流行語大賞に何が選ばれようと、今年の世相を表す言葉は断固コレだ!

流行語大賞に何が選ばれようと、今年の世相を表す言葉は断固コレだ!

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2016/12/01

「現象」を指すだけの日本の流行語

この原稿は、今年の「新語・流行語大賞」が発表される直前に書いている。ノミネートされた30語は手元にあるが、大賞が何になるのかはまだ知らない。

けれども、どうせパッとしないものになるだろう。最近の流行語大賞は、どうにもさえない。「えー、これが大賞?」「知らねーよ、こんな言葉」という突っ込みまで含めて、年末恒例の行事になっているかのようだ。

たとえば昨年の大賞を獲得した2つの言葉を、すぐに言える人がいるだろうか?(「トリプルスリー」と「爆買い」)

今年ノミネートされている30語のラインアップを見ても、なんだか釈然としない。

「新語・流行語大賞」の公式サイトによれば、この賞の趣旨は〈1年の間に発生したさまざまな「ことば」のなかで、軽妙に世相を衝いた表現とニュアンスをもって、広く大衆の目・口・耳をにぎわせた新語・流行語を選ぶ〉というものだ。

しかしノミネートされた30語に、そんな高い志は感じられない。

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「ユーキャン新語・流行語大賞」公式サイトより

目立つのは、話題になった商品やコンテンツそのものの言葉(「ポケモンGO」「シン・ゴジラ」「君の名は。」「おそ松さん」など)。そして、ニュースのトピックそのままの言葉(「EU離脱」「SMAP解散」「トランプ現象」「パナマ文書」など)。これらがあまりに多すぎる。

〈軽妙に世相を衝いた表現とニュアンス〉などはほとんど感じられず、この1年間に起きた「現象」をただ指しているものが多い。これでは「新語・流行語大賞」ではなく、せいぜい「今年よく見た・聞いた言葉大賞」だ。

この賞も昔はこうではなかった。1984年に創設された直後に受賞した言葉を見ると、今とは審査のセンスが違うのではないかと思える。

たとえば第1回の「流行語部門」(当時は「新語部門」と「流行語部門」に分かれていた)の金賞は、「まるきん まるび(○金 ○貧)」だ。イラストレーターの渡辺和博が、現代人のライフスタイルを金持ちと貧乏人の両極端に分けて描いたベストセラー『金魂巻(きんこんかん)』で流行させた言葉で、観察眼と批評精神にあふれている。

翌1985年の「新語部門」の金賞は、なんと「分衆」。公式サイトの解説には〈経済的絶頂期目前の日本社会の自信を表した新語。日本人の価値感は多様化・個性化・分散化してきたとし、従来の均質的な“大衆”ではなく“分衆”が生まれたとした〉とある。ちょっとカタイとも思えるが、時代と真正面から向き合っている感はたっぷりある。

これらに比べると、今年のノミネート語はどうか。

「神ってる」は広島東洋カープの25年ぶりのリーグ優勝を象徴する言葉だし、オリジナリティーにも富んでいるから、大賞の候補にあがってくるかに思える。

だが残念ながら、野球界にほぼ限定された言葉だという印象はぬぐえない。「神ってる」という現象と表現が社会一般に広がったようには思えず、そのため今ひとつパンチに欠ける。

「ゲス不倫」には、言葉としてのある種の面白さはある。

『週刊文春』が今年、次々に報じた有名人の不倫騒動の最初が、バンド「ゲスの極み乙女。」の川谷絵音とタレントのベッキーの騒ぎだったから、「ゲス」が頭についている。これが「人として最低」という意味の「下衆」と重なり、ダブルミーニングのようになっている。大賞候補として事前の人気も高いようだ。

けれども、こちらもやはり広がりには欠ける。個人のスキャンダルから生まれたネガティブな造語だから、口にする側の品性まで落とすような意味合いと語感もある。今年の空気を表した言葉と呼ぶのは、ちょっとつらい。

今年の世相をまさに言い当てている「本当の新語・流行語」が、どこかにないものか……。

それが、あったのだ。

真実が死んだ?

ただし、残念ながら日本語ではなく、英語である。

世界最大の英語辞典であるオックスフォード英語辞典は毎年、「Word of the Year(WOTY、今年の単語)」を選んでいる。2016年のWOTYは「post-truth」。今年の世界を絶妙なかたちで象徴する形容詞だ。

同辞典を発行するオックスフォード大学出版局によれば、「post-truth」とは「世論の形成において客観的事実が、感情や個人的な信念への訴えかけより影響力に欠けている状況」を指す。

真実は死んだ。事実なんて時代遅れ。重要なのは個々の感情であり、自分が世の中をどう思うかだ……そんなニュアンスの言葉だろう。メディアなどで使われた回数は、昨年の20倍に達したという。

この単語にある「post」とは、「ポストモダン」のように「○○の後」「脱○○」という意味だ。「post-industrial society」という言葉が、すでに工業化を達成し、次の段階に進んだ「脱工業化社会」という意味であるのと同じ。つまり「post-truth」は、事実がもはや重要ではなく、「どうでもよくなった」状況を意味している。

