古賀茂明「『米朝有事で最大30万人が死亡』を追及した東京新聞の望月記者を黙殺した菅官房長官」

古賀茂明「『米朝有事で最大30万人が死亡』を追及した東京新聞の望月記者を黙殺した菅官房長官」

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  • 更新日:2017/11/13
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著者:古賀茂明(こが・しげあき)/1955年、長崎県生まれ。東京大学法学部卒業後、旧通産省(経済産業省)入省。国家公務員制度改革推進本部審議官、中小企業庁経営支援部長などを経て2011年退官、改革派官僚で「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。元報道ステーションコメンテーター。最新刊『日本中枢の狂謀』(講談社)、『国家の共謀』(角川新書)。「シナプス 古賀茂明サロン」主催

トランプ大統領訪日のお祭り騒ぎが終わった。しかし、一番肝心なことについて、私たち国民は何も情報を与えられなかった。

【写真】東京新聞の望月衣塑子記者

「一番肝心なこと」とは、「北朝鮮が言うことを聞かなかったら、米国先制攻撃するのかしないのか」ということだ。さらに、先制攻撃をした場合、「日本にどんな被害があり得るのか」についても何も知らされなかった。

会見ではこれらについてほとんど質問もなく、結局、今に至ってもスルーされたままだ。

北朝鮮との戦争になるケースは大きく分けて3つある。

1つは、どちらが先かわからないが、偶発的な衝突が生じてそれが本格紛争につながるケース。

2つ目が、北朝鮮が日米韓いずれかを攻撃して戦争が始まるケース。

3つ目が、日米韓いずれかが北朝鮮に先制攻撃するケースだ。

最初の2つは、こちらの明確な意図に関わらず戦争が始まるので、その時期を予測することはできないが、最後のケースは、こちらが決断することだから、予測可能だ。

その明確な予兆としては、韓国にいる日本人や米国人に日米政府が国外退去勧告を行うことが挙げられる。まだそこまでは行っていないので、現時点でいきなり、日米韓が先制攻撃することはないということだろう。

一方、報道では、韓国からの日本人の退避計画のシミュレーションが行われていると言われているので、そうであれば、意外と先制攻撃は近いのかもしれない。在韓米軍の家族にクリスマス休暇で米国に帰国するよう促す動きがあるというような情報が流れているのも気になるところだ。

■気になる小野寺防衛相発言

日経新聞などの報道によると、富士山会合(国際関係や安全保障について日米の政府関係者や有識者が話し合う国際会議)で10月28日、小野寺五典防衛相は北朝鮮の核・ミサイル開発問題について次のように発言している。

『残された時間は長くない。今年の暮れから来年にかけて、北朝鮮の方針が変わらなければ緊張感を持って対応せねばならない時期になる』

『軍事的な衝突になった場合の備えを日米韓3カ国で議論する必要がある』

『トランプ氏の外交努力が成功裏にならなければ、私たちは緊張感をさらに増す』

『トランプ氏はすべての選択肢がテーブルの上にあると発言した』

つまり、トランプ大統領の今回のアジア歴訪での外交努力の成果が挙がればよいけれども、それがうまく行かず(その可能性は高い)、北朝鮮の核・ミサイル開発が止まらなければ、軍事的衝突になる可能性がいよいよ高まっているということのようだ。

そして、その時期は、早ければ年末から年明けにも訪れるかもしれないと言っているようにも取れる。つまり、今後数カ月で戦争の危機が一気に現実化する可能性があるということである。

■軍事侵攻は空爆や斬首作戦だけでなく地上侵攻も

11月4日付の米紙ワシントン・ポストは以下のように報じた。

『米国防総省幹部が米議員に宛てた書簡の内容として、北朝鮮が保有する全ての核兵器の保管場所を特定してそれらを掌握する、最も確実かつ唯一の方法は米軍による地上侵攻だと伝えた』

『米国防総省の統合参謀部副部長のものとされる書簡は一方で、北朝鮮に地上侵攻した場合、同国に生物化学兵器を使用させることになるだろうと警告している』

ここで注目すべきなのは、北朝鮮を攻撃する場合、空爆や斬首作戦などではなく、地上侵攻をしなければ、北朝鮮の核兵器を全て把握することはできないと国防総省が考えているということだ。仮に本格的地上戦になれば、戦闘期間も長期化し、米韓軍(日本が参戦すれば自衛隊も)に大変な被害が生じることを覚悟しなければならない。もちろん、民間人の被害も同様だ。

