長崎、消滅の危機乗り越えJ1自動昇格。高木監督と高田社長が目指した一体感の構築

長崎、消滅の危機乗り越えJ1自動昇格。高木監督と高田社長が目指した一体感の構築

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  • 更新日:2017/11/14
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V・ファーレン長崎の高木琢也監督【写真:Getty Images】

チームとフロントがそれぞれの立場の中で打ち出した打開策

4月から株式会社ジャパネットホールディングスのグループ会社として再出発したV・ファーレン長崎。今春には経営危機の問題が浮上したクラブだが、11月11日のJ2第41節のカマタマーレ讃岐戦に勝利し、悲願のJ1昇格を勝ち取った。激動の一年にあって、この大躍進はいかにしてもたらされたのか。クラブ発足以来長崎を追い続けているライターが、その内実を読み解く。(取材・文:藤原裕久【長崎】)

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長崎と讃岐の試合が始まる3時間前、ホームゴール裏で入場を待つ待機列から一斉にどよめきがあがった。それはJ1自動昇格を争っていた3位の名古屋が敗れ、4位の福岡が引き分けたことへのどよめきだった。

これにより19時からのホーム最終戦で長崎が讃岐に勝利すれば、リーグ1試合を残して長崎のJ1自動昇格が決定する。これまで経験したことがない高揚感がスタジアムを覆っていた。

そこかしこで10年以上前にプレーしていたOBたちの顔や、懐かしいスタッフの姿も見える。J1自動昇格の可能性が高まったことで、スタジアムのメディアルームは通常の倍の広さが確保されていたが、それでも足りずに床には機材やカメラが置かれるほど人が溢れている。

入場時間を迎え、みるみる埋まっていくスタジアムの様子を見ながら、不思議な気持ちが持ち上がった。「これは本当なんだろうか?」。目の前の光景と今年1年の出来事が上手く頭の中で結びつかない。

チームが消滅する可能性もあったし、サポーターにとって泣く気力もないという時期もあった。その中でもクラブはここまでやってきたのだ。「それだけで十分だろう」。正直に言うと、そう思ってしまう自分がいた。なぜなら、そこに至るまでの苦闘をつぶさに見てきたからだ。

2月に発覚したクラブの経営危機やコンプライアンス・ガバナンス問題については、別の機会に詳細を委ねるとして、これに端を発した問題で最も根深く大きなものは、クラブとその周辺に「分断」を作ってしまったことだった。

立場や解釈の違いによって、当事者では無いスタッフ、サポーター、関係者までもが互いを警戒し、距離を取り、寄り添えない……。そんな状態ではJ1昇格どころか、リーグ戦を満足に戦うことすらできなかったと思う。

そんな中でチームとフロントはそれぞれの立場の中で、同じ打開策を打ち出した。それは「一体感の構築」だった。

経営問題に揺れる状況。最悪の場合はJ2残留が最低ノルマに

チームのトップである高木監督が一体感を重視したのが開幕前であり、ジャパネットがクラブ運営を引き継いだのが4月途中からであったことを考えると、事前にお互いが打ち合わせていた可能性はない。だが、クラブの両輪とされるチームとフロントは、奇しくも同じ方向へ向けて走り出していたのだ。

今季、チームの目標はJ1自動昇格だった。過去のJ1自動昇格チームを参考に、必要な勝点を当初は86としながら、夏にリーグの状況を見て80と再設定していることからも、それが希望としての目標ではなく、実現性を重視した明確な目標であったことは理解できるだろう。

また、経営問題に揺れる状況から、最悪の場合としてJ2残留を最低ノルマと想定していたことからも、冷静な計算の上でリーグを戦っていたことはうかがえるはずだ。

幸いにも上位を狙う戦力は整っていた。現在はベガルタ仙台で強化育成本部長を務める丹治祥庸前強化部長が、仙台へ戻る日を延ばしてまで強化に協力し続けてくれたことで、苦しい強化予算の中でもポテンシャルを持った選手たちが揃っていたのである。

だからこそ、高木監督もチーム内での目標を明確に「J1自動昇格」としたのだろう。同時にそれはチームの方向を一つに向け、チームが結果を出して周囲を一つにするために必要なことでもあった。

