働けば働くほど損をする? 定年後の再雇用に潜む罠

働けば働くほど損をする? 定年後の再雇用に潜む罠

  • ZUU online
  • 更新日:2018/07/22

世は人生100年時代。政府は人口減少で深刻さを増す人手不足解消策も視野に入れ、高齢者の就業促進に力を入れているが、定年のあと同じ会社で再雇用されると、働けば働くほど損をすることがある。2000年の法改正で創設された在職老齢年金の仕組みが適用され、稼ぎが多いと年金を減額されるからだ。

現在の制度は定年後、のんびりと働くことを前提に制度設計されている。政府から第一線で働き続けることを求められている再雇用者は、「働き損」をするしかないのだろうか。

■週5日と3日勤務で手取りに大差なし

徳島県の中小企業に勤めるAさんとBさん。ともに誕生日が来れば62歳になる。同じ会社で40年以上働き続け、最後は別々の関連会社に出向して役員を務めていたが、4月からもとの会社で再雇用されている。

Aさんは引き続き、バリバリ働きたいと思い、フルタイムの勤務を選んだ。結婚が遅かったため、東京で独身生活を送る娘が2人いる。故郷で老健施設に入所する母親の介護費用も月に10万円を下らない。長男として母親の面倒を見る責任を感じているうえ、娘の嫁入りなど物入りが続くと考え、若いころにいた職場で週5日働いている。

Bさんは現在、独身。離別した奥さんとの間に息子がいるが、既に独立して結婚している。80代後半の母親は今も元気に故郷で農業をしている。次男という気安さもあり、週3日だけ勤務し、休日は同僚や友人と趣味のゴルフを楽しんでいる。

2人は同期で、最後の役職、関連会社での賃金もほぼ同じクラス。Aさんによると、再雇用後の賃金は週5日勤務のAさんが月30万円足らず、週3日勤務のBさんは20万円ほど。ざっと10万円程度の差があるのに、年金を含めた手取りになると、ともに27~28万円でそれほど大差がないという。

2人の年金月額は約10万円。稼ぎの多いAさんは在職老齢年金により、年金を6万円以上カットされているのに対し、Bさんは1万円ほどの減額で済んでいる。さらに、Bさんは再雇用で定年後の賃金が大きく下がった際、雇用保険から支給される高年齢雇用継続給付を受けている。

Aさんは「これでは全くの働き損になる。政府は高齢者の活用などといっているが、本音は年金を出さないための仕組みでないか」と怒りが収まらない様子だ。

■収入が多いと年金受給額を減額

在職老齢年金は厚生年金の支給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられたのに合わせ、経過措置として設けられた。生まれた年によって65歳になる前に年金を一部受給できる。今年の誕生日で62歳を迎えたAさんとBさんは、満額支給が始まる65歳まで月に約10万円を受けている。

しかし、厚生年金に加入しながら、厚生年金適用事業所に勤めて老齢厚生年金を受給する場合、年金額と賃金、賞与の合計額に応じて年金額の一部または全部が支給停止される。その境界点となるのが、年金と賃金、賞与の合計額28万円。28万円以下なら年金の減額がないが、28万円を超えると減額が始まる。賞与が多いときなど全額支給されないこともある。

日本年金機構によると、年金の減額は①年金月額28万円以下で、賃金と賞与1か月分の合計が46万円以下②年金月額28万円以下で、賃金と賞与1か月分の合計が46万円を超す③年金月額が28万円を超え、賃金と賞与1か月分の合計が46万円以下④年金月額が28万円を超え、賃金と賞与1か月分の合計が46万円を超す-の4段階に分け、計算式を設定している。

例えば、年金月額18万円で、賃金と賞与1か月分の合計が30万円の場合は、①に該当する。計算式は(年金月額+賃金と賞与1か月分の合計額-28万円)×1/2×12。減額分が(18万円+30万円-28万円)×1/2×12=年額120万円で、月額にすると10万円。年金支給額は18万円×12-120万円で年額96万円、月額に直すと8万円になる。賃金と賞与1か月分を足すと、月収38万円になる計算だ。

一方、高年齢雇用継続給付は、雇用保険の加入期間が5年以上ある60歳から65歳までの加入者のうち、賃金額が60歳到達時の75%未満になった人を対象に、最高で賃金の15%相当額を支払う制度。当然、フルタイム勤務よりのんびりと働いている方が賃金の減少幅が大きく、受け取り額も多くなる。

■のんびり働き、年金確保も1つの生き方

政府は働き方改革の中で高齢者の就業促進を掲げ、65歳以降の継続雇用延長や65歳までの定年延長を行う企業を支援する方針。経験豊富な高齢者が幅広く社会に貢献できる仕組みを構築するとともに、人手不足解消の一助とする狙いも見え隠れする。

健康寿命は厚生労働省の調査で2016年、男性72.14歳、女性74.79歳まで伸びた。これに伴い、内閣府がまとめた2016年版高齢社会白書では、全国の60歳以上の男女のうち、約7割が「65歳を超えても働きたい」と答えている。元気なうちはバリバリ働きたいと考える人が少なくないわけだ。

それなのに、現状では現役時代と同様にバリバリ働くと損をする仕組みが存在する。その結果、減額された年金額は年間数千億円に上るともいわれている。2018年度税制改革では働く高齢者の年金控除が引き下げられ、増税対象として照準を当てられているように見える。

年金の減額に目もくれず、働き続けることに喜びを見いだすのか、のんびりと働いて賃金と年金を損なく両方受け取ることを優先させるのか、1人ひとりが選択すべき課題といえそうだ。

高田泰 政治ジャーナリスト
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。

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