ネットの個人データ収集、若者と中高年の「驚くべき意識格差」

ネットの個人データ収集、若者と中高年の「驚くべき意識格差」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/05/16
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日本人の「データ活用」意識を解き明かす

近年、日本でもGAFA(米IT企業群)によるパーソナルデータ(以下データ)活用や独占に関する議論が活発になってきている。有識者の間でも規制派と規制反対派の意見で割れており、議論の進みは遅い。

ただいずれにも共通して言えるのが、これらの議論の多くは、法律と企業活動、政府の視点のみで行われ、それに他国の政策を参照しているという点である。

しばしば「経済=企業活動」と誤解されがちであるが、本来、経済学の課題には「社会的厚生を最大にする施策の検討」も含まれる。社会的厚生とは、社会を構成する経済主体―消費者、生産者、政府―の便益を合計したものであり、そこには必ず「消費者」が含まれる。

データ政策の議論において、この「消費者」という視点がいま、驚くほど抜け落ちている。特に、データ活用による「利便性」と「不利益」の双方を消費者がどう評価しているかという点に目を向け、これらをエビデンスをベースに総合的に論じているものはほとんどない。

しかし、プラットフォームを利用する人々が、データ活用の利便性と不利益をどのように捉えているのかという視点を欠いたまま制度を設計した場合、社会に対して想定以上に大きな負のインパクトをもたらす可能性がある。

そこで本稿では、筆者の研究チームが2019年に実施した約6,000件1のアンケート調査分析結果を基に、「データの収集・活用に対する人々の評価」の実態を定量的に明らかにする2。

データの収集・活用の認知度は?

まず、評価の分析に入る前に、そもそもネットサービスにおけるデータの収集・活用について、どれほどの人が認知しているのか調査を見よう。調査の結果、70%以上の人がデータの収集・活用を認知しており(図1)、世代別にも特筆すべき傾向の違いがないことが分かった。

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図1 データ収集・活用についての認知割合

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認知経路としては、「テレビニュース」や「ネットニュース」といったメディアか、「ネット広告の表示のされ方」や「商品のおすすめ表示」といった実体験によるものが多い。

筆者らが20代の若者10名にヒアリング調査した結果でも、全員がネット上でデータ収集・活用が行われていることを認知しており、その大半が実体験から気づいていた。

他方、「ネットサービス・アプリの規約」から認知している人は18%に留まった。多くの人が、「利用規約に同意」をクリックした経験はあっても、その内容をきちんと読んだことはないだろう。利用規約が読まれないことについては、イギリスの企業が行った実験で、アプリの利用規約に同意した22,000人のうち、規約内の文言を基に企業に指摘した人は1人に留まったというものが有名である3。

ネットサービス事業者は、啓発活動や読みやすい規約を作成するなど、より認知度向上に努める必要があるといえる。

「不安」と「利便性」の葛藤

また、データ収集・活用への不安感については、実に70%以上の人が不安に感じていることが分かった。これは、他の調査とも凡そ一致する結果である4。

他方、データの収集・活用がもたらす利便性について、「データの収集・活用を一切しない」「マクロ的にデータを取集・活用する」「個人レベルでデータを収集・活用する」の3つのうち、どれが好ましいかを調査した結果、多くの人がデータ収集・活用による利便性を高く評価していることが分かった(図2)。

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図2 各機能をあったほうがいいと思う人の割合

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「収集・活用を一切しない」に比べ、「個人レベルでデータを収集・活用する」機能を支持する人は、約2倍である。そして、その傾向は若年層で強く、とりわけ10代が非常に高く評価していた。

「不安か?」と聞かれると、多くの人が不安に感じると答える一方で、それと同時に活用による利便性についても高く評価しているといえる。

90%の人は「無料」を志向する

さて、データの収集・活用がもたらしている便益と不安について、人々の評価を定量的・経済的に測るとどうなるだろうか。

具体的には、データの収集・活用に対する人々の支払い意思額(月額)を、仮想的な状況を想定させて分析するCVM(Contingent Valuation Method)によって推定する。ただし、設計を工夫し、支払い意思額はマイナスとプラスの両方を考慮できるようにする5。

尚、ここで推定するのは、次の式の「データ活用による付加価値-データ活用への不安・不利益」の部分であり、サービス全体の価値ではないことに注意されたい。要するに、データ収集・活用にポジティブであれば支払い意思額はプラスに、ネガティブであればマイナスになる。