仮に朝鮮半島で本格的な戦争になった場合の被害想定については、10月27日に発表された米議会調査局(Congressional Research Service)の報告書が、次のように述べている。

「たとえ北朝鮮が通常兵器しか使わなかったとしても……戦争開始から数日で、3万人から30万人が死亡すると推計される。」

また、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院の北朝鮮監視プロジェクト「38ノース」のレポートによれば、北朝鮮が東京とソウルを核攻撃した場合、その攻撃の規模にもよるが、犠牲者の数は40~200万人、攻撃が最大の効果を発揮した場合、その数は、130~380万人に増える可能性があると分析している。(NEWSWEEK 日本版10月6日より)

もちろん、こうした分析よりはるかに精緻な分析が米国国防総省などによって実施されていることは確実だ。日本政府も、そうした情報をもとに独自の試算を行っているだろう。

そこでは、「100万人だから大変だ、それを1万人に抑えるにはどうしたらよいか」などというとんでもない議論が行われている可能性がある。

上記の米議会調査局報告書でも、「金正恩政権が米国本土を狙える核兵器を取得することを可能にするリスクは、朝鮮半島地域の紛争に伴うリスクよりも大きい」という主張が紹介されている。アメリカがやられるくらいなら、東京やソウルの犠牲なんてたいしたことではないという意味だから、日本人にとっては、ふざけるなという話だ。

しかし、感情的に怒るだけではだめだ。実は、この考え方は本質的なことを我々に教えてくれる。それは、この戦争は、北朝鮮とアメリカの戦争なのであって、韓国と北朝鮮、ましてや、日本と北朝鮮の戦争ではないということだ。

繰り返し言おう。日本を守るためなのではなく、アメリカを守るための戦争。それ以外の何物でもないのだ。

■望月記者の追及にも口を割らない菅官房長官

以上述べた通り、アメリカの安全を守るために、北朝鮮を先制攻撃する事態が近づいている。そして、そのような事態になった場合のシミュレーションが行われていて、甚大な被害が予測されている。

しかし、米国よりはるかに大きな被害を受ける日本では全くと言ってよいほど、この問題について表立った議論がなされていない。マスコミも連日北朝鮮問題を報じているのに、この問題だけは徹底的に避けている。

そんな状況で、唯一この問題を真剣に追及しているのが、東京新聞の望月衣塑子記者だ。望月氏は、11月6日の菅義偉官房長官会見でかなり突っ込んだやり取りを展開した。概要を紹介しよう。

望月:(小野寺防衛相発言などを引用して、)北朝鮮の核・ICBM開発の今の状況が続く限りは、年末から年明けにかけて、一定の軍事的行動も含めた判断をするという考えを持っているのか。

菅:政権は北朝鮮に圧力をかけて政策を変えて行きたい。それが基本的な考え方だ。それと同時に、ありとあらゆる可能性に備えて、国民の皆さんの命と平和を守る、確保するというのが政権の責務だ。

望月:状況によっては、限定的な攻撃ということも各国との協議の中で考えうるという理解で良いのか。

菅:我が国の立場は今私が申しあげたとおりである。

望月:アメリカの議会調査局が最近、朝鮮戦争有事の際に核攻撃なしでも最大30万人が死亡すると予測した報告書をまとめている。朝鮮戦争が起きた時に日本の市民がどれくらい巻き添えになるか、邦人退避はどれくらいの規模でやるのかなど、たぶん、試算されていると想定するが、これを国民に対して、国会の場などで公表するつもりはあるのか。

菅:米国のことに政府の立場でコメントすることは控えたい。

いずれにしても、仮定については(仮定の質問については)、コメントは控える。

望月:米国議会のことはともかく、日本について、試算をしていると思うが、どれくらいの被害が出て、どのような退避・避難計画とすべきかということを政府として公表するのか。

