中国・アリババの「最先端会議」に出てわかった、そのヤバすぎる実力

中国・アリババの「最先端会議」に出てわかった、そのヤバすぎる実力

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/07/23
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アリババが生み出す「とてつもない実績」

中国EC最大手の「アリババグループ」が7月4日に丸の内で開催したカンファレンスは、異色中の異色だった。

このカンファレンスは中国でのビジネス展開を考える日本のトップ企業だけに参加が限られたもの。

そんなベールに包まれた会場に筆者は足を踏み入れた。

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登壇したアリババのダニエル・チャンCEO

最初に登壇したのはアリババジャパンの香山誠社長とアリババグループのダニエル・チャン(張勇)CEOだったが、興味深いのはここからだった。

資生堂やコーセーなど中国でビジネスを展開する日本の有名企業のトップたちが次々に登壇するや、彼らがいかにアリババを活用してとてつもない「実績」を叩き出しているかについて披露し始めたのだ。

たとえばアパレル大手のストライプインターナショナル、日用品大手のライオン、食料品大手のUHA味覚糖などは、アリババが展開するエコシステムを使うことで、中国市場での売り上げをなんと3倍から5倍にも膨らませたという。

筆者はこの4月に寄稿した『中国・アリババの最先端ホテルに泊まってわかった、そのヤバい実力』でアリババの最新小売り(ニューリテール)戦略について紹介したが、日本企業のトップたちはすでにそんなアリババの実力を見抜いたうえ、すでに自社のビジネスに徹底的に活用している様子が今回の会議で明らかになった。

ここからはそんな日本企業のトップたちが語った驚きの「中身」を紹介するが、その前に、まずはアリババをめぐる最新動向について見ておこう。

約7.2億人にアクセスできる「アリババ経済圏」

ちょうどこの4月、米アマゾンが中国市場からの撤退を発表した。政治的な要因もあるとはいえアリババは、中国市場でアマゾンを寄せ付けなかったわけだ。

そんなアリババの強みはなんといっても、アリババが提供する「アリババエコシステム」なるサービス群にある。アリババと手を結んだ企業はこのエコシステムを利用することで、ECはもちろんこのこと、物流から決済までを簡単に行うことができる。

たとえばどんな企業もアリババエコシステムを使うことで、毎月7.2億人のアクセスを誇るアリババECの中核的な役割を担う「Tモール(天猫)」を経て、巨大市場の中国にアクセスできる。

さらにアリババが中国全土に張りめぐらせたロジスティクス(物流)網はもちろん、アリババがこれまで蓄積してきたマーケティングのビッグデータを活用したビジネス展開まで可能となる。

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つまり、アリババと手を組んだ企業は、マーケティングにかかるコストも配送にかかるコストも、宣伝費も軒並み最小限に抑えたうえ、中国でのビジネス展開をすることができる。当然、そのメリットは計り知れない。

実際、今回のカンファレンスに登壇した日本企業のトップたちは、そんなアリババのエコシステムの「凄み」を次々に披露していった。

では、1社ずつ紹介していこう。最初に登壇したのはアパレル大手で「earth music&ecology」などのブランドを展開するストライプインターナショナル、石川康晴社長である。ストライプは昨年、アリババとアライアンス(戦略的提携)を締結。すでに中国で11のリアル店舗と天猫で4つのEC店舗を展開しているという。

そんなストライプは、アリババクラウドのサービスを導入。リアル店舗とEC店舗のデータを一括管理することで、在庫や会員情報の管理が飛躍的に合理化したという。

さらに天猫のEC旗艦店では、AIを使って消費者とコミュニケーションをとっている。これにより消費者と実店舗のイベント情報や割引情報を効果的に消費者に届けることができ、リアル店舗、EC店舗ともに成長しているというのだ。

