踊り場に来たクルーズ船ビジネス、異業種からの黒船参入で衝撃走る

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  • 更新日:2019/08/25
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一度に大量の外国人観光客を呼び込める手段としてこの数年、急激に伸びてきたクルーズ船ビジネスが伸び悩み、踊り場を迎えている。クルーズ船に乗る客の7~8割はリピーターのため、同じ観光メニューでは満足できない。リピーターに新たな感動を与える寄港地でのきめ細かいアトラクションと、シニア層が多かった客層を若い世代にまで広げられるかどうかが、日本にクルーズが定着できるかのカギを握っている。一方で、家電製品が中心の通販大手のジャパネットグループがこのビジネスに新規参入、大型船を使ったチャーターにより旅行業界に新風を巻き起こしている。

ベリッシマ

減少した旅客数

クルーズ船を利用して来日する外国人旅客数、寄港回数はこの数年大幅に伸びていたが、2018年は旅客数が前年比3.1%減の245万1000人となり、クルーズ船の寄港回数は一桁の伸びの6.0%増の2930回にとどまった。旅客数が減ったのは中国発の旅客数が203万人に落ち込んだのが大きな要因で、中国の旅客数増を当て込んで各船会社が配船を増やし供給過剰になった。

国土交通省はクルーズ船旅客数を20年には500万人にする目標を掲げているが、いまの伸びでは到達するのは困難で、クルーズビジネスの再構築が求められている。寄港地別では博多港が279回でトップ、次いで那覇港の243回、長崎港の220回、横浜港168回と続く。

相次ぐ新しい岸壁

クルーズ船が寄港する港ではこの数年、20万トンクラスの超大型船も受け入れられるようにと、専用のふ頭や岸壁を新設する動きが相次いでいる。寄港回数3年連続トップの博多港は、中国や台湾からのクルーズ船の玄関口として港の整備に力を入れている。昨年9月に世界最大級の22万トンクラスの大型クルーズ船が接岸できるバースが完成した。これにより中央ふ頭でクルーズ船が2隻同時接岸できる。さらに寄港数の増加に対応して、数年かけて港を拡張する計画もあり、将来的にはオーストラリアのシドニー港を目指している。

横浜港はこれまで大型のクルーズ船がベイブリッジをくぐれないことから寄港ができない船が増えていたが、4月には大黒ふ頭はブリッジの外側にできたため大型船も着岸できるようになった。これにより、今年は大黒ふ頭を利用する超大型船は昨年の2倍となる22回が見込まれている。

今年のゴールデンウィークには横浜港発着のクルーズ船4隻の同時接岸が実現した。さらに将来的には、大さん橋、大黒ふ頭、新港ふ頭、山下ふ頭、本牧ふ頭の5つのふ頭で同時に7隻の接岸が可能になる。新港ふ頭には今年の秋に新しく客船ターミナルが完成して、ターミナルの1、2階にはCIQ(税関、出入国管理、検疫)がスムーズにできるようになるなど、同港はワールドクラスのクルーズ港に向けた取り組みを積極的に進めている。

同様に東京港も高さ52メートルのレインボーブリッジを通過できない大型船が増えたため、ブリッジの手前に世界最大級のクルーズ船が着岸できる東京国際クルーズ船ターミナルを建設中で、東京五輪開催に合わせて20年7月14日にオープンする。

このほか青森港は4月にクルーズ船専用ターミナルが完成、今年は過去最大の27回の寄港を予定している。また昨年30回寄港した熊本県八代港は、来年4月に専用バースが完成する。

増えるチャーター

H.I.S.グループのクルーズプラネットの小林敦社長は、現状について「日本のクルーズ人口は増えてはいるが伸び率が鈍く、人口比では0.25%でしかなく、米国の3%、1200万人とは比較にならないほど少ない。クルーズがブームにまでならない理由は、価格が高いイメージがあることが大きい。働き方改革が叫ばれたが、長期間の休みがなかなか取れず、認知度が広がらない」と指摘する。

