諦であると説く。

日本企業には、古くから「三方よし」という経営哲学が脈々と受け継がれてきた。しかし同時に「隠徳善事」が美徳とされてきたが、これでは世界に伝わらない。そこで、笹谷氏は「発信型三方よし」を提唱する。価値創造のストーリーを全社的に共有するとともに、投資家とも積極的に対話して「顔の見える企業」になるべきであると論じる。まさにJ-CSVの旗手らしい直球ストライクの提言といえよう。

●ヒト・モノ・カネを現地でじっくり育てる

一方のシュナイダーエレクトリックは、日本ではあまり知られていないが、100カ国以上でエネルギーマネジメント事業を展開している超優良企業だ。筆者の近著『成長企業の法則~世界トップ100社に見る21世紀型経営のセオリー』では、トップ50位にランクイン。今年9月に米フォーチュン誌が発表した「“Change the World”ランキング」でも24位につけている(なお、伊藤園は18位)。

同社は、約3兆円の売り上げの半分近くを、アジア・アフリカなどの新興国で稼いている。そこでの同社の企業理念が、「Access to Energy」だ。12年時点で世界の13億人が、基本的な人権であるエネルギーへのアクセスを持てていない。同社は新興国において、このような状況を改善すべく、「BipBop」というプロジェクトを展開している。

これは、BOP(Bottom of Pyramid:最貧国)市場において、B・I・Pという3つのソリューションを提供するというものだ。Bは「ビジネス」で、貧困層を対象にした電気ビジネスに取り組む現地企業の創設を支援するための投資ファンドを設立するというもの。Iは「インベストメント」で、貧困層への配電に必要十分(Adequate)な製品・サービスや事業モデルの構築を支援するというもの。そしてPは「ピープル」で、貧困層の若年層に電気技術を訓練し、資金も提供するというもの。

その結果、たとえばインドでは、12年までに300人の起業家(B)を支援し、40万世帯に光を提供するイノベーティブなプラン(I)を開発し、4000人の電気技師(P)を訓練することに成功している。

現地に根を下ろして、ヒト・モノ・カネという経営資産を現地でじっくり育てていく手法は、さすがにかつて植民地政策に長けたフランスの企業らしい懐の深さを感じさせられる。「インフラ輸出戦略」で短兵急に新興国を攻略しようとする日本政府や日本企業は、このシュナイダーエレクトリックのCSV的な経営手法を、しっかりと学ぶべきである。

●企業価値の源泉

パネルディスカッションのなかで、筆者が「社会課題解決と経済価値の向上は、本当に両立しますか」と問いかけると、ケロー氏はこともなげにこう答えた。

「社会貢献は従業員の誇りになります。それが経済価値向上の源泉です」

優秀な人材の確保、そして社員の仕事への情熱そのものが、企業の成長、そして企業価値の向上につながる。日本でも「働き方改革」がようやく始まりつつあるが、それ以前に、社会課題解決に向けた企業としての高い志を示すことにより、社員全員の心に火をつけることが、改めて求められているのではないだろうか。

日本においてもようやく緒に就き始めたESG投資だが、その割合はまだ投資全体の1%にも満たない。欧米に比べ、機関投資家より個人投資家の割合が多いのが、その一因だといわれている。また日本の機関投資家も、ESG投資にはこれまで懐疑的だった。

しかし、GPIFが舵を切ったことをきっかけに、これから大きく流れが変わるはずだ。筆者自身、内外の機関投資家から、CSVと企業価値向上の関係について、助言を求められる機会が増えている。

そのために、今後ますます求められるのが、笹谷氏が指摘する通り、企業経営者と投資家とのESGにかかわる対話(エンゲージメント)だ。

たとえば、筆者が社外取締役を務めている味の素は昨年11月、シスメックスとともに、2015年度「IR優良企業賞」を受賞した。15年に就任した西井孝明社長が積極的なIRを継続し、投資家との対話を経営に生かしていることなどが主な受賞理由だ。なかでも、企業価値の源泉である概念「ASV(=Ajinomoto Group Shared Value)」と経営戦略に一貫性を持たせた説明を行った点が高く評価された。また、今年の3月「ESG関連取り組み説明会」を初開催し、投資家から好評を博した。

長年CSRランキングを発表してきた東洋経済新報社は、今年8月末に、ESGランキングを初公開した。その中で、味の素は10位にランクインしている。ちなみに、トップ10社の顔触れは以下の通りだ。

1.富士フィルムホールディングス
2.アサヒグループホールディングス
3.リコー
4.NEC
5.ブリヂストン
6.コマツ
7.損保ジャパン日本興亜ホールディングス
8.ホンダ
9.KDDI
10.味の素

もちろん、ESGレーティングが高いからといって、株価が高まる保証はどこにもない。企業価値を高めるには、これらの非財務指標を財務指標に確実に転換する経営力がカギを握る。この点は、次回の本連載記事で、さらに考えてみたい。
(文=名和高司/一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授)

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