次の電通過労自殺を防ぐため、普段から「逃げ力」を鍛えよう --- 宮寺 達也

次の電通過労自殺を防ぐため、普段から「逃げ力」を鍛えよう --- 宮寺 達也

  • アゴラ
  • 更新日:2016/10/18

電通の新入社員の高橋まつりさんが過労自殺という痛ましいニュースが流れてから1週間あまり経ち、マスコミからネットまで、様々な記事、議論が飛び交ってきた。その中で、「自殺を選ぶ前に、会社を辞めれば良かった」という意見がある。また、「長時間労働を規制するべき」「転職が容易な流動的な労働市場を形成するべき」といった意見も目にする。

しかし、「会社を辞めること」は当事者にとってはもの凄く難しい。また、企業風土や雇用ルールの改革実現には5年、10年といった長時間が掛かる。私自身もかつて、まさに過重労働やパワハラに直面し、心身にともに追い詰められた当事者だからこそ「今日、明日できることは何か?」の議論をするべきと思う。なお、私からの提言に入る前に、少々自己紹介をさせてもらいたい。

私も過重労働とパワハラで精神を病んだ

私は2005年から10年余り、大手の事務機器メーカーに勤務していた。所属していた部署では厚生労働省が「過労死ライン」と定める残業80時間超の勤務は、半ば常態化。ある年には、自主的サービスを含めると100時間超の勤務が1年近く続き、上司のパワハラも酷く、心身ともに追い詰められていた。しかし、会社を辞めることができず、駆け込んだ先のメンタルクリニックでは「強迫性障害」と診断された。

この時、「自分は危険に遭遇した時に冷静に逃げられない」と痛感した。自分の人生を振り返ると、テスト・部活動・課外活動・受験・研究・就活と、常に頑張りに応じた結果が伴っていたため、何かから逃げるという経験がほとんど無かった。そのため、私は自分の心身が危ない時に上手く逃げる方法がわからず、パニックに陥った。だから、私は高橋さんが会社を辞めずに自殺という結果を選んだしまった状況が何となく想像できる。

会社から「逃げる」力を身につけよう

では、高橋さんのようなケースにはどういう対策が望ましいのか。先述したような国や企業レベルでの改革には同意するが、私は「自分の心身が危ない時に会社から逃げることができる準備・スキル」を「逃げ力」と呼び、常に意識している。現在苦しんでいる人達がひとまず、今日・明日からできることとして、「逃げ力」を身につけていただきたいと思う。私自身もまさに今年、「逃げ力」を発揮して会社を退職し、フリーランスで特許への知識を活かしながら第2の社会人人生を送っている。

「逃げ力」には大きく分けて4つのポイントがある。

その1「逃走地図を作ろう」

「自分の心身が危ない時に逃げる」ことは、「災害からの避難」と同じだ。地震や洪水、津波が起きた場合、自治体によって公園・公民館・学校等、指定の避難場所が決まっている。「逃走地図」もそれと同じである。

「自分の心身が危ない」と思った時に、自分が逃げる場所・人をあらかじめ決めておくのである。
私の場合は、家で大好きなマンガ・アニメをひたすら見ると決めている。実家に帰るとなお良い。

ただし、実家の両親に心配を掛けるのが辛いので帰りたくない人もいるだろう。そういった人には、「大学、高校の先輩に会う」をお勧めしたい。それも、尊敬している先輩とは違う先輩が望ましい。尊敬している人の前ではプライドが邪魔をして、自分の弱さ・苦しさを相談しづらい。しかし、そうでない先輩なら、自分の弱い部分も隠すことなく話がしやすい。

もちろん、産業医やメンタルクリニックも頼って欲しい。

その2「逃走基準を平時に作ろう」

災害では発生状況に応じて、「注意報→警報→特別警報→避難勧告→避難指示」といった段階的な指示が出る。「自分の心身が危ない時に逃走を指示する基準」も同じで、ポイントは「心身が好調なときにあらかじめ作成する」ことだ。心身が不調になってから的確な逃走基準を作ることは難しいからである。なお、私の会社員時代だが、