農村の小さなパパママショップまで網羅する「凄み」

石川社長が今回強調していたのは、一見すると競合状態にあると思われがちなECと実店舗のカニバル(共食い)は、起こりえないということだった。

「オンラインで獲得したお客をオフライン、つまりリアル店舗に誘導することもできる。百貨店、スーパーなどのリアル店舗は、これまでオンラインに収益を奪われるという考え方だった。しかし、この考え方はもう古い」

実際に、ストライプの中国事業(ストライプチャイナ)の19年の売上高は天猫の旗艦店で昨年比200%増、実店舗で150%増を記録しているとのことだった。

そもそもリアル店舗とEC店舗が売り上げを食い合わないのは、「OMO(オンライン・マージ・オフライン)」という考え方にもとづく。たとえばリアル店舗で購入したものはスマホで簡単に決済され、さらにそれが家庭にまで配送される。逆にオンラインで発信される情報がリアル店舗に顧客を誘導することにもつながる。

店舗に来ることができない消費者も、店舗で買い物を楽しめる消費者も、相互に利便性と趣向性を向上させるというのが「OMO」の考え方であり、これこそが最先端の小売り業の姿なのだ。

石川社長はこうも発言した。

「こうしたOMOが日本でできるようになれば、すぐにはじめたい」

次に登壇したのは、ライオンの掬川正純社長だ。

「これまで我々がリーチできていたのは、中国の人口の15%ほど。しかしこれからは地方都市、農村部も含めて85%にリーチしていく」

こうした発言が掬川社長から出るのは、もちろん勝算があるからだ。ライオンはこの6月、アリババの「LST(Ling Shou Tong)」というプラットフォームで販売を始めた。LSTとは消費財メーカーと、地方都市、農村部までのパパママショップ、つまり家族経営の小規模店舗とをつなげるBtoBプラットフォームである。

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約8億人が住む地方都市の中小130万店舗以上を束ねるプラットフォームであり、これを利用する商材メーカーは、販路拡大が容易に可能となる。さらにアリババの持つビッグデータを活用して、効果的な流通、在庫管理が可能で、販促までアリババがやってくれるというのだ。

「最終的に130万ストアのパパママショップに商品を送り続ける。これが我々の目標」
「アリババに貢献しながら、一気にビジネスを拡大していく」

掬川社長はこう語った。

売上高「5倍超」の衝撃

このLSTの利用を始めて、一気に成長軌道に乗ったのがUHA味覚糖だ。同社の山田泰正社長はLSTに参入した理由をこう語っていた。

「配荷ができるまとまった店舗数があること。またVMD、つまりビジュアル的にわかりやすいマーチャン・ダイジング(販売管理)に優れていたこと。さらに顧客への具体的なプロモーションがあったこと。これがLSTを利用する決め手となった」

自社商品を売り込んでいける130万以上のまとまった店舗があることは、UHA味覚糖の販売網を一気に拡大させた。同社が商品を卸していた中国の店舗は昨年までは1000店舗に過ぎなかったが、LSTの利用を始めた4月以降になんと一気に4000店舗との取引が実現できたのだ。さらに来年には1万3000店舗に商品を配荷する計画だという。

山田社長はLSTで取引が始まった蘇州の小売り店舗を視察に出向いたという。

「実際に蘇州の配荷店舗を見に行くと、我々ではとうてい探し当てられそうもない路地裏にあった。ところがここが日常的に周辺住民が集まってくる店だったのです。我々だけではこんな店舗まで配荷することはできないし、それ以前にこんな小さなパパママショップまで商談を持ち掛けようとは思わなかった。そこまで自分たちだけではやってられへんわと、こう思いました」

山田社長は「私は上海経済圏の売り上げを、ほとんど取りつくしたと思い上がっていた。実際には半分も取っていなかったんとちゃうんか」とLSTの流通網に舌を巻いていた。

しかも同社の商品が、顧客の目に入りやすく、手に取りやすい位置に陳列されるよう指導されていたというから驚きだ。

また実験的に行った販促企画でも、驚くべき結果が出たという。

「中国人に知名度の低い我々の商品の販促をどうするか。これまでならテレビCMを打ちたくなるところですが、アリババさんはユーザーに対して効果的な販促を展開してくれました。オンラインを使ったクーポンの配布です。しかもターゲットが見事に絞られていて、このクーポン、3日間でなんと1万人以上が使ってくれました」

