「枡」だけで売り上げ4倍 伝統を守りながら伝える“面白さ”

「枡」だけで売り上げ4倍 伝統を守りながら伝える“面白さ”

  • ITmedia ビジネスオンライン
  • 更新日:2018/01/12
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「枡」だけで売り上げを4倍にした会社がある。

岐阜県大垣市にある枡の専門メーカー、大橋量器だ。枡は、古くは計量器として、コメや酒などを計るための必需品だった。しかし、日常生活で使われなくなってから久しい。今ではお祝いの席で祝杯を挙げるときに使うイメージを持つ人が多いだろう。

大橋量器は枡製造の技術を活用して開発したユニークな商品で知られる。五角形や八角形の枡や、色や柄を付けた「カラー枡」、傾けると光る「光枡(ひかります)」などが代表的だ。しかし、それらを生み出し、売り上げが増えるまでには、もがきながら地道に続けた、20年以上にわたる取り組みがあった。社長の大橋博行さんの挑戦を追った。

大橋量器が製造している枡

伸び悩む売り上げ

大垣市は枡の全国シェア8割といわれる。メーカーが集積しており、年間出荷量は200万個に上る。とはいっても、現在メーカーは5社しかない。全盛期の半分ほどに減ってしまった。1950年創業の大橋量器はその中の1社だ。

大橋さんが入社したのは29歳のとき。バブル時代に外資系IT企業に入り、最先端のコンピュータを扱う営業マン生活を満喫していたが、結婚を機に家業を継ぐ道を選ぶ。伸び盛りの華やかな業界に身を置いていた反動もあり、入社後は「あまりにもローテク」な世界に気分が沈んだ。最初の年はやる気もなく「楽しくなかった」という。

しかし、その年の売上高を見て意識が変わった。5600万円。記憶していた昔の売り上げの半分しかない。「子どもも生まれる。何とかしなければ」

まず取り組んだのは、販路開拓と品質向上だ。売り先の大部分は酒造メーカーだったが、仲介する問屋との関係が悪く、売り上げを落としていた。そこで当時は全国に1500以上あった酒造メーカーに、販促品として直接売り込みを始めた。それと同時に、組目が甘く、液体が漏れてしまう商品をなくすために、製造する全ての商品に目を通して品質をチェックした。

その取り組みを続けていくと、売り上げは持ち直してきた。4年後には8000万円を超えた。このまま上り調子でいくかと思ったが、翌年は7000万円台後半、その翌年は7000万円台前半と、落ちてきてしまう。消費者が選ぶお酒の種類は多様になり、酒造メーカーも日本酒用の販促品を大量購入するほどの余裕がなくなってきた。

「第2の危機でした」と振り返る大橋さん。ここから、従来の形にとらわれない商品開発に向けて、試行錯誤が始まる。

新商品提案は失敗続き

「ばかやろう」。新商品を試作し、初めて提案した店では、怒鳴られただけで終わった。大橋さんが考えたのは、「枡の形を変えて、おしゃれなものにできないか」。植物用の器を試作し、東京・代官山の盆栽レンタル店に持ち込んだ。自信をもって提案したものの、門前払い。返ってきたのは怒鳴り声だけだった。

その後も雑貨店に皿の形の枡を提案して回るものの、「だいたい断られた」。そんな中、1軒だけ興味を示してくれたところがあった。園芸雑貨の卸会社だった。赤と黒で装飾した皿が、正月用商材として採用された。展示会にも出品され、3000セットの注文が来た。

ところが、そこで気付く。「こんなに作れない」。通常の枡に加えて、色を塗る加工が必要な新商品を大量生産できるような体制ではなかった。当然、納期遅れを引き起こし、怒られる。そうすると、未熟な従業員が製作した粗悪品も出さないと案件はこなせない。そして、返品の嵐。新しい試みは大失敗に終わってしまう。

失敗の原因について、大橋さんは「強みではなく、弱みで勝負してしまった」と振り返る。きれいに色が塗ってあることが商品の特徴だったが、色塗りの技術を持っていたわけではない。それなのに、同じ品質のものを大量に作れるはずはなかった。

さすがに落胆し、自ら提案しに行くことはやめた。しかし、新しい販路は必要だ。そこで「特注の依頼を断らない」というやり方に切り替えた。もともと長方形などの特殊な形の注文はあったが、生産できる設備もないため断っていた。しかし、「手作業なら作れないことはない。『ノー』と言わないようにしよう」と依頼を受けるように。自らの手で、いろいろな形の枡を作っていった。

あるとき入った注文は、「八角形の枡を30個だけ作ってほしい」という、大分県の寺からの依頼。正八角形になる角度で木材を組んでいくのは相当難しい。さまざまな治具を作って製作に挑んだが、なかなかうまくいかなかった。納品直前、徹夜をして何とか完成させた。

そんなことを繰り返していくと、工場内にはいろいろな形の枡がたまっていく。「これを何かに使えないか」と考えた大橋さんは、アンテナショップを構えて「見せる」ことを思い付く。2005年10月、工場の隣に「枡工房ますや」と名付けた店を開いた。外部との接点となる、会社の「顔」を作ったことで、動きは変わり始める。

