【開発秘話】累計400万本以上売れているゼブラのジェルボールペン『サラサドライ』

【開発秘話】累計400万本以上売れているゼブラのジェルボールペン『サラサドライ』

  • @DIME
  • 更新日:2017/11/14

■連載/ヒット商品開発秘話

左利きの人がボールペンで字を横書きするときや、右利きの人でも封筒やハガキに宛名を縦書きするとき、インクが伸びて字と手が汚れることがある。「速くインクが乾いてくれれば……」と思ったことは数知れないはずである。

この問題の解決策となるのが、ゼブラの『サラサドライ』だ。2016年2月に発売された『サラサドライ』は、インクの乾燥時間を同社従来品より約85%縮めたのが特徴(0.5mmで普通紙に書いた場合)。紙に浸透しやすい新成分をインクに配合したことで、書いた直後に触れても汚れなくなった。インク色は黒、赤、青の3つで、ボール径は0.4mm、0.5mm、0.7mmの3種類。これまでに累計400万本以上売れている。

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■アメリカでの先行販売が決定

ボールペンのインクは主に、油性、水性、ジェルの3つだが、日本では油性とジェルがメインで、水性はあまり受け入れられていない。なぜなら、ボールペンはノック式が主流の日本では、キャップ式にしか使えない水性は使い勝手が良くないからである。

『サラサドライ』開発のきっかけは、水性ボールペンが好きな同社の研究者の、水性ボールペンに対する強い思いにあった。その研究者とは門脇裕幸氏(研究開発本部研究部化学研究二課 課長)。門脇氏は、軽くスラスラ書ける水性ボールペンが好きで、日本で水性ボールペンのヒット商品を出したいと考えていた。

水性ボールペンが日本で受け入れられていない理由はインクがキャップ式にしか使えないことのほかにも、筆記線が薄い、インクの乾燥に時間がかかる、ということも考えられた。「ノック式にも使えるようにして利便性を高めると同時に、インクを改良して日本市場向けの新商品として考えるようになりました」と門脇氏は振り返る。

門脇氏は2009年、温めていたプランを社内発表会で提案する。ただ、このときは特徴が伝わりづらかったことから、ウケがよくなかった。はっきりとした特徴を打ち出した方がいい、ということから、アイデアを練り直すことにした。

特徴として何を明確に打ち出したら興味を持ってもらえるだろうか--。考えた末に門脇氏が出した結論が、インクの速乾性だった。再び2009年の社内発表会で、インクの速乾性を強調したところ、アイデアが評価され、商品化にゴーサインが出る。

ただ、日本市場向けの新商品として提案していたものの、反応を示したのは米国現地法人だった。米国現地法人が反応したのは、アメリカには左利きの人が多く、インクがすぐ乾かないと手が汚れ不満につながるため。それまでアメリカ向けの特徴ある商品がなかったこともあり、インクがすぐ乾くボールペンをアメリカ市場向けに発売することにした。

また、研究開発本部商品開発部の小野陽祐氏は、市場動向から見た『サラサドライ』のアメリカ先行販売の理由を、次のように話す。

「アメリカでは、油性ボールペンは安いものは相当安いのですが、ジェルボールペンは日本と同じかそれ以上の価格で売られる上に、日本よりジェルボールペンが使われている割合が高いです。市場は米国メーカーが上位を占めていたので、当社としては米国メーカーのシェアを切り崩し自社のシェアを拡大したいという思いがありました」

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ゼブラ

研究開発本部研究部

化学研究二課

課長

門脇裕幸氏(左)

研究開発本部商品開発部

小野陽祐氏(右)

■1色につき1000種類のインクを試作

こうして『サラサドライ』の開発は始まったが、インクを早く乾かす方法は色々考えられた。様々な方法を検討した結果、確実に効果があり一番速く方法は、ジェルインクに新たな成分を加えることという結論に達した。開発目標は、『サラサ』はもちろんのこと、市場に出回っているジェルボールペンの中で一番速く乾くこと。そのため、他社のジェルボールペンのインクが乾く時間も調べた。

候補となる成分を取り寄せては、インクを試作。1色につき1000種類はつくり、3色合計で3000種類以上はつくった。

これほど膨大な試作をつくって検証したのは、新しい成分と染料など他の成分との相性を検討しなければならなかったため。色によって成分がやや異なることから、一色ごとに検証が必要になった。速乾性はもちろんのことだが、長期間安定して書けること、紙に裏写りや滲みが起きないことも重要なポイントになるため、インクの試作は膨大になったというわけである。

