中国「大物政治家」のスキャンダルを暴露し続けた大富豪の狙い

中国「大物政治家」のスキャンダルを暴露し続けた大富豪の狙い

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2018/01/13
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暴露マン

昨年、在外中国人社会を大いに騒がせた「郭文貴」という人物をご存知だろうか。もとは中国の体制内に食い込んでいた富豪で、北京五輪の公園開発などで巨額の富を得たとされている。

胡錦濤時代(~2012年)、中国の官僚の腐敗や官民癒着はなかば公然化し、海千山千の政商たちが数多く跋扈していたが、郭文貴はそのなかの大物だった。彼の亡命直前の2014年には中国の大富豪ランキングで74位にランクイン。諸報道によると、過去の郭文貴は江沢民派の首魁である曽慶紅の影響下にあったとされる。

だが、習近平体制のもとで大規模な汚職摘発と権力闘争が勃発した結果、郭文貴は失脚して2015年にアメリカに高飛びする。やがて昨年春ごろから盛んに海外メディアに露出し、YoutubeやTwitterなどで中国共産党の高級幹部のゴシップ・スキャンダルを次々に「爆料」(暴露)するようになった。今年4月に中国政府はICPO(国際刑事警察機構)を通じて郭文貴を国際指名手配している。

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※Youtube上で元気に中国高官の腐敗を暴露する郭文貴。趣味はジョギングだ。https://youtu.be/4hqD4sH7_Ig

郭文貴の「爆料」は、習近平の腹心・王岐山の愛人問題やその親族と大手航空会社との癒着問題、元政法部門トップの孟建柱の隠し子問題や党内派閥の謀議への参加などが代表的だ。特に王岐山については、今年10月に発足した第2次習近平政権で最高幹部として留任できなかった一因が郭文貴の暴露だとする説もある。

郭文貴のYoutube映像は、啖呵売を思わせるべらんめえ調の口調が売りで、コンテンツとしてはヘタなテレビよりもずっと面白い。正確な出生年すら定かならぬ生まれから、一時は総資産3000億円に達する大富豪に登りつめたパワフルすぎる中華親父。話が面白くなかろうはずもない。今月売りの『SAPIO』(小学館)に掲載されたインタビューを読んでも、実に怪しい魅力を放ちまくっているヤバいオッサンである。

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※ニューヨークの五番街の自宅で怪気炎を上げた郭文貴の姿を伝える報道。『SAPIO』2018年1・2月号より。

……とはいえ、郭文貴の話は「状況証拠」からは妥当なものも多いとはいえ、多くはウラが取れていないものだ。また、彼が自身のウェブメディア上や、取材を受けた各メディアに向けて提示した「証拠」のなかには、音声が不明確だったり写真がピンボケだったりと「微妙」なものも多い。

キャラクターとしての郭文貴は間違いなく面白いのだが、筆者の友人の某中国ジャーナリストは「中国版の籠池泰典氏みたい」と評する。森友学園の大将と中国有数の大富豪では重みが違いすぎるとはいえ、距離を置いた第三者にそういうイメージを持たれるのも仕方ない部分はある。

だが、ともあれ郭文貴が引き起こしている現象それ自体は興味深く、在外華人を中心に熱狂的なファンも多い。彼については中国民主化運動家の間でも評価が分かれているが、たとえば在米華人の主要なオピニオンリーダーの一人で、ハーバード大学研究員の楊建利氏(政治団体「公民力量 Initiatives for China」代表)は、郭文貴を熱心に応援する立場を取っている。

筆者は昨年11月末、都内のマリオットホテルで、来日中の楊建利氏にインタビューする機会を得た。中国民主化運動の積極的な支持者で運動家でもある楊氏はなぜ郭文貴を支持するのか、ご覧いただきたい。

”ハメ撮り”写真捏造大富豪の真偽は?

――まず、楊建利さんと郭文貴さんの関係について、日本の読者にご説明をお願いいたします。

楊:私が郭さんと最初に会ったのは今年3月です。出身地(山東省)を同じくすることもあって、まずまず親しく付き合っています。友人と言っていいでしょう。

――わかりました。では、中国民主化運動の活動家として、あなたは郭文貴さんの「爆料」(暴露行為)をどう評価しますか?

