インドの月着陸機「ヴィクラム」、月面着陸に挑むも通信途絶える

インドの月着陸機「ヴィクラム」、月面着陸に挑むも通信途絶える

  • マイナビニュース
  • 更新日:2019/09/18
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インド宇宙研究機関(ISRO)は2019年9月4日、月探査ミッション「チャンドラヤーン2」の月着陸機「ヴィクラム」による月面着陸に挑んだ。しかし、降下中に通信が途絶。その後、10日に月面でヴィクラムを発見したと発表されたが、通信回復には至っておらず、探査機の状態は不明な状態が続いている。

○月着陸機「ヴィクラム」

チャンドラヤーン2はインドにとって2回目となる月探査ミッションで、月を周回する「オービター」と、インドにとって初となる月面着陸を目指した技術実証機「ヴィクラム(Vikram)は、そして月探査車の技術実証機「プラギヤン(Pragyan)」からなる。

ヴィクラムとは、インドの宇宙開発の父とも呼ばれるISROの初代総裁ヴィクラム・A・サラバイ(Vikram A Sarabhai)氏にちなんで名付けられたもので、一方のプラギヤンは、サンスクリット語で「知恵」を意味する。

オービターとヴィクラムは結合された状態で、またプラギヤンはヴィクラムに搭載された状態で打ち上げられ、ヴィクラムは着陸後、その場で観測するとともに、プラギヤンを月面に降ろすことになっていた。

チャンドラヤーン2を搭載したGSLV Mk-IIロケットは、日本時間2019年7月22日18時13分(インド標準時同日14時43分)、インド南東部沿岸にあるサティッシュ・ダワン宇宙センターの第2発射台から離昇し、打ち上げは成功。その後、数回に分けてエンジンを噴射して軌道を徐々に上げていき、8月20日に月周回軌道への投入に成功した。

そして、観測機器の試験などを行いつつ、徐々に軌道を修正。9月1日には近月点高度119km、遠月点高度127kmの軌道に入り、2日には月面着陸に向け、オービターからヴィクラムを分離した。

ヴィクラムはその後、2回に分けた軌道離脱噴射を行い、4日には月面に向けて降下を開始した。しかし、月面からの高度が2.1kmに達したところで、ヴィクラムからの通信が途絶。その後、状況は不明となった。

その後10日になり、ISROは「チャンドラヤーン2のオービターが月面でヴィクラムを発見した」と発表。インドのメディアでは「ヴィクラムはほぼ原型を保っているものとみられる」という関係者筋のコメントも報道されているが、10日の時点で通信復旧には至っておらず、機体の状態などは不明なままとなっている。

ISORでは今後も、ヴィクラムの設計寿命である14地球日の間は、通信復旧に向けた努力を続けるとしている。また、米国航空宇宙局(NASA)も、自身が運用する月探査機「ルナ・リコネサンス・オービター」が、9月16日以降にヴィクラムのいる場所の上空を通過できるため、撮影を試みるとしている。

なお、チャンドラヤーン2のオービターは状態は正常で、現在も観測を続けている。また、ヴィクラムも通信途絶までは正常にデータが取れていたこと、スラスターの推力可変技術を実証できたことなどもあり、ISROでは「チャンドラヤーン2の目標としていたミッションのうち、これまですでに90~95%を達成できた」としている。

○チャンドラヤーン2

チャンドラヤーン2は、ISROが2008年に打ち上げた「チャンドラヤーン1」の後継機にあたり、インドにとって2回目の月探査計画である。

チャンドラヤーン1では、搭載していた機器による観測から、月の南極などに水がある可能性を示唆するデータが得られた。それを受け、チャンドラヤーン2では、オービターによる、より詳細な探査を実施。さらに、将来の月面での活動を見据え、将来の月面探査を見据え、月面着陸や月探査車の技術を実証するとともに、月の内部物質などを探査することを目指していた。

探査機全体の質量は3840kgで、そのうちオービターが2369kgを占める。オービターには、前述の水を探す機器のほか、光学カメラやX線分光器、大気を分析するための質量分析計の一種である四重極型質量分析計などを搭載。月面から高度約100kmの、月を南北に回る極軌道を周回する。観測期間は当初、約1年が予定されていたが、打ち上げ時のロケットの性能が想定より高く、軌道修正に使う推進剤が節約できたことから、約7年は運用できるだろうとしている。

ヴィクラムは質量1477kgで、観測機器として月の地震(月震)を測る地震計のほか、月面の熱特性を測る熱プローブ、月面のプラズマの密度や変動を測定するラングミュア・プローブ、そしてNASAが提供した、地球と月の距離を計測するレーザー反射鏡を装備している。

プラギヤンは26kgで、ヴィクラムに搭載された状態で月に着陸し、展開されたスロープを降りて月面へ走り出す。車輪は6輪で、走行速度は秒速約1cm、ミッション終了までの走行距離は500mほどになると見積もられている。観測機器は、岩石の元素組成を調べるための「アルファ粒子X線分光分析器(APIXS)」と、レーザーを岩石に当てて元素組成を分析する「レーザー誘起ブレイクダウン分光器(LIBS)」を搭載している。

ヴィクラムもプラギヤンも電力は太陽電池で生成するが、月の夜を越えるための装備はなく、月の1日のうち昼間にあたる、14地球日のみ稼働するように造られている。

ヴィクラムが着陸を予定していたのは、月の表側の南緯70.9度、東経22.7度の地点で、ここは「マンチヌスC」と「シンペリウスN」という2つのクレーターの間にある台地にあたる。ここは南極域、もしくは南極の端のあたりといえる場所で、水があるとされる南極点付近からはかなり離れている。それでも、これまで月に着陸した探査機のなかでは、最も南極に近い場所だった。

また、この場所は月の裏側から南極にかけて広がる、「南極エイトケン盆地」の表側にある縁から約350kmしか離れておらず、過去に巨大天体の衝突で南極エイトケン盆地が生成された際に飛び散った、当時の月の内部物質を直接探査できる可能性のある場所とされる。

なお現在、インドではチャンドラヤーン2の後継機として、月の南極から石や砂などを地球に持ち帰ることを目指した「チャンドラヤーン3」の検討が進んでいる。このミッションは日本と共同で行われ、打ち上げは2020年代前半ごろに予定されている。

○出典

・Chandrayaan2 Latest updates - ISRO

・Chandrayaan2 Spacecraft - ISRO

・Launch Kit at a glance - ISRO

・GSLV MkIII-M1 Successfully Launches Chandrayaan-2 spacecraft - ISRO

・Chandrayaan-2: Isro, not losing hope, continues to make all-out efforts to restore link with lander 'Vikram' | India News - Times of India

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)

宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

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