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特注を断らないことで、さまざまな商品が生まれた

店を起点にアイデアが集まる

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大橋量器社長の大橋博行さん。アンテナショップ「枡工房ますや」にはさまざまな商品が並ぶ

店には定番の枡のほか、これまでに作った八角形の枡やストラップ、ランプなどを並べた。大橋さんは、枡の技術を見せることで、「大垣の産業を紹介する土産物店にもなる」と考えていた。考えた通りに、店は地元メディアなどで取り上げられ、話題になっていった。

その結果、店を起点として、外部との交流が生まれていった。他の業界やデザイナーなどとのコラボレーション商品や、客の要望に応じて開発した商品など、それまでとは比べものにならないスピードでいろいろなアイデアが生まれていく。

その1つが「マスソルト」だ。09年に名古屋で開催されたイベントで、デザインを学ぶ学生と共同開発した。手のひらサイズの枡の中にバスソルトを入れて、カモミールやローズ、ゆずなどのハーブを載せた。使うときは、枡ごと湯船に入れる。すると、ヒノキとハーブの香りが浴室に広がってくる。ヒノキ風呂のような感覚まで味わえる。枡の形は何も変えていないが、単なる容器を超えた使い方を実現。ロングセラー商品となっている。

一方、枡から大きく形を変えた商品もある。その1つが「エコ加湿器 マスト」。木材の吸水性を利用した加湿器だ。枡製造では、木材を薄く削ってつるつるにする必要があるため、大量のかんなくずが発生する。それを廃棄するのは「もったいない」と活用し、かんなくずをヨットの帆に見立てたデザインにした。ボート部分に入れた水を吸い上げ、ヒノキの香りとともに蒸発させる。

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「マスソルト」(左)と「エコ加湿器 マスト」

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「マスソルト」(左)と「エコ加湿器 マスト」

ITと融合した商品もある。LEDを内蔵し、傾けると光る「光枡(ひかります)」だ。印刷やITなど異業種3社とプロジェクトチームを結成して開発。薄暗い場所でお酒を飲むシーンを盛り上げる。スマートフォンアプリから、色を変えることもできる。クラウドファンディングで支援を募り、目標金額の150万円を達成した。

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傾けると光る「光枡(ひかります)」(出典:枡工房枡屋

売り上げを引き上げた意外な商品

ユニークな商品を出すたびに話題になり、大橋量器の知名度も上がっていった。しかし、すぐに売り上げに結び付いたわけではなかった。コラボ商品が増えていた09〜11年ごろでも、売り上げは1億円手前で伸び悩んでいた。「商品の情報はたくさん出るが、売り上げはくすぶっている」。もどかしい状態が続いた。

その状態から脱し、売り上げを伸ばすことができたきっかけは、意外にも、新商品ではなかった。目新しい商品ではなく、「昔からやってきた、主力の枡が売れるようになってきた」。それは、シンプルな1合枡(容量約180ミリリットル)、8勺枡(約140ミリリットル)、5勺枡(約90ミリリットル)。なぜ、ここに来て主力商品が売り上げ増加の原動力になったのか。

その理由は特別なことではない。これまで積み重ねてきた取り組みが、少しずつ成果として表れてきたのだ。「ユニークな商品を見て、枡に興味を持ってくれる人が増えました。新商品は、枡の世界に入ってきてもらうための窓口の役割を果たしてくれたのです」

ここ3年の売り上げは毎年10%ずつ伸びており、16年度は2億2000万円。入社したころと比べると4倍にまで増えた。

「もがいているときはコストがかさむのに、売り上げは付いてこない。赤字の年もあり、しんどい時期が続きました。でも、攻める姿勢は続けてきた。短い期間で結果を出すのは難しいですが、それを続けたことで結果が付いてきたのだと思います」

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ユニークな商品を出すことで、主力商品の枡が売れるようになった

枡が“いとおしい”ものに

これからは、日本の枡が海外市場で受け入れられるような取り組みも加速させる。これまでも欧米の展示会に出品し、成功を収めてはいた。12年にはファッションブランド「ポール・スミス」の米ニューヨークの店舗で、色や柄を付けた「カラー枡」が販売され、注目を浴びた。しかし、取引が継続したわけではなかった。

「日本人には、枡の使い方や意味が自然と分かりますが、海外の人にとっては、ただの『美しい箱』にすぎません。最初は物珍しさで買ってくれても、飽きられてしまう。現地の生活に合った使い方を提案しなければいけません」。展示会に出品しながら、「使われる」商品づくりに挑んでいく。

長年、枡と向き合ってきた大橋さん。「昔は自社の商品を紹介するときに『時代遅れ』と言ってしまうこともありましたが、どんどん“いとおしい”ものになってきました」と笑う。伝統産業を守り、発展させるために必要なことは「チャレンジしかない」。「自社の技術と現代の生活様式を見比べて、何ができるか考える。そして、消費者に向けて、分かりやすく、面白く伝えていくことが必要だと思います」

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