女子ジャンプ、高梨沙羅の銅メダル獲得の背景に何があったのか?

女子ジャンプ、高梨沙羅の銅メダル獲得の背景に何があったのか?

  • THE PAGE
  • 更新日:2018/02/15
No image

高梨沙羅は銅メダル確定の瞬間、伊藤有希と抱き合った(写真・アフロスポーツ)

平昌五輪シャンツェにきまぐれな強風が吹く。ジャンパーを悩ませる追い風がひどく、滑走順で不運にも、その風にあたってしまった選手は無残にたたき落とされて100mオーバーすらできなくなっていた。追い風だけでなく、ここでは、右サイドからの横風にあおられバランスを崩してしまう選手も出てきていた。

2009年にオープンしたアルペンシア・ジャンプセンターのシャンツェは、ランディングバーンが広く作られ、飛び出しの部分の角度が11度と低く設定されている。標高800メートルの場所にあり、ここ特有の強風と横風で左右に流されないように選手の安全確保のためだ。しかも、ノーマルヒルは、K点までの水平距離が高低差の割には長いため、前方へなめらかに飛び出す低空飛行タイプの選手に向いている。それゆえ追い風にやられると、低い飛行曲線のまま、失速するケースが多い。ストレスのたまるジャンプ台であった。

できることならば無風、あるいは少しの向かい風が欲しかった。

高梨沙羅(21、クラレ)がスタート位置につくと不思議と風が落ち着いた。追い風はない。
その表情は集中していた。両肩から上半身への硬さもまったくなかった。
追い風は吹かなかった。運命の2本目。踏み切りのタイミングがドンピシャだった。空中においても上体がしっかりとブロックされ、滞空時間をキープ。着地までスムーズに移行、今季のベストジャンプとなった。
103.5メートル。
2人を残して暫定1位。高梨のメダルが確定した。
「自分を信じて無心で飛ぶことができました。あの4年前のソチ五輪のジャンプ。それは、リベンジできたように思います」
うれしさいっぱいに、それでいてクールな眼差しで、ていねいに高梨は応えた。

だが、ライバルのひとりアルトハウス(ドイツ)は気迫のこもったスピードあふれるジャンプで、風をつかみ飛距離を伸ばした。高梨の記録を上回る。そして現在のW杯リーダーでイエロービブを羽織る女王ルンビ(ノルウェー)も高い飛び出しから、タフな加速をもってサッツを切り、空中で良い風をつかみながら、110.0メートルのスーパージャンプを見せた。

メダルの色は銅へと変わったが、それは4年越しとなる価値あるメダルだった。高梨はようやく五輪メダルを手にしたのだ。

「銅メダル、よかったです。ですがわたしはまだ金メダルの器ではありません。これからもより頑張っていかなければなりません」

銅メダル獲得の背景には、五輪直前にスロベニアのプラニツァで行われた強化合宿にあった。W杯リュブノ大会を終えた日本チームは、そのままスロベニアに移動していた。

そこでは、各選手の課題を明確にした。「アプローチスピードの向上」「重心の位置の確認」「足裏の感覚の研ぎ澄まし」などを追求した。ベストの長さから2~3cm短いスキーをはいて、アプローチのバランスの確認や、スピードの変化をみる滑走テストや、空中におけるスキーの操作性の向上と、それにともなう風との相関関係を科学的に確認しながらのジャンプ練習を繰り返した。もちろん、平昌五輪の独特のジャンプ台を想定しての作業で、各選手が10本前後のジャンプを飛んだ。結果的に、これが功を奏した。

「直前合宿でいろいろと課題を再確認できて、どうすれば、さらに安定したアプローチ姿勢が組めるか、サッツでスムーズに踏み切ることができるかなどがわかり、オリンピックの本番に向けて、少し自信が出てきました」と、高梨も語っていた。W杯で無敗のまま平昌五輪を迎えた高梨は、ここで自信を取り戻した。

高梨の着地後に、真っ先にフィニッシュエリアに走り込んで『おめでとう!』と抱きついたのは伊藤有希(23、土屋ホーム)だった。高梨もそれが、うれしくてたまらなくなり、涙があふれ出た。

共に表彰台を狙っていた伊藤は、不運な追い風に泣かされた。あの強烈なバックの風では、ジャンプ後半に飛距離は伸ばせない。「この現実をしっかりと受け止めて、次へと進みます」。9位に終わり涙が出るほどの悔しさがありながら、伊藤は高梨の銅メダルを心から祝福した。
「今日こうして沙羅ちゃんがメダルを獲れましたし、日本チームで戦った試合だったと思います」
伊藤の存在は、高梨にとってかけがえのないものだった。苦しい4年を支えてくれた先輩であり“友”だ。

会場のバックスタンドには日本の応援団が陣取った。それも北海道下川町(伊藤有希)と上川町(高梨沙羅と勢藤優花)そしてエイブル(高梨沙羅の支援企業)などを合わせて100人もの大声援があった。

ともすれば閑散とした平昌ジャンプ台会場の応援席に、日本からおおいなる熱気を持ち込んだ各応援団が、この場で一致団結して、高梨を筆頭に日本チームの精鋭4選手に対して、大声で応援し続けていたのだった。
それはスタートバーに入った選手たちにしっかりと聞こえていた。
「銅メダル獲得は、あの応援の皆さんのおかげです」。高梨は、ていねいに感謝の気持ちを伝えた。

(文責・岩瀬孝文/国際スキージャーナリスト)

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

フィギュアスケートカテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
宇野昌磨選手「課金は負けではない」の名言にソシャゲ民感涙!
またも衣装はだけ、フランス組あわやのアクシデント
仏ペア、ホック外れるハプニングも2位でフリー進出/フィギュア
アイスダンスで仏代表の衣装はだける、選手は「悪夢」と涙 平昌五輪
羽生結弦の「ある行動」に称賛続々! ファンが感動した「心遣い」とは
  • このエントリーをはてなブックマークに追加