楊:肯定的に評価しています。彼の「爆料」(暴露)は、民衆に対して中国共産党政権の腐敗を、あらためて具体的に認識させたという点で、中国が真の法治と民主化に向けて進むために非常に大きな貢献を果たしていると思います。

なにより、TwitterやYoutubeを使って、世界中に広く公開している点がすごい。ネットユーザーと直接の交流をおこないながら、中国当局の腐敗の実情を明らかにしているのですから。

――郭文貴さんに対して懐疑的な姿勢を持つ人も少なくありません。その言動に虚実が入り混じっているとされるためです。これついてはどう思いますか?

楊:郭さんについては影響力の大きさを評価するべきでしょう。彼の言っていることがすべてが本当かはわかりません。それは誰にもわからないのですが、むしろ私は個々の事実性の認定よりも影響力を重視したい。郭さんの言論活動は世界から注目され、なによりも中国共産党から恐れられていることは紛れもない事実ですから。

中国国内で政争に破れ、海外に亡命した元体制内の人間は数多くいます。しかし、郭さんのようなことは誰もしてこなかった。薄瓜瓜(2011年に失脚した重慶市トップ・薄煕来の息子)も令完成(2014年に失脚した胡錦濤の元腹心・令計画の弟)もできなかったことを、彼はやっているのです。

――しかし、郭文貴さんの「爆料」には明らかなフェイク・ニュースも混じっているようです。例えば習近平の腹心で元党中央規律検査委書記の王岐山が、美人女優の范冰冰(ファン・ビンビン)とベッドを共にしている……というような。

楊:その事実関係は誰にもわからないが、私たちの中国当局に対する(腐敗しているという)認識に合致する話ではあるでしょう。実際に王岐山が范冰冰と寝ていたって何もおかしくありません。中国共産党の上層部は、そのくらいの権力を持ち、腐敗しているのは確かなのですから。

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※郭文貴がTwitter上で暴露した、王岐山と「オーストラリアの××」(有名女優・范冰冰を指すと思われる)のベッド上でのハメ撮り写真。だが、ネットユーザーによって映画の1シーンを切り取ってコラージュしたものであると指摘されている。

――うーむ……。それはそうなんですが。

楊:なにより、郭さんが個人の立場で、強大な中国共産党に対抗していることを忘れてはならないでしょう。郭さんは彼の財産権と、彼自身や家族の生命の安全を侵害されている事実に対して、勇気を持って自分自身の「維権」(権利の保全)のために戦っている。自分を犠牲にして、「爆料」をおこなっているんです。

なぜ習近平については攻撃しないのか

――確かに郭文貴さんや家族の心身の安全は危機にさらされているはずです。彼が自己防衛策として積極的に発言を続けているのは確かでしょう。しかし、財産権については正当な「維権」(権利の保全)だと言えるでしょうか。彼の財産は、かつて体制側と癒着して稼いできたものも多いはずで、本来は不当に搾り取られた中国人民のカネです。

楊:その質問には一理ある部分もあります。郭さんのカネが100パーセント、クリーンなものとは言えないところもあるでしょう。この問題は将来、法治によって解決されるべきだと思います。

――「法治」とは中国の法治でしょうか。

楊:そうです。郭さん自身も、いまは法治の重要性をわかっていると思います。

――そうですか……。ほか、郭文貴さんの言動については、在外中国人民主活動家の間でも賛否両論があるようです(※たとえば1989年の天安門デモの元リーダーの王丹は「まったく関心がない」と距離を置く姿勢を示している)。

楊:確かに。人によって考えは異なりますね。

――中国の民主化運動はもともと、楊建利さんを含めて、中国国内ではかなりハイレベルな知識人層だった方がリーダーシップを示してきたものでした。対して、郭文貴さんは高学歴層ではなく、またかつて中国の体制内で甘い汁を吸っていたとも思われる政商です。たとえ彼が中国共産党の批判者であるとしても、民主化運動のスターとして祭り上げてしまうことに問題はないのでしょうか?

