イーロン・マスクの「世界最強ロケット」は、いったいなにがすごいのか?

イーロン・マスクの「世界最強ロケット」は、いったいなにがすごいのか?

  • ハーバー・ビジネス・オンライン
  • 更新日:2018/02/14
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宇宙を飛ぶテスラ・ロードスター。この映像を実現させた背景には、将来につながる技術的挑戦があった Image Credit: SpaceX

イーロン・マスク氏率いる宇宙企業スペースXが、またもや快挙を成し遂げた。

2018年2月7日(日本時間)、同社は新型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」を打ち上げた。“ヘヴィ”の名のとおり、世界最大級の巨体をもつロケットは、のっそりと発射台を飛び立ったあと、宇宙へ向けてぐんぐん加速した。

そして、搭載していたマスク氏の愛車テスラ・ロードスターを、火星の軌道を越えるほど遠くまで飛ぶ軌道に投入。テスラ・ロードスターは今後、数万年にわたって太陽を回り続ける“人工惑星”となった(テスラ・ロードスターが宇宙へ打ち上げられることになった背景については 参照『火星に電動スポーツカーを打ち上げる!? “イーロン・マスクの奇妙な冒険”はどこまで本気?』)。

このファルコン・ヘヴィは、いったいどんな実力をもったロケットなのだろうか。そしてマスク氏は、この超大型ロケットでいったいなにをしようとしているのだろうか。

◆現役ロケットの中で世界一の打ち上げ能力、なのに安い

ファルコン・ヘヴィの最大の特長は、現役のロケットの中で、最も打ち上げ能力が大きいということである。

たとえば、国際宇宙ステーションなどが回っている地球低軌道には最大63.8トンもの打ち上げ能力をもつ。ちなみに日本最大のロケットであるH-IIBの打ち上げ能力は約16.5トンなので約4倍。また、これまで世界最強の打ち上げ能力をもっていた、米国の「デルタIVヘヴィ」ロケットと比べても、3倍近くも大きい。

この強大な打ち上げ能力をもってすれば、基本的にはどんな衛星や探査機で打ち上げることができる。たとえば規格外の大きさをもつ人工衛星を打ち上げることはもちろん、有人宇宙船を月に飛ばすこともできるし、火星や冥王星といった他の天体に、大型の探査機を飛ばすことだってできる。

そして、世界最強の打ち上げ能力をもっているにもかかわらず、ファルコン・ヘヴィはとても安い。

スペースXが出しているファルコン・ヘヴィの価格は9000万ドル~1億5000万ドル(約98億円~163億円)。いっぽう、前述したデルタIVヘヴィは約3.5億ドル(約380億円)もするため、ファルコン・ヘヴィは3倍近い打ち上げ能力をもっていながら、価格は半分以下ということになる(もちろんスペースXの出す価格が正しいとして、だが)。

◆超大型ロケットでも、やっぱり「再使用」

世界最強の打ち上げ能力をもつ超大型ロケットながら、価格が安い背景には、既存のロケットを合体させて造られたということと、スペースXが得意とする「ロケット再使用」がある。

同社は現在、大型の主力ロケットとして「ファルコン9」を運用しているが、ファルコン・ヘヴィはこのファルコン9を3機合体させるようにして造られている。既存のロケットを使うことで安く手軽に、超大型ロケットを実現しているのである。

また、ファルコン9は機体を逆噴射で着陸させて回収し、ふたたび打ち上げに使うことができ、これにより打ち上げコストの低減を図っている。そして当然、そのファルコン9を使うファルコン・ヘヴィでも踏襲されており、再使用によるコストダウンが図られている。

今回の初打ち上げでもさっそく再使用が行われ、ファルコン・ヘヴィを構成している3機のファルコン9のうち、2機は以前打ち上げられたことのある機体の再使用だった。さらにこの2機は、上空で分離後、見事にシンクロしながら自律的に発射台近くの着地地点まで舞い戻り、着陸に成功した。その光景はあたかもSF映画か、CGでも見ているかのようだった。

ちなみに機体を再使用する場合、打ち上げ能力は前述の最大63.8トンから下がることになる。それでも依然として、他の主力ロケットよりも高い能力を、同等かそれ以下の価格で販売できるため、ファルコン・ヘヴィの強みが失われることはない。

◆ただ車を火星に向けて打ち上げただけではなかった!