J1自動昇格へ向けて、高木監督とコーチ陣は次々と手を打っていった。元から定評のあるスカウティング能力をいかして相手のウィークを突くばかりでなく、FWファンマの強さを前面に打ち出す攻撃や、J2に3バックのチームが多いことから用意した3バック崩し、チームの集中を高めるためのミニキャンプ実施や柔軟な選手起用……。

あらゆる手練手管を駆使してチーム力と勝点を高めながら、コンディションに配慮したスケジュールを組み、積極的に選手やコーチ陣とコミュニケーションを重ねて、常にチームの目線を同じ方向へと向けていったのである。

その結果、チームと選手たちは尻上がりに調子を上げて、第30節の京都戦を皮切りにJリーグでのクラブ新記録となる5連勝を達成し、そのまま11戦無敗でJ1自動昇格へ王手をかけるまでに至っていった。

クラブ運営を引き継いだジャパネットグループの懸命な戦い

一方、クラブ運営を引き継いだジャパネットグループもチームへの後押しをすべく、懸命に戦っていた。ジャパネットによるクラブ運営が始まってから、その運営が順風満帆と見えていた人も多いことだろう。

だが、滞りなくクラブを運営していくことは決して容易いことではない。大幅なスタッフ増員や組織体制再編で劇的に会社として適正化されたクラブではあったが、スポーツ界、サッカー界のルールの中で、手探りでの運営に苦戦することもあれば、上手くいかないことだってある。下を向きそうになることもあっただろう。

その中で、長崎が一つになるという理念のもと、究極であり原点としてフロント陣が重視したのがスタジアムへの集客だ。だが、この時点での1試合平均観客者数は5,000人にも届かず、7月には前体制による入場者の水増しが発覚するなどクラブの状況は芳しいものではない。

それでも、ジャパネットの姿勢がブレることはなかった。新聞、テレビ、インターネットよるCMや告知は言うに及ばず、9月からは、県内の地上波民放4局が週替わりのリレー方式で放映するV・ファーレン長崎応援番組の放送を開始。同時にクラブへ送られた意見にも積極的に対応し、ときには高田明社長が自らが話をすることも厭わなかった。

そこには高田明社長の「スタジアムをワクワクする場所にしたい」という思いが詰まっていたし、そんな姿勢が「分断」されていた長崎を少しずつ近づけていったのだろう、J2第38節の名古屋戦で今季最多の12,923人の入場者が記録された。

これ以上ない展開で達成したJ1自動昇格

高田社長と高木監督。別々のアプローチから一体感の構築を目指した2人の取り組みは、最終節に結実を迎えた。

過去最多22,407人の観客が詰めかけたスタジアムで、選手たちは落ち着いたプレーを披露し、乾大知の先制ゴール後、一度は追いつかれながらもチーム最古参の前田悠佑が勝ち越しゴールを決めて、大卒ルーキーの翁長聖がダメ押し弾を叩き込むという、これ以上ない展開でJ1自動昇格を達成したのである。

22,407の笑顔に囲まれたセレモニーで、高田社長は昇格について「多くの皆さんの力の結晶」と語り、「チームが出来上がって十数年。たくさんの方がいて今があることを忘れずにいきましょう。何事も1人の力ではできません。先人の努力、そしてここにいる皆さまの努力、全ての皆さまの成果であることを大事にしましょう」とあらためて一体感の必要性を訴えた。

その後にあいさつをした高木監督もクラブの前身である有明クラブからの歴史へ感謝を述べながら、J1昇格を達成した選手たちに向かい「ありがとう」と感謝の言葉を送った。誰も己の手柄と誇らない。誰も己の力と奢らない、そんなセレモニーで昇格の夜はふけていった。

昇格決定から二日後、少しだけ高木監督と話をする機会があった。昇格について「みんなが報われて良かったよ」と語った監督は、こう続けた。

「あと1つ、勝ちにいくよ、それで勝点が目標の80。俺は完璧主義者だから(笑)」

そう、まだリーグ戦は終わってはいない。最終節でも、みんなを一つにする戦いを見せること……それは長崎が最後までブレずにやるべきことなのだ。まだ挑戦は終わっていない。

(取材・文:藤原裕久【長崎】)

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