【小宮良之の日本サッカー兵法書】シーズン中の補強が既存の選手に与える心理的影響はいか程か!?

【小宮良之の日本サッカー兵法書】シーズン中の補強が既存の選手に与える心理的影響はいか程か!?

  • サッカーダイジェストWeb
  • 更新日:2018/02/14
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戦力補強のプラス面と予測されるマイナス面を天秤にかけて、ケパ獲得を見送ったジダン。その判断が正しかったか否かが、この先、明かされることとなる。 (C) Getty Images

冬の移籍市場、欧州王者レアル・マドリーを率いるジネディーヌ・ジダン監督は、アスレティック・ビルバオに所属するGKケパ・アリサバラガとの契約合意に、「待った」をかけている。

覇道を行くマドリーとしては、「格安でスペインの次世代ナンバーワンGKを手に入れられる」という千載一遇の機会だった。半年後には契約が切れるため(=移籍金が一銭も入らなくなるため)、ビルバオ側も渋々と移籍に向かって動いていた。そして契約更新を渋っていたケパも、同じ気持ちだった。

ところが、ジダンが「必要ない」と判断し、話は決裂した。

結局、ケパはビルバオと2025年まで契約を更新している。契約解除金は2000万ユーロ(26億円)から8000万ユーロ(104億円)に跳ね上がった。これで、しばらく移籍の話はないだろう。

クラブフロントは長期的な視野で、編成を行なう必要性に迫られる。その点、有望なケパの獲得打診は、決して間違っていなかった。「数年後には欧州最高GKの座を争う」とも目される実力者だからだ。

しかし、現場は1試合1試合、1日1日が勝負となる。現状、マドリーにはケイラー・ナバス、キコ・カシージャというふたりの有力なGKがいる。もし、ケパがそこに加入した場合、競争力は高まる。

ただ同時に、チーム内に不信感が生まれる可能性も高かった。

「俺たちは信頼されていないのか?」

ふたりのGKはそう感じるだろう。シーズン途中に選手を補強するというのは、とてもデリケートな問題なのだ。

ジダンは監督として、戦術における駆け引きの腕前は凡庸だといわれる。ディエゴ・シメオネやウナイ・エメリに及ばない。また、戦略面でフットボールの質を高める能力も、ジョゼップ・グアルディオラやエルネスト・バルベルデに劣る。

しかし、人事マネジメントは神業的だ。

スター選手たちのエゴをうまく操ることができるし、発奮させ、納得させられる。一方で、責任感の強いプロフェッショナルな選手をリスペクトし、その努力を決して見逃さない。

さらに、若手で野心的な選手には舞台を与え、何より、そのタイミングが適切。昨シーズンは「Bチーム」といわれた若手主体のサブ組が、チーム全体を底上げしていた。

ケパを獲るか否か。

それを突き詰めた時、ジダンは現役時代の肌感覚で、チームに起こる反応を想像したのだろう。プレーヤーはプライドを傷付けられるのを嫌い、傷付けられたと感じた選手のパフォーマンスは、どうしようもなく落ちる。

さらに、その様子を多くの在籍選手が痛ましく感じる。「次は自分に“災い”が降りかかるのでは……」と疑心暗鬼に駆られ、不安が連鎖になりかねない。

有力な選手の加入は、必ずしも単純に足し算にならないのだ。

ケパの獲得を断り、ナバスやカシージャに賭ける――。そこに、ジダンのボスとしての輪郭が見えた。

「他の誰でもない、お前が必要なんだ」

それがジダンのマネジメント。リーダーが人心を掌握するのは、簡単なことではない。

文:小宮 良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『おれは最後に笑う』(東邦出版)など多数の書籍を出版しており、今年3月にはヘスス・スアレス氏との共著『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』(東邦出版)を上梓した。

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