【映画評】ジュピターズ・ムーン

【映画評】ジュピターズ・ムーン

  • アゴラ
  • 更新日:2018/02/16

ハンガリー。医師のシュテルンは医療ミスによって病院を追われ、難民キャンプで働いている。彼は、遺族に渡す賠償金を稼ぎ、訴訟を取り下げてもらうことを狙っていて、難民から違法に金をもらってはキャンプから逃がしていた。そんな彼のところに、国境警備隊に銃撃され瀕死の重傷を負ったシリア人少年アリアンが運ばれてくる。銃撃のショックからか、アリアンには重力を操り浮遊する能力と、さらには傷を自力で治癒する力が備わっていた。そのことを知ったシュテルンは、金儲けに使えるとキャンプから彼を連れ出す。一方、無抵抗のアリアンを銃で撃った国境警備隊は、隠ぺいを図ろうと、二人を追跡するが…。

浮遊能力を持つシリア難民の少年と彼を利用し金儲けを企む医師との逃走劇を通して現代ヨーロッパの混沌を描いた異色エンタテインメント「ジュピターズ・ムーン」。不思議な力がなぜ少年に備わったかは明確に描かれないのでファンタジーではないし、難民問題やテロなどが登場するとはいえ社会派映画とも少し違う。アリアン自身、宙に浮くことに慣れておらず、ふんわりと浮き上がってはゆっくりと泳ぐように移動する。そんな浮かぶアリアンを見て、あるものは金儲けに利用し、あるものは銃を向け、あるものは天使を見たと祈りを捧げる。自由の象徴に思えるアリアンの浮遊だが、自分とは違う他者、とりわけ異質なものに対する寛容の心があるかと問われているような気がしてならない。

この作品で何よりも感じるのは、浮遊の陶酔感だ。CGをほとんど使わず実際に俳優をワイヤーで吊ったというカメラワークが斬新で美しい。劇中には、激しい銃撃戦やカーチェイスなどのアクションシーンもあって結構ハラハラさせられるのだが、少年を金儲けに利用しようとしていた医師がやがて彼を守るために命がけで戦うように、古都ブダペストの街中を一望できるほど高く舞い上がったアリアンが、醜い地上の現実から自由で美しい世界へと向かうことを願わずにはいられなくなる。ハンガリーの気鋭監督コルネル・ムンドルッツォは「ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲(ラプソディ)」でも人と人ならざるものの関係を描いたが、本作ではさらにそのエッセンスを純化させた。ファンタジックな社会派SFとして、忘れられない1本になりそうだ。
【75点】
(原題「JUPITOR’S MOON」)
(ハンガリー・独/コルネル・ムンドルッツォ監督/メラーブ・ニニッゼ、ジョンボル・イエゲル、ギェルギ・ツセルハルミ、他)
(映像美度:★★★★☆)

この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2018年2月14日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Twitterから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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