「感動を与えたい」ために旅する若者をおっさんが叱る息苦しい話

「感動を与えたい」ために旅する若者をおっさんが叱る息苦しい話

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/02/23
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無邪気ゆえに

――【中学生がアメリカ横断】を達成して 同世代に限らず、たくさんの人に勇気や夢を与えたい。

最近、こんなツイッター投稿がネットで炎上したのをご存知だろうか? 見ず知らずの人の家への宿泊を繰り返しながら1人でヒッチハイクでアメリカを横断するという、「中学生」とされる少年の挑戦が、悪い意味で話題になったのである。

彼のSNSアカウントが有名になると、治安や交通事情の悪いアメリカで未成年が無鉄砲な旅をする行為を懸念する、ネットユーザーの意見が殺到した。少年の無謀な行動を止めなかった保護者の、責任感の欠如を非難する意見も目立った(結果、少年はアメリカ横断を途中で中止したとツイッターに投稿している)。

これとほぼ同時に話題になったのが、世界一周旅行中の若い女性とみられる人物だ(以下、「一周女子」と呼ぶ)。

旅行者をターゲットにした性犯罪や強盗が多いインドで、初対面の現地の男性たちから食事をごちそうされたり飲み物を与えられたことを無邪気な文体でSNSに再三発表していた彼女の行動を、イギリス在住の女性評論家が不用意だとして繰り返し批判した。その様子がスクリーンショットの形で広く拡散され、一周女子への批判が多数出たのである。

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※アメリカ横断に出発する意気込みを語る中学生とされる人物の投稿(左)。世界一周中の女性の感動レポートに、身も蓋もない実態を伝える女性評論家の投稿(右)。

もっとも、筆者としては彼や彼女の「炎上」原因になった行動については、心のどこかで容認したい気もしている。もちろん、未成年や若い女性の無防備な振る舞いを決して積極的に肯定するわけではないのだが、「そんなもんだよね」とも思うのだ。

「イタい振る舞い」をしていた当事者として

なぜなら、筆者自身も20代のときにバックパッカー型の海外個人旅行が好きだったからだ。現在、現地取材が多めの中国ライターという職業に就いて、『さいはての中国』などという本を書いているのも、昔の放浪趣味の延長線上でなんとなくこうなった側面が大きい。

15年ほど昔の恥を書いておけば、インドのアジャンター遺跡で親切にされた現地の人を信用して、農村の土蔵に監禁されかけたことがある。バラナシの安宿でそうと知らずに薬物入りクッキーを食べさせられて、怪しい幻覚に1晩中苦しんだこともあるし、準備無しで3月のチベット高原に行って寒さと高山病で倒れかけたこともある。帰国後にひどい下痢と高熱が出て赤痢感染を疑われ、当時の会社の内定式を欠席したこともある(実際は赤痢ではなくただの体調不良だったが)。

もっとも、筆者は特別な体験をしたわけではない。この手の話は90年代~ゼロ年代ごろの堀田あきおのバックパッカー漫画や流水りんこのインド漫画、小林紀晴の『アジアン・ジャパニーズ』など、さまざまな作品で散々おなじみだからだ。往年、バックパッカーだったおっさんやおばちゃんの諸氏は多かれ少なかれ、筆者と似たような経験の心当たりがあるはずだろう。

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※そりゃ、こういう世界に行くのは楽しいですよ。2006年3月、甘孜チベット族自治州にて筆者撮影。

日本がまだ経済大国だった時代には、中国をママチャリで走破するだのインドを和装で巡るだの、何がやりたいんだかよくわからない貧乏旅行をドヤ顔で誇っている変な日本人が世界各地に大勢いた。旅先でドラッグや異性に溺れて沈没する、旅費が尽きて同じ日本人を騙くらかす……、といったダメな話も山ほどあった。

