やはり黒田総裁続投か? 安倍首相が懸念する2つのリスク

やはり黒田総裁続投か? 安倍首相が懸念する2つのリスク

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  • 更新日:2017/12/06
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衆議院選挙の自民党・公明党圧勝で、上昇する日経平均株価 (c)朝日新聞社

10月22日に行われた衆議院選挙で定数の3分の2以上の議席を獲得し圧勝した、安倍晋三首相率いる自民党、公明党の与党。金融市場はこの結果を歓迎しているようで、新聞各紙の情勢調査が出はじめたあと、日経平均株価は16日続伸し、24日の終値は2万1805円17銭まで値上がりした。

安倍首相は、物価が下がり、経済が縮小していくデフレから脱却するため、アベノミクスを継続していく姿勢を示している。

日銀トップ人事も迫るなか、今後の日本経済はどうなっていくのか。『日銀と政治 暗闘の20年史』の著者で、朝日新聞記者の鯨岡仁さんに寄稿してもらった。

*  *  *

■日銀トップの人事迫る ポスト黒田は誰?

アベノミクスの要となっているのは、金融政策だ。

2018年4月に任期が切れる黒田東彦日本銀行総裁らの後任は、誰になるのか? 日銀正副総裁の人事に、はやくも関心が集まっている。

日銀の正副総裁人事は、衆参両院の過半数による同意が必要だ。ただ、自民、公明の与党が圧勝したことにより、安倍首相は与党内さえまとめられれば、自ら選んだ正副総裁を、そのまま任命することができる状況になっている。

ポスト黒田は黒田総裁――。有力視されているのは、黒田総裁の続投である。

黒田総裁は13年4月に「異次元緩和」を打ち出し、その後も、マイナス金利やイールド・カーブコントロールなどを導入し、緩和路線を続けてきた。株価も上がり、景気も悪くない。物価は14年の消費増税後にマイナスに陥ったが、いまは1%に近づきつつある。目標の2%にはほど遠いが、政権内では「デフレではない状況をつくり出した」と評価する声がほとんどだ。

■首相ブレーンからは黒田続投に反対の声

とはいえ、続投にはいくつかの反対論もある。

1つは年齢の問題だ。黒田総裁はすでに72歳で、もし再任されれば、任期を終える時点で78歳になる。過去の日銀総裁のなかでは、突出して年齢が高い。「あまりに高齢すぎて、5年間の任期をまっとうできないのではないか」という心配だ。

海外には、アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)で「金融の神様」「マエストロ」とよばれ、議長を約18年6カ月続け、退任時には79歳になっていたアラン・グリーンスパン氏のような例もある。菅義偉官房長官も「(黒田総裁の)年齢は全然考えたことがなかった。現時点で何も決めていないが、その時点で内閣として最善の方を任命する」(4月の共同通信の単独インタビュー)と語っている。本人が健康で、意欲さえあれば、再選を妨げないというメッセージとも受け取れる。

もう1つの反対論は、財政政策についてのスタンスだ。

黒田総裁は、経済財政諮問会議などの場で、首相に財政再建の必要性を説き、消費増税を実行するよう迫ったこともある。首相ブレーンは黒田総裁の財政政策についての発言を苦々しく感じてきた。

首相ブレーンの1人である本田悦朗氏(駐スイス大使)は「金融政策を支える財政政策にする必要がある」と主張し、「黒田続投には反対」と明言したこともある。同じく首相ブレーンの中原伸之氏(元日銀審議委員)も、「黒田氏には2年で2%の物価上昇率を達成できなかった責任がある」として、続投には慎重な意見だ。

■ポスト安倍を狙う「岸破聖太郎」

ただ、黒田総裁以外の人物を選ぶとしても、選択肢はそれほど多くない。

日銀職員出身の中曽宏氏(副総裁)や雨宮正佳氏(理事)、首相ブレーンの本田氏や、第一次安倍政権のときの経済財政諮問会議で民間議員をつとめた伊藤隆敏氏(米コロンビア大学教授)、アジア開発銀行総裁の中尾武彦氏などの名前が挙がっている。

しかし、いずれも、黒田総裁を上回るメリットがあるとは思えず、決め手に欠ける。中曽、雨宮の両氏を選べば、日銀がアベノミクス以前の政策に戻るというメッセージになりかねないし、本田氏は安倍首相の「お友達」という批判が出かねない。伊藤氏や中尾氏は財政政策で首相と考えが違う。

さらに、いまの政策を継続しようと考えている安倍首相にとっては、黒田総裁以外を選択しようとすれば、2つのリスクが生じることにもなる。

1つは、政治的なリスク。

与党が大勝したとはいえ、自民党内にはアベノミクスに批判的な勢力が存在しており、衆院選前には「ポスト・アベノミクス」をさぐる動きが活発になっていた。

永田町では、ポスト安倍を目指す自民党内の面々を、「岸破聖太郎」と呼んでいる。

岸田文雄氏(自民党政務調査会長)、石破茂氏(元地方創生相)、野田聖子氏(総務相)、河野太郎氏(外相)の4人である。麻生太郎氏(財務相)を入れて「5人」という人もいる。

