東京五輪代表監督に「可変システム」を操る森保一氏が選ばれた理由とは?

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  • 更新日:2017/10/13

2020年の東京五輪に臨むサッカーの男子日本代表監督に、サンフレッチェ広島前監督の森保一氏(49)が就任することが決まった。12日に都内で行われた日本サッカー協会の月例理事会で技術委員会から推挙され、承認された。
理事会後に取材に応じた西野朗技術委員長(62)は、2012年以降の4年間で広島を3度のJ1王者に導いた森保氏の手腕を「Jリーグのなかでも、最高の実績をもった指導者の一人」と高く評価して言葉を弾ませた。

56年ぶりとなる自国開催の五輪において、23歳以下の若手が大半を占める代表チームの指揮を誰に託せばいいのか。選定にあたった技術委員会は、個々の名前うんぬんよりも、まずは候補者に相応しい基準や指導歴を議論した。西野委員長が説明する。

「育成年代における指導経験と国際経験をもち、その上でJリーグのトップレベルの監督を経験し、さらに実績とチーム作りに対する評価をもつ指導者であるべきだと私は考えたし、そういう視点で技術委員会のなかでも意見を交換しました」

ベガルタ仙台でプレーした2003年をもって引退した森保氏は、翌年に前身のマツダ時代からボランチとしてプレーした古巣・広島の強化部育成コーチに就任。指導者としての道を歩み始めた。

2005年からはU‐19日本代表コーチを兼務。吉田靖監督をサポートしながら、2007年にカナダで開催されたFIFA・U‐20ワールドカップのベスト16進出を経験。一方で中国地域担当のトレセンコーチとして、普及や逸材の発掘にも努めている。

この時点で森保氏は、技術委員会が掲げた「育成年代における指導経験と国際経験」を十分に満たしていた。さらに広島及びアルビレックス新潟のコーチをへて、2012年から広島の監督に就任。J1を3度制した日本人監督は、現時点で森保氏しかいない。

残る「チーム作りに対する評価」の高さに関しては、2012年のDF森脇良太、2013年のGK西川周作(ともに現浦和レッズ)、2014年のMF高萩洋次郎(現FC東京)らと毎オフのように主力選手が移籍しながら、それでもチーム力を維持・発展させてきた軌跡が如実に物語る。

西野委員長はヴィッセル神戸及び名古屋グランパスの監督として、森保監督が率いる広島と対峙した経験をもつ。当時の習慣から「つい『ポイチ』という愛称で呼んでしまう」と苦笑いしながら、森保氏に一本化された最大の理由をこう語る。

「メンバーが変わってもぶれずに自分のスタイルを踏襲していく力と、それでも変化していくものに柔軟に対応しながら戦える力が彼にはある。彼の人格的な部分、たとえばサッカーに対する豊富な知識、周囲を引きつける求心力、若手選手に対するさまざまなアプローチの仕方、謙虚かつ真摯にサッカーに向き合う姿勢が指導力になっていると思う」

チームマネジメントでも妥協を許さない。2014年に国内三冠を独占するなど、実績面では双璧をなすガンバ大阪の長谷川健太監督は、2015年のJリーグチャンピオンシップ決勝で広島に敗れた直後に、森保監督のさい配に思わず脱帽している。

「(佐藤)寿人をあの時間帯にまるで判で押したように、1年間を通して愚直に代え続けることは、私にはなかなかできない。戦い方を変えないメンタルの強さと、それを貫くことでチーム力を上げていく作業ができる意味でもすごいと」

この年の森保監督は不動のエース、佐藤寿人(現名古屋グランパス)を、後半15分前後で必ずと言っていいほど浅野拓磨(現シュツットガルト)と交代させた。相手が疲れる時間帯になれば、浅野の絶対的なスピードが生きるという信念は絶対に譲らなかった。

もっとも、輝かしい実績がそのまま五輪代表に反映されるかと言えば、現時点では未知数と言わざるを得ない。サンフレッチェに黄金時代をもたらした「可変システム」は、2011年まで指揮を執ったミハイロ・ペトロヴィッチ監督(前浦和レッズ監督)の下で編み出されたからだ。

基本布陣の「3‐4‐2‐1」が攻撃時に「4‐1‐5」へ、守備時には「5‐4‐1」へと変わる戦法は、戦術理解だけでなく選手同士の高度な相互理解、そしてあうんのコンビネーションの構築が必要不可欠となる。

必然的に広島でも、ペトロヴィッチ監督が移った浦和でも、年間を通してほぼ同じ先発メンバーとなった。毎日顔を会わせて練習できるクラブ向きの戦術であり、年間活動日数が著しく制限され、招集のたびに選手も入れ替わる代表への導入は困難を極めると言っていい。

ペトロヴィッチ監督時代に産声をあげたひな型を継続させるのがベストと判断し、そこへ守備面の強化を上乗せさせて「可変システム」を熟成させた森保氏の手腕は評価できる。

ただ、ゼロベースから戦術を組み立てたことがないだけに、五輪代表においては現時点で判断材料がゼロに等しい。今シーズンの広島では4バックなど従来と異なるシステムでの戦いにも挑戦したが、チーム状態が上を向かないまま7月4日に電撃辞任した。

西野委員長によれば、サッカーに対する見識を広げるため、いま現在は自費でヨーロッパに滞在して視察を重ねている森保氏は、離日前に行った交渉の席でこう語ったという。

「日本人の技術的に優れた点や規律正しさ、俊敏性や持久力といったフィジカル面での長所を、上手く使ったサッカーをやっていきたいと。日本人らしさというかアイデンティティーというものを、彼は強く口にしていた。いまもいろいろなイメージを膨らませていると思います」

東京五輪の出場資格を有するのは、1997年1月1日以降に生まれたすべての世代。現在インドで開催中のFIFA・U‐17ワールドカップに参戦中の16歳、FW久保建英(FC東京U‐18)も、もちろん選考の対象となる。

注目の初陣は、12月9日からタイで開催される23歳以下の代表チームによる国際試合。ここで、メンバーを見極めたうえで、来年1月に中国で開催されるU‐23アジア選手権に挑むスケジュールだ。

(文責・藤江直人/スポーツライター)

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