だが、現代の日本は以前と違って、若い人が精神的に未熟な言動をしたり、他者(特に官公庁)に手間や迷惑を掛けかねない行動を少しでもおこなうと、社会的に非常に強い糾弾や制裁を受けてしまう時代だ。

そんな世の中で、若気の至りゆえのイタい振る舞いが(それでも往年のヘンな人たちよりずっとマシだが)、世間の良識ある大人から総出で袋叩きにされた今回の炎上当事者たちに対して、個人的にはちょっと気の毒な気さえするのである。

「他者に夢を与える」ために一人旅する人たち

もっとも、彼らの無鉄砲さに個人的に理解を示すフリをしたくても、筆者はおっさんなので昨今の若者のノリがよくわからないこともある。それは、炎上した彼らがSNSの投稿において、やたらに社会貢献的な側面をアピールしていたことだ。

アメリカ横断中学生は「同世代に限らず、たくさんの人に勇気や夢を与えたい」と言っていた。また、一周女子は出発前にクラウドファウンディングで旅費を集めていたが、その文面には「人を繋げる世界一周をします!」「理由は自分の職業であり趣味である『人を繋げる』ことを世界一周を通して修行したいと思ったからです」とあった。

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Photo by iStock

これ以外にも、高校を休学して世界一周中という少年のSNSアカウントには「同世代の若者に夢と可能性を与えられるような、僕のこの一歩が誰かの一歩になるような、そんな世界一周を全力で発信しています!!」とある。他にも検索してみると、似たような内容のプロフィールを掲げている人がけっこう見つかる。

もちろん、旅行なんて好きにやればいいので、どんな目的や目標を持つのも各人の自由だ。一部の人にはクラウドファウンディングの寄付集めという事情があり、キレイな言葉を使う必要もあったのだろう。

ただ、それでも「不思議」は感じる。こういうアピールは、彼や彼女らが他者からの尊敬を受けたりカネを集めたりする目的の上で、本当に有効な作用を持つのかという疑問だ。

「すごいっすねー(棒読み)」で終わる話

普通に考えて、プロの冒険家でもない赤の他人の中高生や大学生が世界を回った話や、就活のエントリーシートみたいな旅の抱負を聞いて、心から感動する人はあまりいない。せいぜい、本人から面と向かってそれを語られたときに「すごいっすねー」と社交辞令的に話を合わせる程度だろう。

アメリカ横断や世界一周は、本人の内部では大きなチャレンジで、人間的な成長のチャンスだと思う。ただ、他人から見ればただの純然たる趣味で、別にやらなくていい苦労でしかない。「関東地方の銭湯を全制覇する」とか「アンパンマンの登場キャラクターを全員暗記する」とかと、本質的にはあまり違わない行為なのだ。

それならば、変にキラキラした社会貢献的な動機を宣言しなくても「私が楽しみたい」「知見を広げたい」でいいのではないだろうか。むしろ、若い人であれば「世界を見たい」と言うだけで、多少の手助けは得られそうな気がする。

(事実、クラウドファウンディングサイト『CAMPFIRE』で「世界一周」で検索したところ、50万円を超える寄付を集めている人の多くは、障害などのハンディキャップを乗り越えて旅にチャレンジする人を除けば「とにかく行きたいからカネがほしい」とキレイごと抜きで素直に言っている人であった)。

対して、「人を繋げる」抱負を掲げた一周女子のクラウドファウンディングの獲得金額は(サイトが違うせいもあるが)2万2900円だった。これならば、カラ回り気味のキレイな建前を掲げたりしないで、おばあちゃんから数年分のお年玉を前借りするか、仲のいい友達全員から1口3000円ぐらいでカンパを募ったほうが期待値が高い。

「自分探しがイケていた時代があった?