安倍首相の盟友の麻生氏や、ポスト安倍が本命視されている岸田氏は、安倍首相の政策に異論を唱えにくい。

■ポスト・アベノミクスの可能性

だが、勝ち取りに行く「チャレンジャー」的立場の石破氏や野田氏、河野氏は事情が違う。

たとえば、野田毅氏(自民党税制調査会名誉会長)らは5月、「財政・金融・社会保障制度に関する勉強会」を立ち上げた。ポスト・アベノミクスをさぐることを目指しており、発起人には、ポスト安倍を目指す野田総務相らも加わった。石破氏も会合に顔を出している。

河野氏らも、今年春に自民党行革本部に金融政策の勉強会を立ち上げ、4月には「日銀の金融政策についての論考」をまとめた。大規模な金融緩和が長引けば、リスクが大きくなるという内容で、菅官房長官らに論考を手渡している。

これらの動きは、来年9月の自民党総裁選をにらんだ権力闘争の意味合いが強い。

2012年9月から2期6年をつとめた安倍首相を交代させ、「ポスト安倍」を目指すなら、アベノミクスに代わる新機軸の経済政策の「旗」を打ち立てる必要があるからだ。

黒田総裁の続投であれば、石破氏や野田氏のような首相に批判的な勢力も、反対しにくい。2013年春に、黒田総裁人事案に一度、賛成票を投じてしまっているためだ。しかし、首相が別の人物を選ぶなら、人事への賛否を問う採決をきっかけに、アベノミクスについての論争の巻き起こり、安倍3選を阻止しようという動きを触発する可能性がある。

■黒田が交代すればデフレに逆戻り?

もう1つは、経済リスクである。

市場は黒田続投を織り込みつつある。その象徴は円相場だ。民主党政権時代に1ドル=80円台だった円相場は110円台で安定しており、市場参加者は大きな金融政策の路線変更がないという前提で動いている。黒田が交代すれば、市場が方向感を失い、円高が進む可能性も否定できない。その場合、株価や輸入物価が下がり、デフレに逆戻りしてしまう恐れもある。

■国債購入はしばらく続き、財政再建は先送り

黒田総裁が続投したとしても、日銀にはこの先、難題が待ち受けている。

日銀は13年から国債を買い続け、保有残高は430兆円あまりに達している。これは、発行済みの国債全体の4割を占め、銀行や保険会社などの民間の金融機関の保有国債の合計を上回っている。当面は目標とする物価上昇率2%に届かない状況で、日銀の国債の大量購入はしばらく続くとみていいだろう。

一方、安倍首相は衆院選で、消費税率の引き上げで得た税収増の使い道を変えると訴えた。

2019年10月に予定通り消費税率を10%へ引き上げる場合、税収増となる5兆円を、毎年の借金の増加を抑えるのではなく、「教育無償化」に使う。

安倍首相は、年内に教育無償化を盛り込んだ2兆円規模の「政策パッケージ」をまとめる。この一方、2020年に基礎的財政収支(プライマリー・バランス)を黒字化するという目標を先送りした。来年6月に新たな目標を策定するというが、財政健全化に向けた努力はみえてこない。

■デフレか、インフレか

財政と金融緩和の拡大――。この状況で進むのは、財政政策と金融政策の「統合」である。

国は借金をして、教育無償化などにお金をつぎ込み、日銀が通貨を増発してファイナンスする。まさに絵で描いたような「財政ファイナンス」といえよう。

その結末はどうなるのか? それは誰にもわからない。

これほど財政赤字を抱えた状況で、「デフレ脱却」を目的に大規模な金融緩和を試した先進国は、ほかにないからだ。ある人は「いずれ通貨円が暴落する」といい、ある人は「いずれハイパーインフレが起きる」と予言する。しかし、「そんなことには絶対ならない。むしろデフレが続くのでは」という人もいる。

いま、確実にいえるのは、現時点で安倍首相や黒田総裁が金融政策の効果として意図した「2%程度のマイルドなインフレ」にはなっていないし、ハイパーインフレのきざしもない、ということだ。私たち国民は今回の衆院選で、いまの安倍政権の経済政策(金融政策)にお墨付きを与えた。その結果、2%の目標が達成しない状況では、日銀には、国の借金の証文である国債が、「マグマ」のように蓄積し続けるということだ。

これから、どうすべきか。5年に一度の日銀正副総裁人事のタイミングで、国会などで議論すべきことは山ほどある。将来がみえにくいときだからこそ、過去の歴史をひもとき、じっくり考えるべきときだろう。

鯨岡仁/朝日新聞記者。1976年、東京都生まれ。1999年、早稲田大学卒業、日本経済新聞社入社。2003年、朝日新聞社に移り、政治部記者として、首相官邸、防衛省、民主党などを担当。2008年、経済部記者になり、日本銀行担当としてリーマン・ショックを取材。社会保障と税の一体改革、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉、内閣府、財務省、自民党、首相官邸(2度目)、経済産業省などを担当。景気循環学会所属。2017年10月に、『日銀と政治 暗闘の20年史』(朝日新聞出版)を上梓

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