楊:中国の民主化を担う人々の母体は、従来よりも広がりを持つべきであると考えます。天安門事件経験者だけ、知識人だけがその担い手であるとは限りません。郭さんは中国民主化運動の裾野を広げた人であると思います。

中国では改革開放政策以降、民間企業の人々は民主化運動に対してまったくかかわってきませんでした。郭さんはこうした前例を破る、新たな層の参加者だと考えています。

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※楊建利氏。天安門事件に参加後にアメリカに亡命。2000年代にこっそり帰国した際に中国当局に逮捕・投獄されたこともある。現在も言論活動は活発だ。

――郭文貴さんは「爆料」(暴露)のなかで、王岐山や孟建柱の腐敗を徹底的に攻撃するいっぽう、習近平については攻撃していません。なぜでしょうか。

楊:習近平に対して、郭さんは私に直接「中国の法治を推進する人物だ」「策略上、習近平と敵対するのは賢くない」と話していました。私としては、習近平に対する郭さんの期待値は高すぎるのではないかとも思うところはあります。しかし、ある状況のもとでは、一定程度は現実に合わせた振る舞いをしなくてはならないことも確かではないでしょうか。

――郭氏は習近平のほか、前総書記の胡錦濤や、ファミリーが相当に腐敗まみれだったとされる前総理の温家宝も「爆料」のやり玉には上げていないようです。いっぽうで江沢民に対する批判はある。批判対象に対する、郭氏の「シロとクロ」の基準はいったい何なのでしょうか。

楊:まず、王岐山や孟建柱については、郭さんにとっては正面の敵で、彼のさまざまな権利を侵害する明確な脅威であるから、多くの批判がなされるのでしょう。いっぽうで習近平・胡錦濤・温家宝は、それぞれ腐敗してはいるものの、郭さんから見て直接的な敵ではない。

また、党と国家のトップである習近平はもちろん、共青団派のトップである胡錦濤にも、まだ権力がある。さまざまな理由から、習・胡・温の3人は批判の対象から外れているのだと思います。

――ありがとうございました。

後ろ盾がなくなりそう…?

すこし意地の悪いインタビューだったが、元ネタの郭文貴が謎に包まれた人物である以上、質問が厳しい内容になるのは仕方ない。こころよく取材に応じてくれた楊建利氏にあらためて感謝を申し上げたい。

まとめて言えば、中国民主化運動家の一部には、郭文貴の「爆料」の真偽にかかわらず、それが中国共産党に痛撃を与えている事実を高く評価する動きがあるということだ。いっぽう、なんでも喋っているように見える郭文貴は、彼なりに極めて戦略的に叩く対象を絞っている。

その理由が保身なのか、まだ中国国内に存在するなんらかの後ろ盾の意図を受けたものなのかは第三者が知り得るものではないが、「維権」(権利の保全)というきれいごとでは説明できない理由がひそんでいることは間違いない。

むしろ「反共産党」という一事だけを理由に、怪しいパワフル大富豪に対して無邪気にベットしてしまう中国民主化運動の側の姿勢に、一抹の不安を感じてしまうのは私だけだろうか。

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※11月21日、今日も元気にYoutube動画を配信した郭文貴。背景の豪奢な部屋の様子からもわかるように、亡命後も経済面では特に困った様子がない。

もっとも郭文貴や、楊建利氏らが率いる公民力量は2018年の年明けから予期せぬトラブルに見舞われている。

そのキーマンとなるのは、かつて首席戦略官兼上級顧問としてホワイトハウス入りし、公職を退いてからもトランプ政権に一定の影響力を持つとされてきたスティーブ・バノンだ。

元政商・郭文貴や一種の華人ロビイスト集団でもある公民力量はそれぞれ昨年春ごろから、自分たちの政治目的を達成するべく、ホワイトハウスへの影のパイプであるバノンに接近してきた。

郭文貴は昨年1年間でバノンと10回以上会って、独自の新たなネットメディア展開をぶち上げ、楊建利氏ら公民力量のメンバーは昨年11月・12月のバノン来日にそれぞれ同行してなかば秘書のような役割を務めるなど、相当の提携関係を持っていた。

ところが、年初に刊行されたトランプの暴露本『Fire And Fury(炎と怒り)』で、バノンが政権批判を記者のマイケル・ウォルフに対して語っていたことが判明。トランプが激怒し、バノンに対して完全な「縁切り宣言」をおこなったのである。

アメリカでの郭文貴は、かつて中国大陸で党高官たちをたらしこんだように政権中枢への接近を図ったのだが、どうやらトランプ政権があまりにも「斜め上」だったため、上手く行かなかったらしい。

後ろ盾だったバノンが消えたことで、郭文貴の立場は大いに不安定化したと見られ、結果的に彼の暴露におびえる中国共産党の高官たちにとっては非常にありがたい事態が訪れているようだ。

郭文貴は今後も、きわどい暴露をおこない続けることができるのか。筆者の心配をよそに、彼は今日も元気にYoutubeを更新し続けている。

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