最も多い化石は何?生きた証し「生痕化石」が導くことー足跡化石の謎(上)

最も多い化石は何?生きた証し「生痕化石」が導くことー足跡化石の謎(上)

  • THE PAGE
  • 更新日:2017/09/21

私たちが太古に存在した生物の確かな証拠として今もみることができる化石。その存在がなければ、かつてこの地上を大型恐竜が闊歩していた事実は架空の出来事としか思えなかったぐらい、現在の生物は様変わりしています。

こうした第一級の資料である化石にもいろいろな種類があることをご存知でしょうか。

古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、化石研究についてまとめます。

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化石のタイプにおける「生痕化石」

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足跡などを含む「生痕化石」は、化石記録上、実に多く見つかる。こうした化石から、古生物学者は何を学ぶのだろうか? 写真はアラバマ州北部・石炭紀の地層(約3.1億年前)から見つかったAttenosaurusの足跡化石。(2016年Katrina Ketterer撮影)

「人類のはじまりやいかに」

化石研究における命題の一つ。およそこの問いかけに興味のない方は、いないのでないだろうか。我々はどこからやってきたのか? いつ、どのように人類の直接の先祖は現れたのか?

進化学者や古生物(化石)研究者は、当然のように「最古の人類」の証拠を捜し求めている。サイエンス上、この問いに答えるために、具体的にどのようなタイプの証拠やデータを、我々は用いることができるのだろうか?

まず当然「化石」が挙げられるだろう。(この連載を通して紹介してきた様々な例をあげるまでもなく。)他には、例えばmDNAなど「遺伝子上のデータ」を、一部の生物学者は用いる。太古の人類が残したとされる「遺跡や遺物(石器など)」に、その証拠を求める専門化もいる。

古生物学者にとってかかせない化石。しかし、ただ化石といっても、実に様々なタイプの化石があることを、ここで指摘しておきたい。例えば、見栄えのする「ミイラ化した恐竜(https://thepage.jp/detail/20170804-00000012-wordleaf)」 のような全身骨格もある。体がまるごと「琥珀の中に閉じ込められている (https://thepage.jp/detail/20170620-00000009-wordleaf)」化石。「凍りづけになったゾウの化石 (https://thepage.jp/detail/20170323-00000004-wordleaf)」も知られている。アゴや歯など体の一部分だけを供えた化石は、一般に多数発見される。しかし、ある特定のものは非常に興味深い進化上のストーリーを語りかけてくれることがある(こちら参照(https://thepage.jp/detail/20161111-00000009-wordleaf) )。

こうした体の一部および全体を備えたものは、一般に(古生物の教科書などにおいて)「ボディー化石(Body fossils)」と呼ばれる。骨や歯だけでなく、皮膚や体毛、太古のDNA等、体の一部が直接保存され化石として残ったものが、このボディー化石に便宜上分類される。博物館や恐竜展などでよく目にする化石は、ほとんどがこのタイプだろう。

さて、もう一つ別のタイプの化石があることをご存知だろうか?

このグループを化石研究者は「生痕化石(せいこんかせき)」と呼ぶ。英語では「Trace fossils」とつづる。太古の生物によって残された生の痕跡(こんせき)を示す化石群をさす。例えばたくさんの小さな海生動物(貝、ゴカイ、エビ、蟹など)は、海底にもぐって生活する。こうした小動物によって掘られた「巣穴(burrow)」の跡は、化石として実によく見つかる。アリやモグラ、蛇、一部の恐竜などの陸生動物の巣穴の化石も知られている。

例えば下の写真を見ていただきたい。私がアラバマ州におけるフィールド調査を行っている際に見つけた巣穴の化石だ。岩石は白亜紀末の、恐竜やモササウルスなどの海生爬虫類が絶滅する、すぐ間近の石灰岩の地層に残っている。現場は、約6600年前当時、海岸線近くの海環境だったと考えられる(たくさんの貝殻や魚の骨が見つかった)。

薄灰色の岩石の中に、親指ほどの太さの巣穴が多数、複雑に入り乱れているのが分かるだろうか? 特に海底の地表に沿って規則正しく掘られているわけではない。大きさや角度もさまざまだ。そしてこの地層の約50cmのレベル(厚さ)から、そこら中にみられた。こうした条件を考えると、貝などによって掘られたと考えられる。(注:他の海生動物によって作られた可能性もある。)

「生痕化石」の重要性

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Image 1:アラバマ州の白亜紀末の海成堆積層(石灰岩)に見られるたくさんの巣穴の化石足跡。(2015年著者撮影)

巣穴と似たようなもので「巣の化石」も挙げられる。主に陸生動物によって残されたものだ。例えば、一部の恐竜は卵の化石とともに、巣が丸ごと保存された状態で見つかることがある。卵の数や、卵の並び方、そして巣の大きさや作り方は、雛(ひな)がかえった時の状態など知る手がかりを与えてくれるので貴重だ。(脊椎動物の進化上、母親の個体はいつ頃、具体的にどのような「契機」において、赤ん坊の世話をはじめたのだろうか?)

