スマホ国家・中国で起きた「サイバー三河屋」大暴動の顛末

スマホ国家・中国で起きた「サイバー三河屋」大暴動の顛末

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/08/13
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ここ半年ほど、日本では中国の社会のスマート化が驚きをもって報じられるケースが増えている。いまや中国のスマホ普及率は58%で(日本は39%)、都市部だけなら9割以上に達するという「スマホ国家」。大都市圏を中心として、QRコードの読み込み機能を使ったスマホの電子決済も、個人経営の商店や街角の屋台にいたるまで広く普及している。

ゆえに急成長を見せているのが、シェア自転車やタクシー配車アプリなどの、スマホを介したさまざまな便利なサービスだ。米国のスマート出前サービス「UberEATS」の中国版である「美団外売」もそのひとつである。ユーザーはアプリを使って、現在地の付近にある多数の登録店から料理の取り寄せができる。他にも「餓了么」「百度外売」など各社がしのぎを削る。

従来のように各店舗に直接電話を掛ける面倒がなく、ポータルサイト上でメニューをじっくり見てから注文できるため、食へのこだわりが強い中国人に大ウケしているサービスだ。いまや食事どきに中国の都市部を歩くと、各社のスマート出前バイク(電動バイクが多い)が、スラムの最深部に至るまであらゆる路地を走り回る光景を見るようになった。

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※出撃の準備を整える美団外売の配達員。広東省深圳市内で筆者撮影。

ただし、スマホアプリを介した次世代のイノベーションを感じさせるサービスとはいえ、現場で出前の配達を請け負っているのは、サザエさんの「三河屋」さながらの街の普通の兄ちゃんたちだ。ゆえに、いかにも中国らしいカオスな事件も数多く発生中である。

この記事では、妙にケンカっ早くてアウトローな「サイバー三河屋」の配達員たちの、実に香ばしい事件簿をご紹介していきたい。

三河屋VSガードマン、真夏の決戦!

今年7月27日夜、四川省成都市温江区で、美団外売の出前配達員100人あまりと住宅街のガードマン十数人が、それぞれ手に凶器を持って武力衝突する事件が発生した。地元警察当局の微博(中国版ツイッター)や現地報道によれば、事態の推移は以下の通りである。

1.同日午後8時ごろ、美団外売の配達員・伍さんがある住宅街に配達に来た際に、入口ゲートで身分証の登記など必要な手続きをしなかったため、住宅街側のガードマンと口論となる。やがて苛立ったガードマン側が鉄パイプを手に伍さんをぶん殴る。

2.伍さんの上司・雍さんが現場に駆けつけて仲裁に乗り出す。だが、この上司も血の気が多い人だったらしく、ガードマン側と突き飛ばし合ったり殴り合ったりして、騒ぎはむしろエスカレート。

3.劣勢になった雍さんはケンカは数だと考えたのか、みずからスマホのチャットソフト「微信(ウィー・チャット)」のグループ機能を使って、近隣地域の配達員たちを次々に召喚。仕事を放り出した兄ちゃんたちがワラワラと100人以上も現場に集まってくる。

4.互いに鉄パイプ・棍棒・刃物などで武装した「サイバー三河屋」配達員とガードマンによる、真夏の夜の大決戦が発生。中国の暴動にはよくある話ながら、なぜか入れ墨の入った「その筋」らしき人たちも配達員側に加勢にやって来て武器を振り回し、国士無双の大暴れ。

5。数に勝る配達員側がガードマンを取り囲んでタコ殴りにする。

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圧倒的人数でガードマン(中央の黒服)を取り囲むサイバー三河屋(周囲の黄色いユニフォーム)のみなさん。現地報道より

結果、ガードマン7人と配達員1人が負傷して病院に運ばれ、5人が「聚衆闘殴罪」(仲間を集めて暴動を起こした罪)で逮捕された。暴動の規模がいきなり拡大したため、警察側は現場ではほとんど手を出せない状態であったという。

7月30日、美団外売の微博公式アカウントは事件を受けて「社会に良くない影響をあたえた」ことを謝罪し、配達を請け負う人材への監督強化と各地のガードマンとの円滑なコミュニケーションの強化を約束するという声明を発表。スマートなIT企業らしからぬ泥臭い事件への対応に追われることとなった。

(↑在外華人メディア『多維新聞』がYoutube上で配信した、河北省のスマート出前配達員とガードマンのガチンコバトルの映像)

今年7月20日には河北省においても、美団外売の配達員とガードマンが駐車違反の罰金支払いをめぐって衝突し、それぞれ十数人同士で殴り合う事件が発生している。この事件ではガードマン側だけが武器を持っていたため、配達員9人が病院に運ばれる騒ぎとなった。

ライバル社の配達員と「仁義なき闘い」

ライバル社の配達員同士の武力衝突も数多く報じられている。特に多いのは、業界1位でスマート出前対応店舗の約56%を独占的に握る「美団外売」と、従来の業界1位だったのが美団外売に抜かされて対応店舗の独占シェア率も約20%に下がってしまった「餓了么」とのバトルだ。

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「サイバー三河屋」各社配達員が揃い踏み。中央が「餓了么」、左奥が「美団外売」、右手前は他の業者である。広東省深圳市内で筆者撮影

中国のネット上では、それぞれの配達員の制服の色から、「美団」は黄色軍団、「餓了么」は青色軍団とも呼び慣わされている。彼らの血で血を洗うブレイブストーリーの一部を以下に紹介しよう。