一昔前まで、バックパッカーをはじめとした「やらなくてもいい苦労」系の趣味の動機は「自分探し」だったと思う。個人的にはあまり好きな言葉ではなく、事実として現在はほぼ嘲笑の対象みたいな言葉だが、少なくとも90年代ごろまでは社会的にポジティブな意味でとらえられていた。

例えば、1995年夏の「角川文庫の名作100」キャンペーンでは、広告キャラクターに当時「Tomorrow never knows」や「【es】 ~Theme of es~」などの曲が大ブレイクしていたMr.Childrenの桜井和寿が起用され、彼の肉筆で書かれた「自分をさがす」がキャッチフレーズになっている。当時、若者の自分探しは、むしろクリエティブでイケているイメージを漂わせた行為だったのである。

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※メルカリに出品されていた1995年の「角川文庫の名作100」のパンフレット。「自分をさがす」がカッコよかった時代があった。

それが批判や嘲笑の対象になった決定的な契機は、おそらく2004年にイラクで起きた、日本人人質事件や香田証生さん殺害事件だ(前者はボランティアでイラク入りした女性や未成年が武装勢力の人質にされ、後者は風来坊的なバックパッカーの青年がテロリストに殺害された事件だった)。

当事者たちが「自分探し」やただの好奇心といった個人的理由によって日本政府に手間を掛けさせたことや、世間のみなさまにご心配とご迷惑をお掛けしたことが、社会的に容認できない行為として強いバッシングを受けたのである。

その後の日本社会では、人格的に未成熟な個人が、就活や起業などの明確な目的や社会全体への寄与といった「正しい」動機を伴わない形で、自身の快楽(=趣味)だけを堂々と追求する行為それ自体が、なんとなくけしからん振る舞いであるとみなされる雰囲気が強まり、現在に至っている。

背景には経済の長期停滞や社会のシュリンクといったさまざまな事情があったはずだが、この手の肌感覚については読者諸氏もよくご存知であろう。

動機はなんだっていいけれど

……とすると、昨今のバックパッカーの若者のなかに、他者からの尊敬の獲得やカネ集めといったリターンが実質的には大して期待できないにもかかわらず、社会貢献っぽい動機や就活のESっぽい目標を強調する人が少なからずいる理由も、なんとなく見えてくる。

もちろん、youtuber的な自己承認欲求もかなりあるだろう。ただ、世間様へのエクスキューズを伴わずに「楽しみたい」と天真爛漫に公言する行為がなんとなく憚られる気がして、「私は自分だけで快楽を貪る身勝手な人間ではなく、社会のみなさまにも利益をもたらす正しき存在です」という設定をひとまず掲げているような側面も、やはり結構あるように思うのだ。

最近、中国では店舗の前などに社会主義核心価値観(習近平政権のスローガン)の章句をとりあえず掲げておくことが、世間を安全に生き抜く上で多少は役立つ行為である。いっぽう、わが国の一部の人は、個人の自由行動にあたって社会貢献的な動機を掲げる行為が一定の自己防衛策になると考えているのだ。……とまで言っては皮肉に過ぎるだろうか。

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※社会主義核心価値観スローガンに染まった足裏マッサージ店。中国広東省東莞市にて2019年1月安田撮影。

さておき、繰り返して言うが、たかが旅行にどんな動機を持つのも本人の勝手だ。自分探しでも社会貢献でも別にOKである。

ただし、若者が「自分探し」や「楽しみたいだけ」という動機を掲げる行為がなんとなく肩身が狭く、優等生的な動機を世間に向けて説明する義務があるとする考え方は、世界人類に普遍のルールでもなんでもない。社会的活力の衰退が慢性化した、近年のわが国の一部だけに根付いている価値観にすぎないだろう。

せっかく日本を離れて世界へ冒険の旅に行きたいなら、自分の身近な社会のそんな奇妙な不文律に過剰に配慮しなくてもいいんじゃないかと思うのだが。もちろん、それでも最低限の安全確保への配慮はするに越したことはないし、せめてクレカが作れる年齢になってから出発するべきだろうけれど、である。

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