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以上を踏まえ、日本で利用者の多い主要サービス20種類を対象に分析を行った結果、いずれのサービスでも、データ収集・活用に対する支払い意思額が「0円」である人が約90%にのぼることが分かった。

図3は、最も利用者の多かったYouTubeについて、支払意思額の分布を描いている。YouTubeほど定着しているサービスでも、0円の人が87.3%存在しているのが分かるだろう。

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図3 YouTubeのデータ収集・活用に対する支払い意思額分布(月額/利用者のみ)

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さらに、調査対象のすべてのサービスについて、平均支払い意思額(月額)を推定したのが図4である。これを見ると、多くのサービスでデータ収集・活用を不利益に感じる人が多いが、全ての絶対値が月額10円以内に収まっており、そもそも支払い意思額が非常に安いことが分かる。

尚、サービスごとに違いが出た理由は2つ考えられる。1つは、プラスになったTikTokやメルカリ、ラクマは若年層が多く使っていること。もう1つは、大きくマイナスになったLINEや検索エンジン、ショッピングサイトは、主たる目的がオープンな発信でないこと。

企業がデータ活用をする際には、メインユーザの年齢層やサービスのオープン性を考慮したうえで、どのような活用であれば受け入れられるか判断するのが良いだろう。

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図4 データ収集・活用に対する支払い意思額平均値(円/月額/利用者のみ)データ活用への総評価額は全体で-300億円、若い世代で+100億円

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若者と中高年の「大きな乖離」

では、このようなデータ収集・活用に対するユーザの態度は、何によって決定づけられているのだろうか。支払い意思額決定要因モデルを構築して分析を行った結果、非常に大きな影響を与えていたのは「年齢」であった。

具体的には、年齢が10歳増えると支払い意思額が5.37円減少する。本分析対象の最低年齢と最高年齢である15歳と69歳では、29円も異なる計算となる。29円というと安く見えるが、平均支払い意思額の絶対値がどのサービスでも10円以下であったことを考えると、非常に大きな差であることが分かる。

また、「ネット精通度」や「メディア利用時間」は、支払い意思額にプラスの影響を与えていた。つまり、ネットに詳しくなったり、テレビや新聞などのメディアを多く利用したりすると、データ収集・活用にポジティブになるといえる。

以上を踏まえ、データ収集・活用がもたらす便益の総主観的評価を、マクロ便益推計モデルによって世代別に推計したところ、図5のようになった。グラフは、年間の支払い意思額の日本全国の合計(=便益の総評価額)を示している。

結果は世代によってはっきりと分かれ、10代と20代ではネットサービスのデータ収集・活用によって年間約100億円の便益を得ていると評価した一方で、30代以上ではその逆に、約400億円の不利益が発生していると評価していた(ただし、10代は15~19歳に限る)。

データ収集・活用のもたらす利益と不利益を合算すると、全体としては不利益のほうが大きい、とユーザは考えているということになる。しかし、この評価は政策決定者世代である中高年以上と、ネットに慣れ親しみこれからの情報社会を担う若い世代で、非常に大きい乖離がある。

そしてこのプラスとマイナスが逆転するのが、35歳前後であった。あたかもその辺りに、ネットに対する意識の見えない「壁」があるかのようだ。

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図5 データ収集・活用への便益評価額(億円/年間)

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「消費者目線」を忘れない制度設計を

この結果をどう考えるか。この分析結果に限らず、若い世代がこのようにデータ収集・活用にポジティブなことについて、「若者は知識・経験が足りず、個人情報を提供するリスクを認識できていないのだ」と指摘する声を聞くことがある。

しかし少なくとも、今回個別のヒアリング調査を行った20代の10人は全員ネットサービスのデータ活用を認知しており、個人情報流出リスクや悪用リスクなども知っていた。そうしたリスクを知ってもなお、利便性を評価し、ネガティブな見解を示した人は1人もいなかったのである。

そもそも20代は生きてきた時間こそ短いが、デジタル機器やネットに触れている時間はむしろ上の世代の人々より長く、知識も豊富かもしれない。「若者は知識がないから」と年齢によって決めつけるのではなく、社会のニーズを正しく認識する必要がある。

