社長が試作品を持参しご祈祷も IT業界に広がる“神頼み”の背景

社長が試作品を持参しご祈祷も IT業界に広がる“神頼み”の背景

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  • 更新日:2018/01/12
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電電宮/お守りを手に持つ藤本住職(撮影/編集部・渡辺豪)

歴史や伝統と縁遠そうな先端技術の世界も最後は神頼み。神さまもニーズにあわせて進化する。

寒風が枯れ葉を揺らす京都・嵐山。「枕草子」や「今昔物語」にも登場する法輪寺は713(和銅6)年、元明天皇の勅願によって行基が創建した。この名刹(めいさつ)の境内に勧請された、「電電宮(でんでんぐう)」という鎮守社が今、IT業界関係者の注目を集めている。電気・電波関係業界の発展を祈願する社で、パソコンなど電化製品のトラブルを防ぐご利益がある、との情報がSNSなどに飛び交っているためだ。

【写真】SDカードタイプも?IT業界で話題のお守りとは…

藤本高仝(こうぜん)住職(58)が言う。

「われわれの日常を考えると、電気やITにかかわりのないもののほうが少ないくらいです。そういう意味では、生活の安全を祈願させてもらっていると考えています」

「電電明神」を主神とする「明星社」は1864年の禁門の変の際に焼失。1956年、仮宮だった社殿を電気・電波関係業界の発展を祈願する「電電宮」として再興したのが、藤本住職の祖父に当たる当時の藤本賢祐住職だった。電電明神はもともと雷・稲妻の神さまとされていたが、賢祐住職が現代風にアレンジし直した。

「電気や電波って人間がつくったもののように思われていますが、例えば電子は太古から原子の中にあって、それを人間が利用させていただいているわけじゃないですか。お社を再興するのに電機関係の業者の皆さまの協力を仰いだ祖父は、時代の流れを見る目があったと思います」(藤本住職)

電電宮の再興時、寄付などでお宮を支えたのは、関西電力や松下電器産業(現パナソニック)といった、当時の関西の新興有力企業だった。

「未知の技術を切り開こうともがく発展途上の企業には神さまに守ってもらいたいという切実な思いもあって、ご協力いただいた面もあったのではないでしょうか」

藤本住職はこう続けた。

「今のIT業界も進化の過程にあって、安定している分野ではないようです。そういう人たちって神さま、仏さまにすがる思いが強い。特に最先端の技術者には切実感があります。やっぱり最先端というのは神の領域に近いんじゃないですか」

かつては電力会社で高圧電線を取り扱う作業員など危険と隣り合わせの職場の関係者が熱心に参拝していた。しかし今は、高速道路の管理システムを担う部門の関係者や、携帯電話の開発業者などが目立つ。

ある携帯電話メーカーの社長は、1週間後に発表する試作品を持参し、ご祈祷(きとう)を依頼した。新製品の発表サイクルが短くなる中、急いで開発した新製品の発売後にバグ(コンピューターのプログラムミス)が出れば社の命運にかかわる。だから、神頼みせずにはいられない、とこの社長は打ち明けたという。

「最近多いのはこちらの方々です」

寺務所でそう話す藤本住職の背後には、NTTの事業所のお札があちこちに貼られていた。

法輪寺には人気グッズがある。マイクロSDカードのお守り(1200円)だ。虚空蔵菩薩の梵字(ぼんじ)が印刷されたマイクロSD本体には、菩薩の画像データが内蔵され、待ち受け画面に表示することもできる。容量は8GBだ。

「従来のお守りのスタイルはしっかり踏襲しています」(藤本住職)

IT関係者からは、お札やお守りをサーバーなどコンピューター機器に直接貼りつけたい、という強い要望があった。それを受けて頒布を始めたのが、シールのお守りだ。菩薩の梵字や「情報御守護」を印字し、7枚1セット(400円)で頒布。全てご祈祷済みだ。

神棚のインターネット販売を手掛ける「クボデラ」(東京都中野区)。約10年前にネット販売に乗り出した背景について、同社の窪寺伸浩社長は「これまでの流通経路では神棚が売れなくなった現実があります」と打ち明ける。