菅:国民の安全安心確保は政府の最大の責務。そういう立場にしっかり対応します。仮定のことにはコメントを控える。

望月記者はさすがだ。全体わずか11分で終わった会見の中で、合計4問も聞いている。しかし、菅長官は最後まで、「何があっても答えない」という態度に終始した。

これほど緊迫した状況でも、一切情報を国民に提供しない政府。しかし、よく考えると、菅長官は「先制攻撃」を否定していない。また、「被害シミュレーション」についても存在しないとは言っていない。つまり、先制攻撃の可能性を認め、シミュレーションの存在も認めているのと同じだととることもできる。

菅長官がこうした対応に終始するのは、先制攻撃の可能性を認めて、さらに被害想定を公表すれば、その大きさに驚いて、一気に国民の反戦ムードが高まるということがわっているからだと思われる。

■トランプ「武士の国発言」の本当の意味とは?

こうした中、11月5日にトランプ大統領の「武士の国」発言が報道された。東京新聞が引用したワシントン発共同の記事によれば、北朝鮮が8~9月に日本列島上空を通過する弾道ミサイルを発射した際、日本が破壊措置を取らなかったことについて、トランプ米大統領が東南アジア諸国の複数の首脳に「迎撃するべきだった」「武士の国なのに理解できない」などと、不満を口にしていたということだ。

日本が上空を通過する北のミサイルを迎撃すれば、北朝鮮に対する武力行使になり、それをきっかけに北朝鮮が日本に反撃することになるだろう。そうなれば、米国は「日本を守るための自衛戦争だ」と称して堂々と北朝鮮を攻撃できる。これで、国際的な批判はかなり抑えることができるし、米朝戦争に反対する韓国も批判しにくくなるだろう。

しかし、トランプ大統領の思惑はそれだけにとどまらないと見るべきだ。

「日本のための戦争」だということにできれば、米軍よりも、まず、日本の自衛隊を最前線に送るべきだということになる。前述した大規模な地上侵攻のケースでは多大な犠牲が予想されるが、米国兵に代わって日本の自衛隊員が死んでくれれば、米国にとって好都合だ。特に、国内で支持率低下に喘いでいるトランプ大統領にとっては、大きな助けになるだろう。

「日本のための戦争」は、さらに大きなツケを日本にもたらす。戦争費用は「日本持ち」ということになるのは必至だ。武器を買うだけでは済まない。米軍のあらゆる戦争費用まで日本に持たせようということなのだ。

アメリカ・ファーストのトランプ大統領ならそれくらい考えるのはむしろ当たり前だと考えるべきだろう。

■安倍総理の暴走を怖れる韓国

こうした一連の日米首脳の動きを見て、韓国の国民の間では、トランプ大統領の掌の上で踊らされる安倍総理というイメージとトランプと共謀して韓国に無断で戦争を始めようとしている安倍総理という2つのイメージが広がっているようだ。

どちらにしても、安倍総理は、韓国にとって、トランプ大統領と同じかそれ以上に「危ない」存在だということになる。

こんな危ない日米両国と一心同体などという選択肢は、韓国にとっては採りえない。

韓国が、日米から見れば、理不尽にも中国になびいているように見えるのも、単に中国の経済力に擦り寄っているということだけでなく、こうした懸念がなせる業だと見た方が良いのではないだろうか。その意味で、韓国が、韓米日安保協力を3カ国軍事同盟に発展させないと言っているのも、単なる反日の世論対策ではなく、日米の危険な火遊びに対する牽制だと理解すべきだろう。

日本の嫌韓の人たちの間では、対米、対中のバランスをとりながら立ち回る韓国を馬鹿にしたり憐れむような空気があるが、実は韓国には小国としてのギリギリの知恵がある。現に、米国や日本がいくら怒ったとしても、日米に韓国を見捨てる動きはない。そこを見透かした動きとなっているようにも見えるのだ。

日本と韓国は、米朝戦争によって、米国よりもはるかに大きな被害を受けるという意味で共通の立場にある。むしろ、日韓がトランプ大統領の暴走を止めて、米国の戦争に巻き込まれないようにする作戦を共同で考えることができると思うのだが。

安倍総理にそんなことを言っても、無駄なことかもしれないが……。

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