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サン・プリンセス内部

そうした中で同社は東京五輪を視野に入れて、20年はリスクを取ってクルーズ船を一隻丸ごと貸切るチャーターを増やす計画だという。具体的にはオリンピックが閉幕した翌日の8月10日から16日までの期間、2000人が乗れるクルーズ船「サン・プリンセス」をチャーターして、お盆休みを利用できる横浜―釜山―徳島―新宮―横浜を7日間で回るツアーを売り出す。徳島では阿波踊りを桟敷席から鑑賞、新宮では世界遺産に指定された熊野古道まで足を延ばすこともでき、シニアだけでなく子供を含む家族連れの参加を期待している。チャーターによるツアーは、ラグジュアリーから一般客室まで大量に販売できるため営業はしやすい反面、外れると大きな損失になるリスクがある。

外国船の寄港が減少

ほかの船会社もチャーターによる販売を増やす計画のようだ。しかし外国船社の場合、カリブ海、地中海、アラスカなどのクルーズが絶好調なため、昨年に伸びが鈍る傾向がみられた日本発着の船が、来年、計画通りの客が集まらなければ、日本への配船は増えないだけでなく減らされる可能性もある。外国船の場合、クルーズ船の寄港回数は17年に初めて2000回を超える2013回を記録したが、18年は1913回と減少している。

ノルウェージャン・クルーズライン(本社、米国マイアミ)の川崎義則ジェネラルマネージャーは「18年に2回自主クルーズを行い、19年は2回行う予定」としているが、19年ツアーの詳細は発表できていない。外国船は日本発着が盛り上がらなければ、本社の意向で船をほかに回されるかもしれない。

「ジャパネット」が挑戦

家電通販大手のジャパネットがクルーズ市場に参入、チャーター船で大量の利用客を見込んでおり、業界に衝撃を与えている。今年は既に6回のチャータークルーズを実施してほぼ満席の盛況だったという。

20年は4月から10日間の日程で横浜―高知―鹿児島―済州島―秋田―函館を回るコースを5回、横浜―鹿児島―那覇―宮古島―基隆(台湾)を回るコースを3回の計8回のチャータークルーズを行うと発表した。一度に5600人が乗船できる大型船「MSCベリッシマ」を全船チャーターし、予約が埋まれば年間で約4万5千人が利用する計算になる。

同社が受けている理由は、クルーズ旅行が割高で敷居が高いというイメージをなくしていることだ。具体的には、寄港地での主要観光地を回る無料循環バス、船内ではアルコールを含むドリンクの追加料金がなく飲み放題、ジャパネットの添乗員が搭乗して専用デスクを設置―など。またテレビショッピングを通じてツアーの内容に関して丁寧に説明をしていることもあって、他社のクルーズツアーと比較して初めての参加者が7割と多いのが特徴。

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ベリッシマ

ジャパネットはこの数年、家電製品だけでなく、寝具や水の宅配サービスなど商品・サービスの幅を広げてきており、クルーズビジネスへの参入もその一環とみられる。既存の旅行会社も販売力のあるジャパネットの参入により、安閑とはしておられない。

「水際作戦」

寄港地で観光客が急増すると、心配なのが違法薬物の持ち込みや密輸などが増えるリスクが高まることだ。超大型船の場合、一度に5000人もが入国するため手続きに時間が掛かるのが課題になる。全国の税関を統括する財務省関税局監視課では、違法入国や違法物の持ち込みを防ごうと「水際」作戦を進めている。

数年前まではクルーズ船で入国する人の多くは富裕層だったが、いまは1泊1万円で楽しめるクルーズもあるため、多様な人が入国する。こうした事態に対応するため、同省では本年度からボディスキャナーという機器を税関に導入、入国する際にゲートをくぐってもらい、違法薬物などの持ち込みを食い止める。また、入国手続きをスピードアップするため、パスポートのコピーを読み取るバーコードリーダーを設置し、ブラックリストに載った不審者などを素早く特定する。また、空港や港の税関に配置する職員数も17、18年度と200人以上増やし、19年度は9617人になっている。

同省によると、いまのところクルーズ船の乗客で大きな捕り物事件は発生していないが、油断はできない。入国に際しては、入国、税関、検疫の3つの手続きが必要になる。日本の港ではこの手続きが遅いなどのクレームは聞こえてこないが、今後は入港回数の増加に伴い、厳重な検査を行いながら円滑な手続きをどう確保していくかが課題になる。

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