市民4人にカメラ1台、監視先進都市ロンドンからレポート

市民4人にカメラ1台、監視先進都市ロンドンからレポート

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  • 更新日:2017/12/07
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店舗の入り口や窓などの開口部に目を光らせる四つの防犯カメラ。カメラだらけの様子はロンドンでは日常風景になっている(撮影/青木陽子)

市民1人当たりの防犯・監視カメラの数が先進国で最も多いと言われる英国。公共交通機関や警察など公的な組織が運用するものが10万台、店舗やオフィスビル、個人の住宅など私的に設置されているものは600万台にのぼると推測されている。人口860万の首都ロンドンには、そのおよそ3分の1が集中しているという。大まかな計算だが、市民4人にカメラ1台だ。

防犯カメラが英国でいち早く広がった理由としては、1980~90年代にかけて猛威をふるったIRAによるテロの影響が大きい。階級社会ゆずりの格差社会で「持たざる者」となった若者などによる器物損壊や窃盗、迷惑行為が多く、残念ながら道行く人を怪しむ風潮もややある。

2005年に起きたロンドンの同時爆破テロがカメラの普及を後押し。私の記憶では、公共スペースでの防犯カメラの普及に用心を呼びかける声が急速に小さくなったのもその頃だ。今日も電車に乗れば、一つの車両に3、4カ所、赤い2階建てバス車内は4、5カ所、駅の改札やホームには数カ所ずつ、学校の入り口もという調子でカメラに見つめられる毎日だ。道を歩いてふと視線を上げると、街灯のように立っているカメラのレンズと目が合うこともある。

さらにはパブ店内、ファストフード店内、病院の待合室、マンション入り口、個人宅の出入り口といった具合に、企業や個人など民間が管理するスペースとなるとさらに氾濫とも形容したくなる防犯カメラの普及ぶりだが、今のところ英国に住む人々の多くは、カメラがあったほうが安心なので仕方ない、と思っているようだ。知人に意見を聞くと、

「犯罪捜査などに役立っている実感があるので必要悪だろう」(50代英国人)

「密告や監視が横行したヴィシー政権の記憶があるフランスはこんなにカメラに寛容にならない」(在英30年のフランス人)

警察はもとより監視カメラの活用に積極的だが、犯人特定につながりそうな静止画や動画をツイッターなどでも頻繁に配布している。近所で事件があり、捜査員がおたくの防犯カメラの映像を提供してもらえないか、と私の家に訪ねてきたことも一度や二度ではない。防犯カメラを設置すると、自宅の家財保険が割引になることもあるという。

この傾向に、警鐘を鳴らす人たちもいないわけではない。例えば、防犯カメラは実は期待されるほど犯罪の予防には役に立っていない、という犯罪学や統計からの指摘がある。激情からの暴力、アルコールやドラッグの影響下での犯罪抑止には効果がないし、近年心配されているテロは自爆犯によるものが多く、自爆犯はカメラなど意に介さないからだ。

フェイスブックやグーグルフォトに写真をアップロードした途端、友だちの名前が次々にタグ付けされた経験のある人は多いだろう。強力な顔認識機能と膨大な防犯カメラデータを合体させれば、英国人オーウェルが描いた『1984年』の監視社会はすぐにも実現可能になる。すでに英国の鉄道警察は「疑わしいという捜査要請があれば個人をリアルタイムで追跡できる」とまで言っているのだ。

自分はやましいことなどないから大丈夫と思いがちだが、時の政府が強権的に転べば、今は合法な市民活動が突然違法になり追われる可能性もなくはない。防犯カメラは、安心をもたらしてくれる半面、不安ももたらす“諸刃の剣”である。

実は英国では、公的な組織による防犯カメラの設置数は頭打ちか減少傾向に入っている。とはいえ、その理由は、必要な場所に設置しきって飽和したというのと、緊縮財政の中で設置効果が費用に見合わないケースが多くなっているというものらしい。ビッグブラザーの登場を懸念しての見直しではないようだ。(ロンドン在住ジャーナリスト・青木陽子)

※AERA 2017年12月11日号

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