記憶に残る宿のスペシャリテ (2) 棟方志功も愛した岡山県「奥津荘」で肉を知る--スパイスはph9.1

記憶に残る宿のスペシャリテ (2) 棟方志功も愛した岡山県「奥津荘」で肉を知る--スパイスはph9.1

  • マイナビニュース
  • 更新日:2016/10/19

「本当に好きな存在は他人に知られたくない」という話をひとつ。いわゆる口コミで広がらない。なぜなら「自分が利用する時に満員だったら嫌だから」という、けち臭い話が岡山県の奥津温泉「奥津荘」に言い伝わっている。

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「鍵湯」は「奥津荘」の看板風呂。今回のスペシャリテ(看板料理)にも関係が

困ったお殿さまが"鍵湯"の由来

江戸時代、津山藩の初代藩主である森忠政公は、吉井川沿いに自噴する温泉(今の奥津温泉)があまりに好きすぎて自分だけが利用できるように鍵をかけ、村人などが利用できないようにしたという。何とも了見の狭い殿さまだが、この言い伝えがのちに「鍵湯(かぎゆ)奥津荘」と呼ばれるようになった由来である。現在では宿泊客・日帰り入浴客の人気スポットになっており、1世紀以上も毎分247Lを適温で自噴し続けている。

奥津荘は昭和初期に建てられた。この時代は全国的にぜいたくな造りの木造建造物が多い。この宿も同様で、創業90年にわたり引き継がれ、現在の鈴木治彦社長で4代目となる。

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棟方志功も愛した宿ゆえに、今も棟方志功を感じられる空間になっている

20世紀を代表する世界的版画作家・棟方志功は昭和22~28年頃、よく奥津の地を訪れたそうだ。この地の湯を、自然を、食を愛し、創作活動に意欲を注いだのだという。造作もなく置かれているからレプリカだと錯覚しがちだが、宿には棟方志功の作品がいくつか遺(のこ)されている。

筆者は仕事上、全国の温泉を利用させていただくことが多いものの、白状しよう。実は「烏の行水」なのである。どんなに名湯と呼ばれる温泉地でも湯舟に1分も浸かっていない。しかしながら、この奥津荘を含めて数カ所、じっくりと源泉を味わう宿がある。

「養生食い」の本場で肉料理を

さて、話を正そう。このコラムの主旨は料理であった。それもスペシャリテ(看板料理)である。

この地は古くから肉料理の文化が発達していたそうである。ご存知の人も少なくないだろうが、江戸時代には仏教の影響で肉食が禁止されていた。ただ、この地は滋賀県彦根市と並び、全国でもまれな「養生食い(健康のために薬として肉を食すこと)」の本場として知られていて、郷土料理として古くから牛肉を使った料理が言い伝わった。

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「そずり鍋」には肉鍋特有のしつこさがない

よって、奥津荘のスペシャリテは「牛肉」料理である。その名も「そずり鍋」といい、作州牛の骨の周りの肉をそずった(削った)肉と、鰹、昆布で出汁をとり、地産野菜をメインにあっさりいただく。魚も肉も骨の周辺の身が旨いのは共通している。肉料理でありながら他の肉鍋のしつこさがない。あっさりといただけるから、ほかの料理の邪魔をしない。酒が進む。誰もがハッピーになれる。棟方志功など文人墨客も然りである。

42.3度で自噴する源泉を調理場にまで引き、蛇口を捻れば源泉が出る。この宿の料理を守る料理長によると「水素イオン濃度 ph9.1のアルカリ性源泉は、料理との相性がいい」という。そのためか、源泉で蒸した名物料理もまた、スペシャリテなのだ。

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強蒸しは名湯があってこそ

奥津産ヒメノモチ(餅米)の上に山菜を乗せてセイロで蒸した「強蒸し(こわむし)」、すりおろした長芋に少量の塩のみで味付けして蒸した薯用蒸し(じょうようむし)などの名物料理は、飲泉ができるこの名湯なくして引き継がれなかったに違いない。

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強蒸しは長芋に少量の塩のみとシンプルな一品

真のスペシャリテは「抗酸化作用の湯」かも

よく「源泉かけ流し」と表示されるが、ここの場合、自噴している源泉口の上に風呂を造ったのだから、湯舟の底、足元から熱過ぎない42℃弱の源泉が自然湧出してくる。いわゆる大気に触れる前に純生の源泉が入浴者の身体にまとわりつくわけだ。もちろん飲泉許可を取っているから料理に利用されるわけで、当然、飲み水としても使える。訪れると筆者はペットボトルで持ち帰る。外から内から身体をきれいにしてくれるのである。

この源泉は抗酸化作用が高いとされている。あるとき4代目が市販のミネラルウォーターと源泉で比較実験をしてみた。ペットボトルに入れたそれぞれの水に新品の釘を入れて「錆び」が何日後から付き始めるか試してみたのだ。すると、その結果は歴然であった。たまたま遊びに来ていた筆者も肉眼で確認している。そして、副産物として分かったこと。大手コンビニエンスストアのプライベートブランドのミネラルウォーターが、この源泉の次に錆びが遅れた。輸入商品は全敗だった。やはり日本の水はすごい。

最後に、この宿の代表的な2つの風呂を紹介しよう。「立湯」は、湯舟が吉井川によって自然に削られた岩のくぼみを生かして造られている。深いところでは120cmほどあるから立ったまま入浴する。この浮力感がいい。

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深いところでは水深120cmになる「立湯」は浮力感も楽しみながら

一方の「鍵湯」は、奥津にゆかりのある偉人たちが愛した、奥津荘でもっとも人気の風呂だ。こちらも自然の川底をそのまま生かした浴槽の底から湧き出ており、空気に触れる前に適温で柔らかく身体を包み込む。2つの風呂とも、入浴すると母親の胎内にいた時を連想するのは筆者だけではないはずだ。この宿で、この湯舟に身を浸した文人墨客も感じた"宇宙"である。

おっと、今回はお湯の話に流れがちだ。まさにグルメな湯。真のスペシャリテ、いやスパイスは、この「抗酸化作用の湯」なのかもしれない。

●information
奥津荘
岡山県苫田郡鏡野町奥津48
アクセス: JR姫新線/津山線「津山駅」より中鉄バスで約1時間
1泊2食料金: ひとり税別1万9,000円~2万8,000円
日帰り料金: ひとり税別8,000円(夕食付き)~

※記事中の情報は2016年10月のもの

筆者プロフィール: 永本浩司通信社編集局勤務、広告ディレクター、雑誌・ビジネス書の編集者を経て、観光経済新聞社に入社。編集委員、東日本支局長などを歴任。2004年に転職を決意、外食準大手・際コーポレーションに入社。全国に展開する和洋中華350店舗128業態のレストラン・旅館の販売促進を担当。リゾート事業も担当、日本初、公設民営型の公共事業、長崎県五島列島・新上五島町にリゾートホテル・マルゲリータを開業させた。2015年、宿のミカタプロジェクトを設立。1軒でも多くの旅館・ホテルを繁盛させ「地域の力」を呼び覚ますべく旅館ホテル支援事業を展開。宿泊した旅館の数は全国で数百軒以上、年間の出張回数は150日以上、国内を中心に飛び回る日々。地域デザイン学会会員。

筆者プロフィール: 永本浩司

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