海底や川底をはったり泳いで残された痕も、化石としてたくさん見つかることがある。種や生物グループによって、こうした痕の形態は、実に様々だ。魚の尻尾によって残された痕から、タニシのような巻貝の這った通り道まで、多岐にわたる。水の底は、生物の生きた痕が、実に生々しくくっきりと残されていることが多い。時に何千万年、何億年という時間を経ても残される。

生痕化石の他の例として、「食べ痕」も代表的なものだ。肉食恐竜にかじられた、草食恐竜の骨の一部などは、比較的よく見つかる。貝殻にあいたも多数の穴も、他の水生動物によって襲われた(食べられた)痕の可能性がある。木の幹に多数の虫食いの痕が残っているの化石もある。こうした多数の痕を見せつけれれては、生物の進化史とは「すなわち食べる歴史」とでも言いたくなる。昼飯時の人気の定食屋のような活気さが、生痕化石から私には伝わってくる。

化石標本を見る時、こうした「傷跡」に注意を払ってみると、意外な事実に気づくかもしれない。

糞の化石 ── いわゆる「糞石(coprolite)」も、(環境によっては)たくさん見つかる。糞石は当時の食生活を調べる際、貴重な情報をもたらしてくれる。ちなみに化石(=オリジナルの成分が周囲の鉱物・岩石のものと取って代わられたもの)なので、まったく匂いはしない(どうかご安心を)。

一般にこうした生痕化石は、太古の具体的な環境を知る直接の手がかりを与えてくれるので貴重だ。例えば、先に紹介したアラバマ州の白亜紀末の地層から見つかった巣穴の化石は、遠浅で温暖な海だった可能性を示している。実にたくさん見つかる、こうした巣穴や他の化石から推測するに、多くの海生動物にとって、かなり住み易い環境だったはずだ。

生痕化石から、太古の生物の行動の変化(進化)に関するデータが手に入る可能性もある。例えば、一連の巣穴の化石記録によると、古生代初期の海生動物は、基本的にあまり砂の中、深く「潜ることができなかった」と考えられている。砂の中に深くもぐる能力、そしてより複雑な巣穴の構造を海生動物が手に入れたのは、古生代中頃から後半に入ってからと、一般に考えられている。(その変遷期に、何か環境上の大きな変化が何か起きたのだろうか?)

足跡が語りかけてくれるストーリー

足跡の化石も生痕化石の一つとして、非常に重要なものだ。足跡は文字通り、脚をもつ多種多様な陸生動物群によって残されたものだ。化石記録において、足跡は「実にたくさん発見される」という事実をご存知だろうか? 歯や骨などのボディー化石より、足跡の化石がより見つかる地層は、世界各地にたくさんある。

この事実は、単純な計算から理解できる。例えば恐竜などの陸生脊椎動物の姿を一つイメージしていただきたい(種類は何でもいい)。どの個体も、頭一つ、四つの手足、背骨も(種によって一定の)決まった数がそろっている。歯は種によってたくさん持っているものもいる(「持っていないもの(https://thepage.jp/detail/20170120-00000013-wordleaf)」 もいた)。この個体が死んで後、化石として骨格が保存される可能性があるだろう。頭や手足のような骨格の部位における骨の数は、化石として見つかる確率に基本的に比例している。頭骨が化石として見つかる可能性は、歯や背骨より極端に低いのは、火を見るよりも明らかだ。宝くじの配当金と当たる確率の関係にも似ている。一億円当たる人はほんの一握りの運のいい人だけだ。

一方、一匹の恐竜が死ぬまでに、はたして何個の足跡をその生涯に残せるか、想像してみてほしい。何千、何万という数にのぼることもあるだろう。

例えば、ジュラ紀後期の竜脚類を、私は個人的に長い間研究してきた。その際、足跡はあちこちの現場(地層)でたくさん見つかることに驚いたものだ。

下にある写真は、アメリカのロッキー山脈沿いにあるワイオミング州の、あるジュラ紀後期の地層(恐竜がたくさん見つかるモリソン塁層)において発見したものだ。私のハンマーの先にある砂岩石の表面に、丸い斑点のような印が縦に一列に並んでいる。四脚恐竜 ── おそらくカマラサウルスやアパトサウルスのような竜脚竜の幼体 ── のものと思われるジュラ紀の足跡化石だ。

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ワイオミング州のジュラ紀の地層に残された恐竜の足跡。足跡の化石は非常にたくさん見つかることがある。

この写真を撮った地域からは、大小様々、何百という足跡化石が見つかる。フィールドでの体験をもとに、私は場所と地層によって、足跡の化石は「非常にたくさんみつかるのだ」という事実に(改めて)気づかされた。

閑話休題。こうした事実は、自分でフィールドに足を運び、汗をながして歩きまわらなければ気づかないだろう。そして見つけた足跡化石を、全て博物館などに持ち運ぶことは物理的に不可能だ。(岩石のずっしりとした重量とその量を目の前にすると、そんな気さえ起きない。)

さて、足跡化石から具体的にどのようなことを、我々は学べるのだろうか? そのサイエンス的な意義とは何だろうか?

まず足跡から太古の生物の行動パターンを、直接知ることができる。例えば四脚歩行から二足歩行への進化。特に人類の進化において、この違いは重要とされるが、骨格のデータだけをもとにすると、なかなかはっきりした行動上の変化が、分かりにくい。その逆のパター(二足歩行への移行)も、特に一部の爬虫類や哺乳類の進化上、起こった。動物がその名のとおり、進化上いつ自由に動きはじめたのか? その証拠は、生痕化石のデータにたよるしかないだろう(こちらの記事(https://thepage.jp/detail/20170529-00000005-wordleaf)参照)。

足跡化石から歩行速度の推測なども行うことができる。例えば、白亜紀後期の肉食恐竜ティラノサウルスは、ハリウッドの映画のように、実際ジープなどを追いかける速さで、走ることが出来たのだろうか? 今となっては、実際に走っているT. rexの個体を、直接計測することなど出来ない。ウサイン・ボルトより速く100mを走りきれたかもしれない(無理だったかもしれない)。しかし、足跡のような生痕化石が、このような問いかけに対するデータを与えてくれる可能性がある。

肉食の動物が、単独で狩りを行っていたのか? それとも群れ(パック)で行動を行っていたのだろうか? 特に化石種において、こうした証拠である足跡の化石から得られるデータは、非常に重要だろう。

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