レベル1:順調に昇進し、幹部が見えている
レベル2:会社に不満はあるが、仕事は楽しい。
レベル3(イエローカード=転職活動開始):会社に強い不満があり、いつも愚痴っている、。仕事もつまらない。
レベル4(レッドカード=休職する):会社に行きたくない。定期的にずる休みをする。
レベル5(試合終了=即座に退職):会社を見るだけで気分が悪い。自殺を頭がよぎる。

を作成した。そして2015年の冬、レベル3を自覚したので転職活動を開始し、退職した。
是非とも、あなたなりの逃走基準を元気なときに作成して欲しい。

その3「お金とスキルを作る」

逃走には資金がいる。200万円を目安に、貯金して欲しい。
200万円あれば1年間は生活できる。1年あれば、転職活動に臨むための時間的余裕ができ、仕事を辞めるための心のハードルがぐっと下がる。

なお、お金が無いという人は、会社員ならば銀行のカードローンに頼ることも考えて欲しい。200万円枠ならば、審査に通る可能性は高い。恥を忍んで、親に相談するのも良い。借金はできれば避けたいが、自分の心身が危ないと感じた時は躊躇せずに調達して欲しい。

ただし、友人に借りるのは絶対に駄目だ。これは確実に友人を失う。それは自分の逃走場所を失い、自分の心身をさらに危険に晒すということだ。

もうひとつはスキル。今の会社を辞めても、直ぐに次の会社が見つかる自信があれば、やはり仕事を辞めるための心のハードルがぐっと下がるだろう。

私はメーカー時代に特許を得意としており、レベル3と自覚した2015年冬には100件に達していた。この実績に自信があったからこそ、転職活動に不安なく臨み、成功できた。

このどこでも通用するスキルは、プログラム、3D CAD、英語等、何か一つで良いので日々の努力を重ねて欲しい。

なお、入社数年以内の若手は「自分にはまだ他社で通用するスキルが無い」と思っている人が多いだろうが、心配無用だ。「若い」ということは、転職市場において圧倒的に評価される「スキル」だ。中途採用において、私のような“35歳オーバーの一芸持ち”より高く評価する企業は多い。

その4「避難訓練をしよう」

災害と同じ「避難訓練」も重要だ。人間は一度経験するかしないかで、事態に対処するときの精神状態が大きく変わる。私は最初に心身が不調になった時は逃げた経験が無く、パニックになったが、2015年冬は以前の経験から自分でも驚くほど冷静に会社から逃げられた。

逃走の避難訓練とは、できれば半年に一度、少なくとも一年に一度は、①で決めた「避難場所」に実際に行ってみることだ。私は3ヶ月に一度、特に理由もなく、上司が反対しても有休を取得し、避難場所である「家でマンガ・アニメに没頭」するようにしていた。

避難場所への移動が難しい場合、両親や先輩といった避難先の人と電話をして欲しい。そして、会社の不満を心の底から吐き出して欲しい。避難場所に定期的に行っておけば、本当に「自分の心身が危ないと感じた時」に、スムーズに逃走できるだろう。

「逃げ力」のアドバイスとしては以上だ。あなたが「仕事が苦しくて死にそうだ」「自殺したい」と思っているならば、落ち着いて逃げる準備を始めて欲しい。自分の逃げ力がどのくらいかチェックし、可能ならば向上に努め、死を選ぶ前に逃走を実現して欲しい。

「お前に何がわかるのか」と思うかもしれない。ただ、これだけは断言できる。あなたが想像しているより、逃げることはとっても簡単だよ。

パテントマスター/アゴラ出版道場一期生 宮寺達也

プロフィール
宮寺達也
2005年から2016年まで大手の事務機器メーカーに勤務。特許を得意とし、10年で100件超の特許を取得。現在は、特許活動を通じて得た人脈と知識を駆使しつつ、フリーランスエンジニアとして活動中。

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