「ブレードランナー」から考える、クラスター化という現代の闇

「ブレードランナー」から考える、クラスター化という現代の闇

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2017/11/16
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今年続編が公開されて再び話題を呼んでいる1982年公開のSF映画「ブレードランナー」は、2019年の近未来を、科学技術と、深い孤独や疎外が同居する世界として描いている。

人形に囲まれて暮らす科学者、架空の記憶を必死に作り上げるアンドロイド、そして、自分を狙うハンターだけが、想い出を語れる唯一の相手になってしまった悲劇──。天才タイレル博士をチェスで秒殺する電子頭脳を持ちながら、自らの未来を求めて反乱するアンドロイドの姿はまさに、現在の人間がイノベーションに抱く複雑な思いを先取りしているようだ。

我々が目にしている現実の2017年は、惑星間飛行などの点では、「ブレードランナー」の世界に遠く及ばない。しかし、情報技術の発展は、むしろ1982年時点の近未来予想を上回っているかもしれない(ブレードランナーのデッカード捜査官は、電話をかけてターゲットの在宅を確認していた)。そして、もしかすると孤独や疎外の方も。

無意識のうちに進むクラスター化

今日、人々が一日何時間も眺めて過ごしているインターネットやスマホの謳い文句は「世界の誰とでもつながれる」である。しかし、「誰とでもつながれる」ということは、逆に言えば「つながる相手を選べる」ということでもある。

多様性ある人間が構成する社会には、当然ながら、気の合う人も、合わない人もいる。この中で、仲間を見つけながら、必ずしも気の合わない人々とも「上手に付き合う」ことや、時に生じる「意見対立を乗り越える」ことを学ぶ。それが、かつての地域であり、学校のクラスであった。

しかし最近では、地域や学校の会合に集まった人々がバラバラにスマホを眺めていても、誰も驚かなくなった。そのうち、「自分の好きなタイプの友達と先生だけでできているバーチャル教室」が、アプリ化される時代が来るかもしれない。

また、「たまには新聞を隅から隅まで読んでみよう」というのは、かつては典型的な暇潰しだった。しかし、今日、ネットで記事を見ていると、検索履歴が配信側にも使われ、いつの間にか自分の気に入りそうな記事ばかり表れるようになる。このように、無意識のうちに、自分好みの意見で囲まれた「クラスター」に入れられ、対立意見から遮断されてしまうと、敢えて「意見対立を乗り越える」努力をする必要すら感じなくなってしまうかもしれない。

情報技術を活用した金融イノベーションや経済活動でも、現実のビジネスは、必ずしも世界中の人々を一様に対象にしているわけではない。むしろ、多くの人々の中から、ビジネスの効率的なターゲットとなる特定の「クラスター」を作り出すために、新しい技術が使われることが多い。

典型例として、ネットによるユーザーの「クラスター化」や「ターゲット化」との競争に晒されるメディア産業をみても、例えばTVドラマでは、「その時間にTVを観てくれて購買力もありそうな特定層」に合わせた主人公設定が増えている。「サザエさん」などホームドラマの苦戦は、その象徴といえるだろう。

もちろん、新しい情報技術が、クラスター化やターゲット化を通じて、金融サービスや経済・社会活動のフロンティアを拡げることもある。例えば、志を共有する人が、真に必要な先に確実に支援や資金を届けるチャリティやクラウドファンディング、移民や女性なども迅速に与信を受けられる信用スコアリング、子育てや介護をしながら自宅で働けるリモートアクセス、保険スキームを通じた健康増進や安全運転の推進など、さまざまな可能性が生まれている。

しかし、その一方で、情報技術革新が、むしろ疎外や”exclusion”を助長する方向に働く可能性も考えられる。例えば、なるべく資産や健康などに恵まれた人々だけで国や社会や集団を作る方が経済的に「得」だという考え方は、少なくとも短期的には魅力的に映りやすい。そして、新しい技術は、そうしたクラスターを効率的に作るためにも使えるのである。

「疎外」を乗り越えるには

鉄器からダイナマイト、原子力に至るまで、古今東西、科学技術をどう使うかは、常に人間次第である。「ブレードランナー」が描いたのも、アンドロイドを反乱に追い込んだ人間の罪、そして、そうした人間にアンドロイドが最後に示した寛容であった。暴走するのは技術ではなく、これを使う人間なのである。

今、AIなどのイノベーションに対し人間が抱く、「仕事が奪われる」、「丸裸にされる」といった不安も、突き詰めれば、それは技術そのものへの不安ではなく、それを使う人間への不安、すなわち、「人間自身が新技術を、人間疎外を推し進める方向に使ってしまうこと」への危惧であるように思える。

そうだとすれば、イノベーションへの不安を取り除くには、人間の側が、クラスターや分断を乗り越える寛容さと多様性への理解を深化させていくしかないだろう。もちろん、現在の世界情勢をみても、それは大いなる努力と忍耐を伴う作業だが、人間の問題なら、人間が解決できると信じたい。

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