オックスフォード大学出版局によれば、「post-truth」が頻繁に使われるようになった大きなきっかけは2つある。

1つは6月にイギリスでEU離脱の是非をめぐって行われた国民投票だ。

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〔PHOTO〕gettyimages

事前の世論調査ではEU残留派が優勢だったが、ふたを開けてみれば離脱派が僅差で勝利した。しかし結果が判明したあとに、離脱派の中心人物たちが公約の前提に誤りがあったことを認めたり、他の公約を「下方修正」したりしたことから、再投票を求める請願に400万人以上が署名する騒ぎになった。

もう1つは7月に、ドナルド・トランプが米共和党の大統領候補指名獲得を確実にしたことだ。

トランプは暴言・放言の限りを尽くしてきた。テロ組織IS(イスラム国)は、現大統領のバラク・オバマが設立した。地球温暖化は中国のでっちあげだ。ビル・クリントン元大統領の側近で、自殺したとされるビンセント・フォスターは、クリントン家が殺した疑いがある……など、なんの根拠もない発言を繰り返した。そして、それに喝采を叫ぶ人たちがたくさんいた。

トランプと民主党候補のヒラリー・クリントンが戦った選挙戦は、中傷合戦に終始し、まともな政策論争は影を潜めた。こうなると、さまざまな「真実」が独り歩きする。候補者の発言の真偽を精査する「ファクトチェック」メディアがこれまで以上に注目されたのも、今回の大統領選での新しいトレンドだった。

しかしトランプが暴言を繰り返したにもかかわらず、投票日直前の世論調査では、どちらの候補がより正直かという問いでトランプがクリントンを8ポイントも上回っていた。クリントンの私用メール問題についてFBIが再捜査を開始したタイミングだったとはいえ、今回の大統領選がいかに「post-truth」だったかを示すエピソードの1つだ。

もちろん「post-truth」の世界を体現しているのは、イギリス国民投票とアメリカ大統領選だけではない。

ポーランド政府の関係者は、飛行機事故で死去した元大統領はロシアに暗殺されたと主張している。トルコの政治家は、今年7月に起きたクーデター未遂の首謀者たちが米CIAの指令で動いていたと言い立てている。

日本にも「post-truth」的状況は訪れている。

憲法改正でも天皇の生前退位でも、豊洲市場や2020年東京五輪をめぐる問題でも、それぞれの意見にどういう意味があるのか、多くの人がわからなくなっているようだ。いや、わからなくなったというより、「どうでもよくなった」のかもしれない。

政府が年金を削減する法案をゴリ押ししても、トランプの当選で発効の見通しがほぼなくなったTPP(環太平洋経済連携協定)の関連法案を強行採決しても、安倍内閣の支持率はアップして、共同通信社の世論調査では60%を超えている。

こんな時代に抵抗できるのか

「post-truth」の時代が訪れた背景に、ソーシャルメディアの隆盛があることはまちがいない。今では多くの人にとって、ソーシャルメディアが重要な情報源になっている。

大手メディアは左も右も中道も、党派的であり、エスタブリッシュメント(既得権層)の一部であるとみなされかねなくなった。大手メディアであるという「事実」そのものによって信頼性を失い、ソーシャルメディア上で攻撃される。

その空洞につけ入るのが、ウソと噂とゴシップだ。ソーシャルメディア上では、自分がフォローしている情報だけ見ればいい。自分がフォローしている世界こそ、「真実」だと勘違いしてもいい。自分が信じるものと相容れない事実は、ソーシャルメディア上では無視できる。

こうしてウソは、一定のネットワーク内でたちまちシェアされる。ネットワークのメンバーたちは、大手メディアよりも互いのことを信頼しているから、彼らが振りまくウソはたちまち「真実」の体裁を整える。

怪しい情報がネット上に飛び交うのは、今に始まったことではない。しかし、自分が聞きたい虚言に拍手喝采する人々の姿がこんなにも目立った年は初めてではなかったか。

メディアの進化が「真実」の価値を下げたというのは、なんとも皮肉な話だ。

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〔PHOTO〕gettyimages

来年1月20日には、「post-truth」時代の象徴であるトランプが米大統領に就任する。

メキシコとの国境に不法移民を防ぐための壁を建てる、イスラム教徒のアメリカへの入国を禁止する、就任初日にTPPから離脱する、もうアメリカは「世界の警察官」にはならず、日本や韓国には米軍の駐留費用の全額負担を求める……。

それらの「公約」を次々と掲げた人物が、もうじきホワイトハウス入りする。超大国アメリカに予測不能の指導者が生まれ、重しを失った世界は未知の領域に突入する。

この原稿を書いている今も、トランプは「私は選挙人獲得数で圧勝しただけでなく、不正に投票した数百万人の票を除けば、(クリントンが上回った)一般投票の得票数でも勝利した」という、まったく根拠のないツイートをしている。

「post-truth」はそんな世界の空気を、実に見事にとらえた言葉だ。

けれども、この「本当の流行語大賞」にいつまでも感心ばかりはしていられない。きたる2017年、私たちがすべきことは何なのか?

それは、もはや事実は重要ではないという時代の「真実」に、いくらかでも抵抗を試みることかもしれない。

少なくとも、ピコ太郎の「PPAP」の動画を飽きずに再生したり、いまだに「歩きスマホ」で「ポケモンGO」をやったり、次の「ゲス不倫」を「文春砲」が暴き出すのを待つことではなさそうだ。

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