【見解】答えのない地域づくりを追って 都市圏総局(前人吉支局長)・郷達也

  • 西日本新聞
  • 更新日:2017/08/11

◆熊本・槻木再生事業

この夏、山あいの小さな学びやから再び、子どもの声が消えた。

宮崎県境に位置する熊本県多良木町槻木(つきぎ)の町立槻木小。町が、過疎高齢からの脱却を目指す槻木再生事業の柱として2014年に児童1人で再開させた槻木小は、福岡県春日市から移り住んだ集落支援員の上治(うえじ)英人さん(45)一家が7月に町を離れたことで再休校となり、事業は行き詰まった。上治さんの4年間の活動を追い掛けてきたが、残念であり、悲しい思いでいる。

槻木は人口約120人、高齢化率8割の限界集落だ。11年の調査で9割の世帯が「住み続けたい」と答えたのをきっかけに13年度に事業が始まった。上治さんの長女の入学に伴い、槻木小は7年ぶりに再開。上治さんは高齢者を診療所や商店に送迎したり、農産加工品をつくったりした。

「頼れる安心感があった。上治さんの存在は太か」。体が不自由な夫(85)を在宅介護している黒木ツル子さん(81)は言う。老老介護はつらくても槻木小に絵本の読み聞かせをするために通い、児童の笑顔が心の支えになった。一家が地域に溶け込み、住民が活気づくのを肌で感じた。

2月の町長選で事業の是非が争点となり、吉瀬浩一郎町長が推進派の前町長を破って初当選した。事業縮小を公約した吉瀬氏だが、こうした槻木の変化を検証していない。町の施策に翻弄(ほんろう)された上治さんが、不信感を募らせるのもうなずける。

「社会実験」とも呼ばれた槻木再生事業。小学校を核に確かに集落は活性化した。一方で、新たな子連れ世帯を呼び込む目標は達成できなかった。事業の意義について他地区の住民に理解が広がらず、「槻木だけを特別扱いしている」との不満もくすぶっていた。ただし、何も手を打たなければ、地域はより衰退していただろう。集落維持へ住民が知恵を絞り、行政がどう支えるかは大きな課題だ。今春までに槻木に移住してきた若者2人が、地元産野菜を福岡市内で販売した上治さんの業務を引き継ぐなど、槻木の新たな息吹にも期待したい。

全国の過疎自治体が人口減にあえぐ。槻木で知らされたことは「地域づくりに答えはない」ということ。だからこそ面白い。これからも追い掛け、報じたい。

=2017/08/11付 西日本新聞朝刊=

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