今回のファルコン・ヘヴィの初打ち上げでは、マスク氏の愛車だったテスラ・ロードスターが搭載されていたこと、そして火星の軌道にまで達するように打ち上げられたことが、一般のメディアでも話題となった。

その模様はYouTubeを通してリアルタイムで全世界に中継され、大勢の人々が青い地球と漆黒の宇宙を背景に漂う、テスラ・ロードスターの姿を眺めた。

しかし、この非現実的な光景が実現した背景には、ある技術的な挑戦があった。

今回の打ち上げでは、地球から火星に向かう際、ロケットエンジンを何回かに分けて噴射するということが行われた。また、その間隔にも約5時間ほどの間があった。

言葉にすると簡単だが、ロケットエンジンに何度も火をつけて動かすのは難しい。さらにその間隔が開くと、燃料が凍ったり、電子機器が壊れたりといったリスクもある。しかしファルコン・ヘヴィは、このハードルを難なくこなし、なに食わぬ顔で車を火星へ向けて飛ばしたのである。

そしてこの技術は、静止軌道と呼ばれる、通信衛星が多く打ち上げられる軌道に向けて、衛星を打ち上げる際に役に立つ。多くのロケットでは、静止軌道に衛星を直接投入することができない。そのため、その一歩手前の軌道に投入し、あとは衛星側がロケットエンジンを噴射して、静止軌道に乗り移っている。

しかしファルコン・ヘヴィのこの技術を使えば、静止軌道に衛星を直接投入すること可能になる。結果、衛星側の負担は大きく減るため、軽量化や運用期間の長寿命化ができる。

同様の技術は他のロケットでももっているものがあるが、ファルコン・ヘヴィの強大な打ち上げ能力をいかせば、超大型の衛星でも同じように直接投入ができるという強みがある。

◆イーロン・マスクはこのロケットをなにに使うのか?

ファルコン・ヘヴィはやっと1号機が上がったばかりで、今後も安定した運用が続けられるのか、価格は9000万ドルという予定どおりに抑え込めるのかといった課題はまだある。

しかし、すでに商業衛星の打ち上げを受注しており、今回の打ち上げ成功と、静止軌道に衛星を直接投入ができる能力の実証を受けて、さらなる受注も期待できる。とくに静止軌道には、民間の通信衛星や米国の偵察衛星が多く打ち上げられているため、ファルコン・ヘヴィのこの能力によって、衛星打ち上げを受注できるチャンスは増えることになろう。

また、米国航空宇宙局(NASA)の今後の計画に、大きな影響を与えることにもなるかもしれない。

NASAは現在、ファルコン・ヘヴィの約2倍の打ち上げ能力をもった超大型ロケット「SLS」の開発を進めている。NASAはSLSを使って、宇宙飛行士を月や火星に送り込んだり、大型の探査機を打ち上げたりといったことを計画しているが、開発は遅れ続けており、その開発費も打ち上げコストもべらぼうに高い。そこで業界関係者や議員の中には、SLSを止めて、ファルコン・ヘヴィを活用すべきとの声もある。

SLSの開発が進められている背景には、多分に政治的な要素もあるため、単純にコストが高いからという理由で、すぐにでもSLSが中止され、安価なファルコン・ヘヴィが担ぎ出されるということはないだろう。しかしそれでも、実際にファルコン・ヘヴィが完成したいま、そうした声はさらに強くなり、SLSの存在意義がいま以上に問われることになろう。

もうひとつの使いみちとしては、米国の特殊な軍事衛星の打ち上げである。米国は多種多様な軍事衛星を打ち上げているが、その中には飛び抜けて大きくて重い衛星もある。これまでは、前述したデルタIVヘヴィがそうした衛星の打ち上げを担ってきたが、これからは半額以下の価格で打ち上げられるファルコン・ヘヴィに、そのお鉢が回ってくる可能性がある。

◆ファルコン・ヘヴィの可能性は無限大

なにより重要なことは、今後はファルコン・ヘヴィによる打ち上げ念頭に置いた、いままでにない大型の衛星や探査機の開発が可能になるということだろう。

これまで大型の衛星や探査機を造ろうとすれば、それ自体のコストはもちろん、打ち上げにかかるコストも膨大なものになるため、とても実現できなかった。しかし、強大ながら安価なファルコン・ヘヴィが誕生したいま、それが可能になる。

たとえば火星に着陸して、石や砂を採取して地球に持ち帰るような探査機もできるだろうし、液体の海があるとされる、土星や木星の衛星を探索する潜水艦のような探査機、さらにアポロ計画のような月への有人飛行もできるだろう。その可能性は計り知れない。

スペースXは、そして人類は、新たなる宇宙時代を拓くだけの力をもった、強力なロケットを手に入れた。

そしてもちろん、スペースXにとってファルコン・ヘヴィは終着点ではない。同社の究極の目的である、人類の宇宙進出と火星移住の実現、そしてそれを可能にするための新たなロケット「BFR」の開発に向け、ファルコン・ヘヴィをもその糧にしつつ、未来へ進み続けようとしている。
<文/鳥嶋真也>
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。
Webサイト:http://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info(https://twitter.com/Kosmograd_Info

【参考】
・Falcon Heavy | SpaceX(http://www.spacex.com/falcon-heavy
・Falcon Heavy Demonstration Mission(http://www.spacex.com/sites/spacex/files/falconheavypresskit_v1.pdf
・Falcon Heavy Test Launch | SpaceX(http://www.spacex.com/news/2018/02/07/falcon-heavy-test-launch
・SpaceX successfully debuts Falcon Heavy in demonstration launch from KSC – NASASpaceFlight.com(https://www.nasaspaceflight.com/2018/02/spacex-debut-falcon-heavy-demonstration-launch/
・Mars | SpaceX(http://www.spacex.com/mars

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