テロリストに悪用されると怖い『クーデターの技術』の中身

テロリストに悪用されると怖い『クーデターの技術』の中身

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/12/07
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『クーデターの技術』をどう読むか

ロシア社会主義革命とイタリア・ファシストの権力奪取に共通の技法があることを見抜いた、ユニークなイタリア人政治学者がクルツィオ・マラパルテ(1898~1957年)だ。

マラパルテはムッソリーニのローマ進軍(1922年)にも参加するなど、当初はファシスト党員として活動していた。しかし、やがてムッソリーニやヒトラーに対して批判的な立場を取り、その後、リパリ島への流刑・追放処分を受けている。

その処分の大きなきっかけとなったのが、1931年にパリで出版された本書だ。この本は「反ファシズム」「反共産主義」の書として、イタリア、ドイツ、ソ連などで発禁にされた。

戦前の日本では『近世クーデター史論』(木下半治訳、改造社、1932年)として、国家改造を考える青年将校や右翼思想家に影響を与えた。そして第二次世界大戦後も、本書は生命力を失わずに読み継がれている。

1948年版の序文でマラパルテは、〈私はこの本を憎む。心の底からこの本を憎む。この本は名声、世間が名声と呼ぶくだらぬものを私に与えたが、同時にまた、この本こそ私のあらゆる不幸の原因だったのである。

この本のために、私は何ヶ月もの牢獄生活、何年ものリパリ島流刑、野卑で残忍な警察の迫害を知った。この本のために、私は友人の裏切りを知り、敵の害意を知り、人間のエゴイズムと悪意を知った〉

クーデターの技術』は、「国家権力を防衛するためのマニュアル」としても、「国家権力を奪取するためのマニュアル」としても、読むことが可能だ。

マラパルテは1917年10月のロシア社会主義革命の事例研究を通じてトロツキーから学ぶべきであると強調する。

〈現代のヨーロッパにおいて、各国政府が共産主義の脅威に対し防衛態勢を構築しなければならないとすれば、それは、レーニンの戦略に対するものではなく、トロツキーの戦術に対するものでなければならない。レーニンの戦略は、一九一七年の時点でロシアが置かれていた諸状況を離れては理解することができない。

これに対し、トロツキーの戦術は国内の諸状況に一切左右されない。トロツキーの戦術を実際に適用するに際しては、レーニンの戦略にとって不可欠な諸状況の有無は、まったく影響を及ぼさない。トロツキーの戦術には、そのような特質があるため、ヨーロッパのいかなる国においても、コミュニストによるクーデターが常に危険視されなければならないのである〉

レーニンが「革命にはすべての民衆が蜂起に加わる必要がある」としたのに対し、トロツキーはこう反論する。

〈「なる程。だが、反乱を起こすためには『すべての民衆』は多すぎる。冷静、果敢な蜂起戦術にたけた小部隊があればそれで十分なのだ」〉

国家権力の中枢はどこにあるのか?

マラパルテは、トロツキーの言説を評価し、権力奪取を大衆運動ではなく徹底的に技法の問題として考えた。マラパルテは、すべての民衆が蜂起するのではなく、専門家をピンポイントに配置し、ネットワークを作ることで、簡単に権力を奪うことができると考えたのだ。

政治的状況や経済的状況とは関係なく、トロツキー的な技法を用いれば、クーデターは成功するということだ。その技法の核心は以下の事柄だ。

〈トロツキーはこう語っている。「現代において、国家権力を奪取するためには、専門家を含む秘密攻撃部隊を組織しなければならない。この部隊は、権力機構に精通した蜂起専門家とも言うべき人間の指揮のもとで、武装した分隊より構成される」〉。

ここで何よりも重要になるのが、秘密攻撃部隊が攻撃する対象だ。権力奪取に当たって、〈「赤衛軍は、ケレンスキー政府の存在を考慮に入れてはならない。(中略)戦術的な観点からみれば、共和国評議会、各省庁、ロシア国会は、武装蜂起の対象としては、まったく意味がない。国家権力の中枢は、政治・官僚機構、つまりトーリッド宮殿、マリア宮殿、冬宮にあるわけではなく、国家の神経組織、すなわち発電所、鉄道、電信・電話、港湾、ガスタンク、水道にある」〉という指令をトロツキーが出したことが重要だ。

つまり、都市のインフラや通信ネットワークを暴力的に押さえてしまえば、国家権力は奪取できるということだ。事実、トロツキー指揮下の部隊は、郵便局や発電所、印刷所を次々に占領して、革命を成功に導いた。

イタリアのムッソリーニも、トロツキーと同じ技法を用いて権力を奪取したとマラパルテは分析する。1922年8月にファシストに抵抗して共産主義者がゼネストを起こしたときの出来事だ。

〈技術者と専門労働者によって組織されたファシスト部隊が、公共部門におけるストライキ参加者にとって代わるや、二四時間もしないうちに、黒シャツ隊は、武装した国家の防衛者達―労働総評議会の赤い旗のもとに結集していた―のうえに、すさまじい暴力をふるい、これを蹴散らした。ファシズムが、国家権力を奪取するうえで、決定的な勝利を収めたのは一九二二年一〇月ではなく、その年の八月だったのである〉。

ムッソリーニは都市や地方のすべての戦略地点、つまり、ガス施設、発電所、郵便局、電話局、電信局、橋、駅など国家の技術機関の中枢部分を電撃的に占拠することで、国家権力の奪取を実現したのだ。

現代であれば、インフラもすべてインターネットに組み込まれているので、それを握れば体制を転覆することができる。日本において、物理的な暴力を用いずに、有能な技術者やインフラ構造を把握している専門家を組織化してサイバーテロを行えば、国家機能を麻痺させ、権力を奪取することができるかもしれない。

本書の内容がテロリストに悪用されないことを願う。

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『週刊現代』2017年12月9日号より

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