チキンレースと化したドイツ連立交渉の妥結

チキンレースと化したドイツ連立交渉の妥結

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  • 更新日:2018/02/14
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ドイツのキリスト教民主同盟(CDU)、キリスト教社会同盟(CSU)、社会民主党(SPD)の3党間で行われていた連立交渉が、7日妥結した。昨年9月の総選挙以来、実に4か月半にわたる長丁場の交渉だった。

ロイター/アフロ

途中、当初の目論見であったジャマイカ連立(CDU/CSU、緑の党、自由民主党による三党連立。党のシンボルカラーがジャマイカ国旗と同じであることからこう言われる)が頓挫し、CDUとSPDによる二大政党の連立交渉に舞台が移り、結局、これまでの大連立がまた繰り返されることになった。実にメルケル政権になってから3回目の大連立である。

大連立成立の最終決定は3月4日

大連立に関し、ブラント元首相は「性的倒錯者の異常行為」と評した。艶福家ブラントの面目躍如といったところだが、それほど大連立は「アブノーマル」である。右と左の本来相容れない立場の二大政党が、それ以外成立の見込みがないという例外的な状況で、止むを得ず圧倒的多数の連立を形成する。民主主義の王道からすれば、本来あってはならない選択にちがいない。その大連立が4か月半の政治空白の後ふたたび実現することになった。

但し、今回の合意は未だ仮である。SPDが党員投票にかけ全党員の意向を確認してからでなければ最終回答はできないとしているためだ。党員は46万人余り。これから3週間かけて投票が実施され、最終的結論は3月4日に下される。

党内には大連立反対の若手党員が相当数いて予断は許さないものの、直近の世論調査によればSPD党員の6割が合意支持という。従って、今のところ大連立政権が発足する可能性は高い。

連立交渉の焦点となった「財務相ポスト」

連立合意では、労働者の短期雇用禁止、健康保険における公的保険と私的保険の間の均等負担、難民家族の受け入れ等に関し妥協が図られた。大まかに言えば、SPDが労働、社会福祉で、CDUが治安、内政でそれぞれの立場を貫いた。

しかし、交渉の最終局面で、これらの実質内容は双方の関心事項ではなかった。焦点は、実質でなくポストだったのである。それも、一言でいえば財務相ポストを巡る攻防だった。これまで財務相にはCDUの重鎮ショイブレが就いていた。さすがCDUのお目付役だけあって、ショイブレ財務相の眼鏡にかなわない政策はことごとく陽の目を見ることがなかった。ユーロ危機の債務救済、EUに対する拠出、社会、労働政策における資金配分等、重要政策はショイブレ財務相が差配した。ドイツにおいて、財務相はそれほど強大な権限を持つ。

SPDはこれに目を付けた。いくら合意文書にきれいごとを並べても、実際は財務相ポストを誰が握るかで全てが決まる。SPDは財務相を含む外相、労働・社会相の三閣僚ポストを交渉成立の絶対条件としてCDUに強く迫った。

CDUが避けたかったのは再選挙である。連立交渉が決裂すれば少数政権を発足させるか再選挙しか道はなくなる。少数政権になっても、政権が立ち行かなくなれば再選挙しかない。しかし、今の状況では再選挙での票の積み増しはない、というのが大方の見るところだ。何より連立交渉に二回も失敗すればメルケル首相は指導力を失墜し場合によっては退陣に追い込まれるかもしれない。メルケル首相にとり交渉妥結は至上命題だった。

事情はSPDも同じである。再選挙になれば史上最低となった前回の20.5%を更に割り込むことは必至である。従って、SPDも再選挙を避けたい。交渉は、そういう中でのチキンレースだったのである。結局、6閣僚を獲得し勝者となったSPDは大きな獲物を手に入れた。財務相を握ったSPDは、EU政策、労働社会政策等の分野で独自色を出していくことが予想される。

その財務相にはオラフ・ショルツ、ハンブルク市長の名が挙がっている。ショルツ氏は2007年から2009年までメルケル政権下で労働・社会相を務め、年金支給年齢の引き上げを実現する等、党内改革派とされる。その後、2011年、ハンブルク市議会選挙でSPDを勝利に導き、それまで10年間CDUの根城だったハンブルク市を奪還、市長に就任した。「尊大」なショルツと称され、党内には、その偉ぶったところに反発する向きも少なくない。労働法の専門家で、謹厳実直、冷酷無比、感情を表に出さず、筋を通し、一度言ったことはがんとして曲げない。党内右派の財政通である。

今後のドイツ政治を占う3つのポイント

翻って、この4ヵ月半をどう考えるべきか。形の上では大連立という元の木阿弥に戻ることとなったが、しかし、この難航した交渉の過程でドイツ政治は大きく変貌した。

第一に、混乱の発端は2015年の難民政策である。メルケル首相は明らかにボタンを掛け違えた。メルケル首相は国民がこれほどまでに反発するとは思っていなかったに違いない。今やヨーロッパ全土はポピュリズムの大きなうねりの中にある。ドイツはその例外かと思われたがそうではないことがはっきりした。新たに野党第一党として議会進出を果たした「ドイツのための選択肢」(AfD)を前に、既存政党は厳しい対応を迫られざるを得まい。難民問題は今後のドイツ政治の大きな焦点である。

第二は、メルケル首相の指導力低下である。メルケル時代の終焉といってもいいかもしれない。選挙前は絶対的な強さを誇っていたメルケル首相は連立交渉の難航で指導力のもろさを露呈し、ある調査によれば、4年の任期を全うすることなく降板すべきだとする者が47%にも達した。政治ウオッチャーの間でも今後4年間は持たないだろうと見る向きが少なくなく、その場合、前倒し総選挙の可能性も排除されない。問題は、CDUに有力な後継者がいないことである。メルケル首相はこれまで有力と目されたライバルを次々と蹴落としてきた。その結果、メルケル首相を継ぐ後継者が党内に見当たらないのである。次がいないから任期を全うする、というのもドイツにとっては不幸なことであろう。

第三は二大中道政党の弱体化である。今回の混乱を見ていると、二大政党の「断末魔のもがき」のような印象さえ受ける。もがいた結果、何とか大連立を組み、やっとのことで踏みとどまりはしたが、国民にはまた大連立かの感がぬぐえない。実際、直近の調査では国民の6割が大連立に否定的である。結局、大きな流れは「ドイツ政治の小党分裂化」である。しかし、二大政党が益々弱体化し小政党の分立という事態になれば、連立交渉はますます複雑化する。つまり、これまで無類の安定度を示してきたドイツ政治は、今後不安定度を増していかざるを得ない。後から振り返って、今回の混乱はそういう不安定化の始まりであった、と評されることになるのかもしれない。

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