膨大な試作の結果、インクを速く乾かすことに最も寄与する新成分は3色共通のものを使用することになった。ただし、それに付随する成分は色ごとに異なるという。また、水性インクの弱点でもある筆記線の薄さは、濃い染料を使うことで克服することにした。

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速乾性を高めたポイントは、乾燥性を高める新成分の使用にある

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同社従来品と比較したインクの伸び。『サラサドライ』が乾く時間では従来品はまだ乾かず、インクが伸びてしまう

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筆記線の濃さの違い。濃い染料を使用していることもあり、同社従来品の油性ボールペンと比較しても、筆記線が濃いのがわかる

改良はインクだけに留まらず、チップ(ペン先部分)にも及んだ。試作だけで500種類近くつくり、インクとの相性を検証。相性が良くない場合は、インクの配合を見直すこともした。

■日本での販売がアメリカの3年後になった理由

結局、『サラサドライ』の開発には4年近くかかり、アメリカでの発売は2013年になった。そして中国でも、アメリカより少し遅れて発売されることになった。

しかしなぜ、日本での発売はアメリカより3年も遅れたのだろうか? その理由を小野氏は次のように話す。

「米国ではジェルボールペンのシェアが獲れていないので、いち早く売ってシェアを獲得するというプランが描けたのですが、日本では『サラサ』のブランド力が強く、どうやって売り出すかがなかなか決まらないところがありました」

悩みに悩んだ日本での売り出し方は、社会人をターゲットにするということでまとまった。学生がメインユーザーのジェルボールペンで、あえて正反対の層をメインターゲットに据えた。

社会人に『サラサドライ』を訴求することにしたのは、書類や手紙の宛名など汚したくないシーンが確実に増えるからだ。メインコピーで「書いてすぐ触れても汚れない」と商品の最大の特徴や価値を訴求し、店頭ではインクが伸びて汚れてしまうと困るシーンを具体的に示すことで共感を得ることを徹底した。

■左利きの人たちから高く評価される

同社が実施し2016年4月に結果発表した左利きに関する調査によれば、「左利きで困ったこと」の5位に〈ペンで手書きしにくい〉、「左手で書くと不便なことは?」のトップに〈インクが乾いてなくて字や手が汚れる〉がランクインしている。このため左利きの人たちは、字や手を汚さないように変わったペンの持ち方をすることが多く、ボールペンの書き味を悪くしているところあった。

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「左利きで困ったこと」の調査結果(調査は全国の左利きの人104名を対象にウェブアンケートを行ない、左利きで不便に感じていることなどを聞いた)

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「左手で書くと不便なことは?」の調査結果(調査は全国の左利きの人104名を対象にウェブアンケートを行ない、左利きで不便に感じていることなどを聞いた)

「押して書くような形になるので、ボールペンの構造上、インクが出にくくなります。しかし『サラサドライ』の場合、インクが低粘度で出やすいことから、押すような形で書いてもスムーズにインクが出て書きやすくなっています」と門脇氏。左利きの人たちの評価は高く、発売後、Twitterで評判が拡散したという。

★★★取材からわかった『サラサドライ』のヒット要因3★★★

1.速く乾く

最大の特徴は、従来品より圧倒的に速く乾く速乾性。実感できるほど速く乾くところが、字を書くときは常に困っている左利きの人たちなどから大きな支持を得ることができた。

2.メインターゲットの設定が絶妙

女子中高生がメインターゲットだった『サラサ』と違い、『サラサドライ』は社会人がメインターゲット。学生と違い、汚したくない書類などに接する機会が増える社会人にとって、速乾性という最大の特徴は大きく共感できるものだった。

3.『サラサ』ブランドに対する信頼

『サラサ』は、人気・知名度ともに抜群。販売店の信頼が厚く、小売店で置いてもらいやすかった。

日本では以前、左利きは右利きに矯正されるケースが珍しくなかったが、最近では個性の一つとして認められ、そのまま生かすケースが珍しくない。しかしそれでも、私たちの身の回りは、右利きを前提に考えられつくられたプロダクトで溢れている。『サラサドライ』のヒットは、左利きの人たちに対応したプロダクトには需要があることを改めて思わせてくれる。

製品情報
http://www.zebra.co.jp/pro/sarasa_dry/index.html

■文/大沢裕司

ものづくりに関することを中心に、割と幅広く色々なことを取材するライター。主な取材テーマは商品開発、技術開発、生産、工場、など。当連載のネタ探しに日々奔走中。近著に「バカ売れ法則大全」(共著、SBクリエイティブ)。

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