【2014年9月25日】
黄色配達員の董小平さんが重慶市内の四川美術学院にスマート出前を届けに行ったところ、特にこれといった理由もなく青の配達員2人から襲撃されて負傷した。同年7月7日に同市内で、黄色側が30人を集めて青3人をボコボコにする事件があったことや、その後に吉林省長春市で黄色3人が青1人をしばき倒した事件があったため、その報復ではないかと見られている。

【2016年7月15日】
北京のサイバーシティ・中関村の路上で、青配達員が路上に停めてあった黄色の出前バイクに衝突したことで双方の言い争いが発生。やがて現場から立ち去ろうとした青のバイクに、黄色が往年の香港映画さながらのアクションでむしゃぶりついたところ、コントロールを失ったバイクがガードレールに激突して双方が路上に投げ出されることとなる。

ちょうどお昼どきで周囲には黄色・青双方の配達員が大勢おり、闘いの予兆を嗅ぎつけて次々と現場に集結。数十人が対峙して一触即発の事態となったが、さすがに首都の北京であるだけに警官の介入で事なきを得た。

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北京の電脳街で対峙する黄色軍団(奥)と青軍団(手前)

【2017年7月14日】
午後4時ごろ、湖北省武漢市の漢口駅前で黄色の劉さんと青色の史さんが出前バイクの停車位置をめぐり殴り合いのケンカに。やがて仲間6人を呼び集めた史さん側が劉さんほか1人をどつき回して軽傷を与えた。

【2017年7月28日】
午後7時ごろ、黄色の呉さんと青の肖さんが出前の取り違えをめぐってトラブルになり、間もなく黄色側と青側の合計40人あまりによるストリートファイトに発展。双方に6人の怪我人が出た。

これ以外にも青と黄色の衝突は日常茶飯事で発生している。騒ぎが起きた際に一気に仲間がワラワラと集ってくるのは、前出のガードマンとのバトルと同じく、彼らがスマホのチャットグループを使って救援を呼びかけるせいだろう。

洪水発生でも気温40度でも街に突撃

もっとも、「サイバー三河屋」の配達員がしばしば暴動を起こす背景には、中国における彼らの社会的地位が低すぎることや、イライラが溜まりやすいハードな労働環境も多少は関係している。

例えば、スマート出前がオーダーされるのは、普通の人が外食をしたくない天候のときが多くなる。気温が40度を上回る酷暑やマイナス40度に達する酷寒、滝のようなスコールや猛吹雪、凄まじい大気汚染など、広大な中国大陸の屋外環境はしばしば苛烈だ。加えて中国の都市は水はけが悪く、少しの夕立ちでもすぐにプチ洪水が発生するのだが、そんな状況だと出前の注文はむしろ増える。

特に今年の夏は記録的な暑さだ。出前に出かけるスタッフのため、例えば「餓了么」は配達員の詰め所にスイカや漢方膏薬、漢方栄養ドリンクなどを準備して健康に配慮(?)しているそうだが、文字通りの焼け石に水である。。

加えて、えげつないことに中国は極度の格差社会であり、肉体労働者の立場はしばしば軽視される。高級住宅街やオフィスビルなどでは、たとえ大嵐や酷暑の日でも配達員が建物内に入ることを禁止し、なかには建物の影で日差しを避けることすら禁じられた例もネット上に投稿されているほどだ。

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オフィス街の駐車場。日陰にすら入れてもらえずに待たされる配達員。現地報道より

スマート出前には、顧客側が店舗側に「いいね」を付けたり評価を書き込んだりするシステムがあるため、配達員は通常のデリバリーサービス以上に絶対に時間に遅れるわけにいかず、また配達先の機嫌を損ねるような振る舞いも控えがちになる。

結果、炎天下のオフィス街の駐車場で出前相手を延々と待つような、大変な苦労を余儀なくされるわけだ。自分を高圧的に追っ払おうとするガードマンや、対立するグループの配達員に怒りのはけ口を求める心理もわからないでもない。

「サイバー三河屋」で働くのは、地方から単身で出てきてキャリアもない独身の男性というケースも多い。寄る辺なき彼らが頼れるのは、同じ苦労を味わう黄色なり青なりのグループの仲間だけだ。彼らはそれゆえに仲間内で結束し、仲間のピンチにはとりあえず駆けつけてみんなで闘う侠気を持って暮らしているわけである。

中国では前近代から現代にいたるまで、運送労働者や炭鉱労働者などのブルーカラー層の人たちが同業者同士で相互扶助の秘密結社「幇(バン)」を作り、賃金交渉や暴動などの際に猛威を振るうことが知られてきた。

例えば、17世紀に明王朝を倒す大反乱を起こした李自成軍も最初は陝西省の運送労働者のグループだったし、中華民国時代に中国最大の秘密結社として知られた「青幇(チンバン)」も、もとは運河の水運労働者の同業者組織であった。

こうした中国社会の伝統はスマホ時代になっても変わらず、スマート出前の配達員たちも仲間内で「幇」に近い結束を結んでいるようだ。スマホでオーダーされた出前を運ぶ彼らがいざ外部とトラブルとなったときは、チャットアプリで仲間を一斉に呼び集めて「スマート暴動」を実行――。これがイノベーション著しい現代中国における、闇のトレンドなのである。

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