高額のテレビCMを打つより、はるかに安くはるかに効果的な販促を山田社長は見せつけられたというのだ。

結果、LSTは驚くべき数字をUHA味覚糖にもたらした。

4月の売上は前年同月比425%を記録、5月には500%を超え、さらに6月に577%に達した。山田社長は「天井が見えない」と困惑気味に語るが、2020年には18年比で約2倍となる売上100億円の目標を掲げるに至っている。この数字すらもおそらくは通過点に過ぎないのではないか。

スピード感が違いすぎる

もう一つ、UHA味覚糖の話で筆者が驚かされたことがある。

山田社長がLSTについて知ったのは、今年2月に開かれたアリババのカンファレンスにおいてだったそうだ。それからすぐにアリババジャパンからメールが届き、UHA味覚糖大阪本社に香山社長がやってきたという。3月13日には上海オフィスで事業合意。そしてLSTでの販売がスタートしたのは4月1日だった。合意からわずか19日。このスピードがアリババの真骨頂だろう。

中国に赴任して3年となるという資生堂の中国地域CEO、藤原憲太郎執行役は、中国の変化のスピードをこう表現した。

「私が赴任したこの3年間でも大きく変化したのが中国市場。3年前に策定した戦略はもう意味がない」

藤原氏は経済成長のスピードが世代間のギャップを生み、また続々と消費を楽しむ人が増え続けている中国を冷静に見据えていた。そんな中国はやがて「多様な価値観が複雑に絡み合うマーケットになる」と語り、アリババが蓄積し続けるビッグデータを踏まえて「プラットフォームとそのデータを活用し、いかにイノベーションを起こすかが大事だ」と語ったのは印象深かった。

このカンファレンスでダニエル・チャンCEOは、18年度のニューリテール事業の流通総額が約97兆円に達したと発表した。利用者は中国市場が6.5億人、中国国外の市場で1.2億人だったという。6.5億人規模の市場を持つ東南アジアへの進出も加速している。

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こうしてアリババは世界にアリババ経済圏を張り巡らせようとしているのだが、その特徴はやはりLSTに代表されるように地域の小規模店舗との共存共栄を図っていることといえるだろう。

日本のパパママショップがどのような末路をたどったかは、読者諸兄姉はよくご存知だろう。大型店舗の進出を招いては、地域のパパママショップは壊滅し、商店街はシャッター通りと化した。

アリババとアマゾンの「意外な違い」

パパママショップとの連携を可能としたアリババのデジタル資本主義は、ベースが社会主義国である中国ならではの特徴なのかもしれない。しかし一方で、アリババがオンラインと既存のオフライン(リアル店舗)とのシナジーを実現するシステムを開発したことは、急激な経済成長にともなって放っておけば、社会に絶望的な格差を生じさせかねない中国において、小売店主たちとの共存を図り、さらには雇用不安を解消させる道筋をつけたともいえる。

また、こうも考えられるだろう。

2000年代から急進展したグローバリゼーションはドメスティックの経済構造を疲弊させてしまったが、これが従来の資本主義の欠点だとすれば、アリババのデジタル資本主義はこれを補うものであるかもしれないということだ。我々はここにより注意を払うべきだろう。

この社会的な意義は、アリババが「デス・バイ・アマゾン」と恐れられる米EC最大手との競争を有利に進めるうえでの最大の武器となるだろう。

筆者はこれまで日本の産業や日本企業の競争力をさらに向上させたいという使命感を持って、世界のメガテック企業をベンチマークしてきたが、このアリババのインパクトはあまりに大きい。そう思わずにはいられないのだ。

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