ホンダがアルゼンチンでの自動車生産から撤退決定。過去の栄光から逃れられないアルゼンチンの斜陽

ホンダがアルゼンチンでの自動車生産から撤退決定。過去の栄光から逃れられないアルゼンチンの斜陽

  • ハーバービジネスオンライン
  • 更新日:2019/08/18
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Honda ArgentinaのWebサイト

◆マクリ予備選大敗、そしてホンダの自動車部門撤退発表……

8月11日に実施されたアルゼンチンの大統領予備選挙で現職のマウリシオ・マクリ大統領が対立候補として最も有力視されていたアルベルト・フェルナンデス候補の前に15%の大差で敗北するという事態が起きた。(参照:HBOL)その影響で、アルゼンチン経済がまた混迷の中に陥る可能性が生まれている。

今回の予備選への配慮からだったのか、ホンダが自動車部門の生産を2020年に閉鎖することを発表したのはその二日後の13日であった。一時的な中断ではなく完全に撤退することを決定したのである。この撤退はアルゼンチンのメディアでも重大ニュースとして報じられた。

撤退の理由はアルゼンチン国内経済の極度の不況と輸出で期待していたブラジルも景気が低迷しているからである。

◆決断は東京本社。解雇されるスタッフは?

ホンダがアルゼンチンで販売を開始したのは1978年からである。そして、生産に関してはオートバイの生産を2006年から開始。その3年後の2009年から自動車の生産も始まった。

自動車部門の生産開始には当時大統領だったクリスチーナ・フェルナンデスがオープニング・セレモニーに出席した。彼女の任期満了に伴い彼女が支持したダニエル・シオリ候補を破って大統領になったマクリの政権下でホンダが撤退を決めるという両者の皮肉な組み合わせとなった。(参照:「Politica Argentina」)

今回の撤退の決定に当たって、アルゼンチン・ホンダの役員ディ・パルドはこの決定を下したのはアルゼンチン・ホンダではなく、東京本社であることを明らかにし、「ホンダは今後もアルゼンチンで存在し続け、政府や地方自治体とも今も良好な関係を維持している」と表明した。というのも、今回の撤退についてアルゼンチン政府も事情を理解し、解雇されることになる従業員の転職にも協力する姿勢を示しているからである。

現在、アルゼンチンのホンダでは1050名が働いているが、その内の400名が自動車部門で働いている。残り400名がオートバイ部門そして250名が管理行政部門である。自動車部門が撤退するということで400名が解雇されることになる。この転職先を見つけるのに生産・労働省はブエノスアイレス自治州政府並びに同業者や関連組合などと協力して新たな雇用先を探すことに協力する姿勢を示しているという。(参照:「La Nacion」)

◆社内で噂されていた自動車部門のアルゼンチン撤退

自動車部門の撤退については数か月前から社内で噂されていたそうだ。2016年にホンダは市場景気の危機を感じるようになり、生産の効率化としてオートバイを生産していたフロレンシオ・バレラの工場を閉鎖して、自動車部門があるカンパナの工場に移し、オートバイと自動車を同じ場所で生産することに変更した。

更に、今年初めには販売の落ち込みに対処すべく従業員を解雇するのではなく、700名の従業員に対し労働時間の短縮と給与の30%をカットすることで危機を乗り越えようと図った。しかし、問題は生産台数が自動車の場合15000台の生産能力を備えているにも拘らず2車種HR-VとWR-Vの年間生産台数は僅か9000台で、しかもその70%は国内市場向け、30%はブラジル市場ということで販売の伸びは全く期待できない状況だったのである。結局、今年に入って7月までで販売されたのは僅か6605台、それは国内市場のシェアーの2.2%という非常に厳しい結果を招いていた。(参照:「Clarin」、「iProfesional」)

アルゼンチンにおける自動車の生産台数は2017年統計で47万3000台ということで自動車生産国としての規模は小さいものの、この結果はやはり重くのしかかっていた。

◆インフレによる生産コスト上昇も重石に

ホンダの場合、同社を取り巻く経済事情は極度のインフレなどの影響で生産コストは上昇し、地元の関連企業の閉鎖などから今後も生産を継続することに大きな疑問がもたれていたということなのである。

得意のオートバイ部門においても、7モデル20万台の生産能力を備えているにも拘わらず年間の販売は7万台にとどまっている。ということで、自動車部門とオートバイ部門の両部門において販売低迷に今後も耐えて行く強い疑問がもたれていた。その結果、自動車部門の生産を完全にやめることに決めたというわけである。今後はブラジルとメキシコからの輸入に依存することにしたそうだ。(参照:「Clarin」)

自動車部門の生産が開始された時にはアルゼンチン国内で100万台を供給するというプランをもっていた。しかし、現在まで45万台を供給しただけである。(参照:「iProfesional」)

今回のように自動車メーカーが生産をやめて撤退するというのは初めてのケースだという。しかし、現状のインフレがこの1年で56%を記録し、現在の政策金利は74%ということで、アルゼンチンでは如何なる商売も利益に繋ぐことはほぼ不可能である。しかも、ホンダの場合の輸出市場はブラジルしかない。このような事情下での生産継続は累計赤字を加算するようなものである。

◆景気は悪化、外資も撤退しつつあるアルゼンチン

アルゼンチンは今年に入って5月までで94300人が職場を失っているという。経済が回復する要因になるものは何もない。唯一、国際通貨基金(IMF)がマクリの再選を望んで資金支援をして来たことでデフォルトから免れているというのが現状である。(参照:「Datos macro」、「Politica Argentina」)

アルゼンチンという国は伝統的にインフレの上昇の繰り替えしである。それが第二次大戦以後目立っている。アンデス山脈を背にしてアルゼンチンとチリが国境を分かちあっているが、チリは戦後の資金預金高は18倍に増加したのに対しアルゼンチンは僅か3倍の増加である。(参照:「Libre Mercado

◆チリとアルゼンチン。明暗を分けたものは?

もうかなり以前になるが、この2か国を比較して筆者が「El País」を読んで記憶しているのは次のようなことである。

小学校の先生が、生徒を教えるときに、チリでは先生が生徒に「チリは貧しい国だからみんな努力して頑張りましょう」と教える。

しかしその一方で、アルゼンチンは20世紀初頭の世界をリードした国であったことが忘れられず、現在も国は豊かだと思っている。 だから先生も生徒に「アルゼンチンは豊かな国だった」ということを繰り返すだけで生徒にそれは過去のことで現在は貧しい国になってしまったということを教えようとしないのだという。

【白石和幸】

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身

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