中東情勢、一段と複雑怪奇に、レバノン舞台に覇権争い激化

中東情勢、一段と複雑怪奇に、レバノン舞台に覇権争い激化

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  • 更新日:2017/11/15
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過激派組織「イスラム国」(IS)以後の中東情勢が一段と複雑怪奇な様相を呈してきた。石油大国サウジアラビアとイランの覇権争いが小国レバノンのハリリ首相の辞任をめぐって激化、イスラエルとレバノンのシーア派武装組織「ヒズボラ」との衝突の懸念も高まり、一触即発の危機的な状況に向かっている。

(VM_Studio/iStock)

軟禁か、逃亡か

今回の中東緊張の舞台回しはハリリ首相だ。首相は11月4日、訪問中のサウジアラビアで突然、首相辞任を発表。イランとイランの影響下にあるヒズボラが「地域を不安定にしている」と非難、暗殺された父親同様、自らも暗殺される恐れがあるなどと辞任の理由を述べた。

これに対して、ヒズボラの指導者ナスララ師は首相がサウジに誘拐同然の拘束を受け、辞任を強いられたとして、「サウジ黒幕説」に言及した。ハリリ首相は12日になって、自分の経営するレバノンのテレビ局のインタビューを受け、「私は自由だ。数日中に帰国する」と表明したが、暗殺の危機から逃亡したのか、サウジに軟禁されているのかは藪の中だ。

レバノンは小国だが、モザイク国家といわれるように多くの宗派が入り乱れ、各国がそれぞれの宗派や組織を支援。中東の柔らかい脇腹といわれる同国で、各国の利害と矛盾が噴出し、イスラム教徒とキリスト教徒の内戦が15年も続き、武装組織が乱立した首都ベイルートは魔都と恐れられた。

こうしたモザイク国家の権益を共有するため、大統領はマロン派キリスト教徒に、首相はイスラム教スンニ派に、国会議長はシーア派にそれぞれ割り当てられてきたが、2000年代前半からは、イスラエルとの戦闘で最大の実力組織にのし上がったヒズボラが同国を牛耳る存在にまでなった。

ヒズボラがシーア派の盟主であるイランの支援を受ける一方で、スンニ派のハリリ首相はサウジアラビアからの援助を受けてきた。レバノンでは昨年末、ヒズボラを含む挙国一致内閣が発足したが、イランとの関係が悪化したサウジはレバノンのヒズボラ支配に懸念を深め、同国への援助を停止し、経済的な締め付けを強めてきた。

今回のハリリ首相の辞任はサウジがレバノン政府を崩壊させることによって、ヒズボラとイランの影響力を排除しようとしたのではないかとの見方が強い。しかし逆に、同国の政治が混迷すればするほど、ヒズボラの支配力が強まり、結果的に「イランの思うツボ」ということにもなりかねず、真相は不明だ。

トランプ政権の青信号

このハリリ首相が辞任を表明した4日には、サウジでは内外の重大な出来事が同時に起きた。1つは、イエメンを事実上支配している反体制派フーシ派が弾道ミサイルをサウジの首都リヤドに向けて発射したことだ。ミサイルはサウジ側に撃墜されたものの、サウジのムハンマド皇太子(32)はイランがミサイルをフーシ派に供給したとし、「戦争行為」として激しく非難した。

これに対してイラン側も「サウジによる危険な挑発」(ザリフ外相)などと強く反発、断交して関係が険悪化している両国の緊張が一気に高まった。サウジとイランはすでに、内戦中のシリアやイエメンで代理戦争を激化させてきたが、今回ほど直接的な軍事衝突のリスクが高まったことはなかった。

もう1つの出来事は、この日に突然勅命で発足した「腐敗対策最高委員会」が王子や閣僚らを含む要人らの逮捕に乗り出し、これまでにアブドラ前国王の息子のムトイブ国家警備相や世界的富豪のビンタラール王子、ファキーフ経済企画相ら約200人が拘束された。

「腐敗一掃というのはあくまでも大義名分。腐敗というなら、ムハンマド皇太子自身がその最たる者だろう。狙いは老い先短いサルマン国王が息子のムハンマド皇太子の権力掌握を進めるため、反皇太子勢力の芽を摘んだということだ」(ベイルート筋)。つまりは1932年の建国以来、最大の粛清が行われたと見るのが的確だろう。

リヤドの高級ホテル「リッツ・カールトン」が拘束された王子らの一時的な収容所となるなど混乱も続いているが、ムハンマド皇太子はこの“クーデター”によって軍事、治安、外交、経済、社会の全般にわたる支配を確立し、権力の一極集中を固めた。

一方で、米紙ウォールストリート・ジャーナルは皇太子らが最大8千億ドル(約91兆円)の資産没収を狙っていると報じており、石油価格の長期低落で悪化した財政の穴埋めに富裕な王子らの財産を充てることを狙っているのかもしれない。

サルマン国王、ムハンマド皇太子がこうした粛清を断行できた大きな背景はトランプ米政権の全面的な支持があるからだ。アジア歴訪中だったトランプ大統領は「国王らは何を行っているのか十分知っている」と支持を表明。また娘婿のクシュナー大統領上級顧問はこの粛清の1週間ほど前に、リヤドを訪問してムハンマド皇太子と夜の更けるまで親密に語り合ったと伝えられており、米側が事前に青信号を与えていた、との見方も強い。

イスラエルの先制攻撃も

ムハンマド皇太子の反イランの言動は「イラン核合意は認めない」などとするトランプ大統領の反イラン方針と歩調を合わせているのは間違いあるまい。だが、皇太子もイランとの直接的な軍事衝突までは踏み切ることはできないだろう。弾道ミサイルを保有し、人口が4倍もの大国のイランが本気になれば、サウジが手ひどい痛手を被るのは必至だからだ。

むしろ、現実的なリスクとして高まっているのがイスラエルとヒズボラの戦争だ。IS以後に向けて、イラク、シリアにおけるイランの影響力拡大は急速に進んでおり、イスラエルはこのままでは、レバノンだけではなく、シリアに残留するヒズボラからも攻撃されかねない。

ヒズボラはすでにレバノンに12万発以上のミサイルやロケット弾を保有しているといわれている上、シリアのヒズボラにイランのミサイルが供与されれば、イスラエルの安全保障は深刻な脅威に直面することになる。イスラエルがそうなる前に、ヒズボラを叩いておこうと考えても不思議ではない。

ここではイスラエル、サウジ、米国の利害は一致するが、戦争に発展した時、シリアに軍事力を展開しているロシアがどのように対応するのか。不確定要素も多い。各国の思惑が複雑に絡み合う中、状況はさらに切迫の度合いを深めようとしている。

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