かつては住宅を新築すれば、施工業者が一家の繁栄を願って神棚を家主に贈る慣例があり、同社も大手工務店などとの取引が主だった。今は事務所や工場に設置する「企業向け」の神棚が売り上げの約半分を占める。窪寺社長は言う。

「バブル期とは異なり、長い景気低迷期を地道な努力で乗り越えてきた経営者が多いためか、神棚に対する真剣度は増しているように思います。ITやベンチャー系の若手経営者も神棚への関心は高いですよ」

神棚を購入する若手経営者の傾向について、窪寺社長はこう解説した。

「経営が軌道に乗り一息つく頃に、何か足りないって思うみたいです」

「まさに僕はそのパターンです」と笑うのは、インターネット広告事業などを展開する「ミスターフュージョン」(東京都港区)の石嶋洋平社長(36)だ。

09年の創業以来、7期連続増収増益を続ける同社。神棚設置のタイミングは、連続の増収増益が6期目にさしかかる約2年前だった。石嶋社長は言う。

「社長業って大変で孤独だし……。でも、困ったときに頼ったり、助けてほしかったりという感じでもないんです。ただ、神さまが見守ってくれている、という安心感が欲しいのかもしれません」

石嶋社長はこう続けた。

「神棚があると、日本古来の文化を大事にしている企業だな、法令順守や規律もしっかりしているんだろうなというイメージにもつながります」

神棚には古めかしいイメージもつきまとう。だが、最先端のITを扱う企業だからこそ、という面もあるのだという。

「IT企業に神棚があると、来客される方は一様に驚かれるんですが、そのギャップ、格好よくないですか? でも、実は根底でつながっていて、大事なのは時代や業種を超えた普遍的な価値。それはやっぱり、感謝の気持ちでしょう」(石嶋社長)

対照的な若手経営者もいる。

インターネットメディアを運営するIT企業「リブセンス」(東京都品川区)。早稲田大学1年生のときに起業した村上太一社長(31)は神棚設置を検討したこともない。

「必要性を感じなかったというのが前提にありますが、これまでのオフィスに神棚を置けるスペースがなかったので」

あえて周囲の縁起物を挙げれば、毎年年始めに母親が用意してくれる地元の寺のお札ぐらいだ。経営者としてのタフなメンタルはどう保つのか。

「物事を意思決定するときやかなえたい願いがあるとき、良い結果になると『思い込む』ことが大事だと思っています。ネガティブな意識は結末を悪い方向に導いてしまうので、何事もうまくいくとポジティブに考える習慣がついています」

初詣でおみくじを引くときも良いときだけ信じ、運も味方についているから、より一層頑張ろうと思うのだという村上社長。ただ、風水や縁起は要所で大事にしている。同社の創立日(06年2月8日)は大安を選んだ。

前出の石井教授は「企業の“イエ”意識が次第に弱くなっています」と指摘する。

合理化やグローバル化に伴い、同族経営を脱する傾向や、企業内での“イエ”意識を生み出す基盤となる終身雇用制も崩れつつある。これらを反映し、宗教行為を長年取り入れている企業でも、一部の経営幹部だけが集まって参拝や神事を行うケースが一般的になりつつある。

「つまり、神を祀ることが、直接会社の構成員の一体感を高揚させる機能を果たしておらず、祭祀に加わることと、その会社の構成員であることに明確な関係が見いだせなくなっています。“イエ”を核家族化させ、祖先崇拝や氏神祭祀をないがしろにしていった流れは、確実に企業にも及んでいます」

国学院大学の石井研士教授(宗教社会学)はこんな懸念も示す。

「わずかに企業に残されていた“イエ”的性格が変容していくとき、われわれ日本人は伝統的な祖先崇拝の最後の母体まで喪失することになるかもしれません」

社員も経営陣も一丸になって、企業に我が身を託し、豊かさを追い求めた戦後日本は今は昔。格差が広がり、働き方の多様性も求められる時代に、神さまとの距離や付き合い方は、同じ会社の中にいても異なるのが自然なのかもしれない。

(編集部・渡辺豪)

※AERA 2018年1月15日号より抜粋

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