ある新しい社会制度を設計するに当たり、それに対して最もネガティブな見解を持つ人に合わせることは、社会全体に停滞をもたらすおそれもある。さらに言うと、これから10年20年と経てば、必ずこのネットにポジティブな世代がマジョリティになってゆくのである。

これほどネット上での個人データ活用が進む中、その仕組みや規制のあり方を検討していくことはますます重要になるだろう。実際、トータルではデータ収集・活用に不利益を感じている人が多い。しかしその際には、政策決定者や委員に参加する中高年世代の価値観だけでなく、10代、20代の若い世代の価値観にも配慮する必要があるといえる。

データ収集・活用は、いわゆるGAFAのみならず、日本企業、さらには日本国民全体の利益にもかかわる問題になってゆく。例えば、政府がデータ活用の規制を強化した結果ネットサービスが有料化した場合、90%以上の人が不利益を感じることを本研究は示している(図3)。

日本の未来戦略にも関係がある

では、どのような具体策を打てばよいだろうか。例えば、ユーザにとってわかりやすい利用規約のあり方を検討したり、データ収集・活用に関する啓発活動を行ったりという施策が考えられるだろう。これは、消費者が自らの意思で様々な選択をすることの一助となる。

また、米企業が提供する検索エンジンに「DuckDuckGo」というサービスがある。DuckDuckGoは、検索の際のプライバシー保護とユーザ情報の不記録をポリシーに掲げており、近年アクセス数が急増している(2018年末で1日あたり3000万件)。

国産ネットサービス事業者も、このようなサービス展開を差別化戦略としたり、オプトアウトのオプションを提供したりすることで、より人々のニーズに応えられるようになる可能性がある。

一方で、最近頻繁にニュースを賑わしているような、消費者が意図していないデータの悪用や不当なシェアに対しては、厳しい態度で接するべきである。それは、消費者のデータ収集・活用に対する漠然とした不安感を払しょくし、結果的にさらなるデータ活用活性化に繋がるだろう。

最後に、最近一部で話題になったJapan Digital Design CTOの楠正憲氏の記事を引用したい。氏の記事では、現在のGAFAに関する議論を「どうにも本質から外れた議論が多い」と断じている。

そのうえで、「データを持ってるからGAFAが強いのではなく、利用者と接する出面と大量データを処理するインフラを手に入れたGoogleとAmazonが、後からデータを競争力に転化する戦略を成功させた」と指摘し、日本政府・企業双方の長期的な戦略的失敗を指摘している6。

ただ規制の強化・緩和ばかりを検討するのではなく、データ社会において日本がどのような方針のもとで競争していけばよいか戦略を立てたうえで、「消費者」「企業」「政府」すべての視点から社会的厚生を最大にするような仕組みを構築していかなければ、このまま日本はさらに衰退していくことになるだろう。

[1] 正確には5,986件で、性年代別のネットユーザ数に応じて割り付けを行って収集している。

[2] 本稿は、以下の研究成果をベースとしている。山口真一, 佐相宏明, & 青木志保子. (2019). プラットフォーム事業者のデータの収集・活用に対する人々の評価―CVMによる支払い意思額の推計―, GLOCOM DISCUSSION PAPER, 19(2), 1-28.http://www.glocom.ac.jp/discussionpaper/dp14

[3] Jones, R. (2017). 22,000 People Agree to Clean Toilets for WiFi Because They Didn't Read the Terms. GIZMODO.https://gizmodo.com/22-000-people-agree-to-clean-toilets-for-wifi-because-t-1796959482

[4] 三菱総合研究所. (2017). 安心・安全なデータ流通・利活用に関する調査研究の請負報告書. 総務省.http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/h29_02_houkoku.pdf

[5] 仮想的な状況として、「利用しているサービスにおいて、、データ収集・活用がされなくなった」「利用しているサービスにおいて、データ収集・活用をしないというオプションが用意された、」の2つを用意し、データ収集・活用に対してポジティブな人に対しては前者を、ネガティブな人に対しては後者をそれぞれ表示した。そして、前者の場合は「データ収集・活用するようになるために支払っても良い金額(月額)はいくらか」を、後者の場合は「データ収集・活用しないオプションのために支払っても良い金額(月額)はいくらかを、利用サービスごとに回答してもらった。詳しくは先述した元のペーパーを参照されたい。

[6] 楠正憲. (2019). GAFA脅威論の死角と蹉跌. note.https://note.mu/masanork/n/nc2c027839477

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